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【起業のきっかけは家庭危機】「園児見守りロボット」企画者が、迷走しながら見出した事業の着眼法とは?

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保育園向け園児見守りロボット「MEEBO(ミーボ)」。自動撮影機能を備え、園児の様子を記録できるほか、園児の安心・安全を見守るさまざまな機能の追加が予定されている。

「MEEBO」を企画した土岐さんは、住友商事、コンサルティング会社を経て、2013年にユニファ株式会社を立ち上げた。同社は“家族”をテーマにした事業を展開しているが、そのきっかけは、なんと自身の家庭の「崩壊危機」だったという。

起業に至るまでの経緯、そして「MEEBO」が目指す未来などを伺った。

ユニファ株式会社 代表取締役社長

土岐泰之さん

家族のことで悩み抜いた経験から、家族間コミュニケーションにつながる事業を発案

園児見守りロボット「MEEBO」は写真や動画の自動撮影機能を持ち、園児の様子を記録できるのが特徴。ダンスをしたり、歌ったり、クイズを出すなどして、園児と一緒に遊ぶことができるため、より自然な写真を撮影することができる。撮影画像は日々、同社が運営する写真メディアサービス「るくみー」にアップされ、家族で閲覧したり、購入することが可能だ。

そのほか、気象庁の危険情報発信サーバーと連携を取り、地震予報をアナウンスして園児に避難を促す機能も。ゆくゆくは、サーモカメラを搭載して園児の検温をするなど、「園児の安全・健康を見守るロボット」として活躍が期待されている。

保育業界の人手不足を補完するロボットとして注目を集めているが、そもそもは「家庭内コミュニケーションの希薄化を解消したい。日々アップされる子どもの写真が、家族を集め、家族同士の会話を盛り上げてくれれば」という思いで事業化に踏み切ったという。その背景には、自身が「家族」のことで悩み抜いた経験があった。

「家族のため」に、自身のキャリアを手放す決断をする

土岐さんが新卒で入社したのは総合商社。ITベンチャー投資を行う部署に配属され、以来6年間、同部署で起業や経営のサポートを行ってきた。

「一緒にビジネスアイディアを練ったり、資金繰りに奔走したり…と、スタートアップ企業の“リアル”を体感しました。ビジネスコンセプトや想いに心から共感できる経営者にも、たくさん会うことができた。でも、残念ながらうまくいかない企業もあります。何とかしたかったのですが、入社数年目の若手にできることは限られており、忸怩たる思いでしたね。経営に関するノウハウを身に付け、的確なアドバイスができるようになりたいとの思いが膨らみ、6年で商社を退職、外資系コンサルティング会社に転職しました」

ちょうどその頃、学生時代から付き合っていた女性と結婚、子どもを授かる。妻は、愛知県豊田市の大手自動車メーカーに勤務、東京で暮らす土岐さんとは長年遠距離恋愛を続けてきた。妻は「出産後も働き続けたい」という意思を持っていたが、育児休暇中の1年間は東京に呼び寄せ、新たな生活をスタートさせたという。

プライベートだけでなく、新天地であるコンサルティング会社での仕事も順調だった。大企業の中に入り込み、新しい営業戦略を立てたり、複雑な業務改革を実行するなど力を発揮。入社わずか半年で昇進を果たし、将来を嘱望されていた。

しかし1年後、土岐さんはこのコンサルティング会社を退職する、という選択をする。

「一番の理由は、妻が職場復帰を強く望んだためです。以前から彼女のキャリアを応援していましたし、出産後に職場復帰することにも全く異論はないのですが、私の生活とキャリアの拠点は東京。育児休暇中に東京で1年間生活すればこちらでの暮らしに慣れ、勤務先を辞め東京で再就職してくれるのではないか…という思いが正直ありました。でも、妻の職場復帰への思いは私が想像していたよりもずっと強いものだったんです」

何度も家族会議を重ねた結果、妻の仕事に合わせて土岐さんが退職し、豊田市で就職先を探すということに決まった。周りには驚かれるような選択だったが、この時の意思決定が、後のビジネスアイディア・起業へとつながるターニングポイントになった。

自分にとって一番大事なものは何か、とことん自問自答したんです。その結果、自分の仕事やキャリアも大切だけれど、やはり家族が何よりも大切だと気づきました。せっかく東京で築いたキャリアを手放すのは辛い決断でしたが、妻には結婚前にも、遠距離による擦れ違いなどでたくさん苦労をかけたので、これ以上辛い思いをさせたくなかった。家族みんなが幸せに暮らすためには、こうするしかないと思ったんです」

「現状を打破したい」と起業を目指す中で、自身が追うべきテーマに気付く

家族で豊田市に移り住み、妻は復職、土岐さんは地元のコンサルティング会社に就職した。クライアント企業は地場の中堅企業がほとんどで、経験はフルに活かすことができたが、「このままでいいのか」という思いは日増しに強くなったという。

「自分が希望した道ではない、という思いが強かったんでしょうね。それでも2年間は頑張りましたが、3年目ぐらいから『このままでは後悔するのではないか?』という強い焦燥感に苛まれるようになり、起業を考えるようになりました。ビジネスアイディアは何もありませんでしたし、あてもないが、動かないと何も変わらない。友人を誘って、毎週スカイプでビジネスプランについて話し合う勉強会を催すなど、試行錯誤していました」

ビジネスアイディアはたくさん浮かび、儲かりそうなものもいくつか見つかった。しかし、「自分が手掛ける必然性」がどうしても感じられず、踏ん切りがつかなかった。例えば、太陽光パネルのビジネス案はかなり詳細まで詰めてみたが、「自分が太陽光パネルを手掛ける必然性って?」と自問自答してしまい、どうしても先に進めなかったという。あまりに踏ん切りがつかないため、政治家になろうかと本気で出馬を検討したほど「迷走した」という。そんな時、ふと頭に浮かんだのが「家族」というキーワードだった。

今まで悩み、苦労し、そして今、自分が一番大切にしている“家族”に関する事業であれば、自分が手掛ける必然性があると感じられるのではないか。そう思ったんです。実際、家族をテーマにビジネスアイディアを考え始めたら、どれも腑に落ちた。自分が挑戦すべきテーマだと心から思えました」

園児の健康管理、登降園管理…「MEEBO」を保育園のAIに

家族をテーマに何十個ものビジネスアイディアを考え、絞り込んだのが現在のビジネスの元となっている写真メディアサービス「るくみー」。FacebookやTwitter、LINEなどソーシャルメディアが普及する中で、次は地域単位やコミュニティ単位など「特化型SNS」が出現すると予想。家族型のSNSも注目されるに違いないと考えた。

「夫婦共働きだと、子どもの写真を撮る暇はほとんどありません。でも、子どもの成長記録を取っておきたいと考える人は多いはずです。一方で、保育園ではお遊戯やお散歩など毎日何らかのイベントがあり、その中で日常の写真が撮れれば、パパ、ママ、おじいちゃん、おばあちゃんと、家族みんなが集まるコンテンツになると考えたんです。家族間のコミュニケーション不足が指摘されている今、家族のつながりを再認識するきっかけにもなり得ると思いました」

初めはスマホアプリのみで展開していたが、人手不足の中、保育士の負担を軽減するために考えたのが、冒頭の「MEEBO」。可愛いロボットに自動撮影機能を備えることで、ロボットと楽しく遊ぶ園児の自然な姿を撮影することが可能になった。

現在、「るくみー」は全国700超の保育園や教育施設で導入済みで、利用している保護者は約5万人に上る。「MEEBO」は昨年8月の発表以来多くの引き合いを集めており、現在は20台がテスト運転中だ。

そして「MEEBO」には、さまざまな機能が新たに実装される予定だ。

「2017年中には、サーモカメラを搭載して園児の検温を行い、体温の推移をデータベース化して病気の予兆を察知したり、園児の定量情報を分析して才能を見いだす機能などを搭載する予定。また、MEEBOにはQRコードを読み取る機能があるので、園児が登園したとき、降園するときに楽しみながらMEEBOにQRコードをかざせば、自動で登園・降園管理もできるようになります。このように、家族も園児が楽しんだり安心することができ、かつ保育士の負担を減らし、保育園の業務支援ができるような機能をどんどん追加し、『保育園のAI(人工知能)』的な存在になれればと考えています」

家族が集まり、笑顔になれるサービスを生み出し続けたい

今までを振り返り、土岐さんは「ずっと人生のテーマを探し続けてきた。紆余曲折はありましたが、ようやく『家族』というテーマに気付くことができ、それを追い続けられることがとても幸せ」と言う。

社会が抱える問題や課題は山のようにあります。それを自分の問題として紐づけられた瞬間に、ビジネスアイディアは生まれると思っています。もし今、事業アイディアを探している方がいるならば、社会のさまざまな課題に目を向け、心が動いたものに徹底的に向き合ってみることをお勧めします。そこから自分の追うべきテーマが見つかるのではないでしょうか。私の場合は、家族のコミュニケーション不足、保育士不足という課題と向き合い、今のビジネスアイディアを考えました。妻には相当反対されましたが、『このテーマなら頑張り続けられる』と確信していたので、説得できたんです」

愛知・東京に拠点を置き、土岐さんが行き来する生活を送っているが、今度は妻が、勤務先を退職し、家族一緒に暮らすという決断をした。「離れている時間が長くても家族のことは第一に考えてきましたが、ずっと一緒にいられるのはやはり嬉しい」と笑顔で語る。

「保育園の業務支援を行いながら、家族みんなが集まり、笑顔になれるサービスを提供し続ける。これが私の人生の使命だと思っています」

EDIT&WRITING:伊藤理子 PHOTO:平山諭

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