女性の活躍を通じて社内変革! 多様性獲得を目指す江崎グリコの挑戦

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2016年4月1日より施行される「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」、通称・女性活躍推進法。この法律により、301人以上の労働者を雇用する企業は、自社の女性の活躍状況の把握・課題分析、行動計画の策定・届け出、そして情報公開を行う義務が生じることになります。

やるべきことが多すぎて、何から手をつけたらいいかわからなかったり、とまどっている企業も多いことでしょう。一方で、女性の能力を活用するため、果敢にチャレンジし、模索を続ける企業もあります。

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▲昨年のワークショップの様子

「マイノリティっていうのは、こういう気分だったのか」。

活発に意見を出す女性社員に囲まれ、たじたじになった部長がそうつぶやく……。昨年、江崎グリコ株式会社では男性管理職と女性社員が一緒になって、多様性の意義を実感するための研修を実施しました。女性のほうが参加者が多く、いつもの職場環境とはずいぶん違った雰囲気の中、「何だか落ち着かない」とこぼしていた男性管理職たち。しかし、最後には「これまで見えていなかった女性の能力に気づかされた」と意識改革のきっかけをつかんだようです。変革に取り組み始めたグリコ。社内の様子をグループ人事部の中谷真紀子さんに聞きました。

実は男性社会のお菓子メーカー、部門によっては深刻な女性不足

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▲江崎グリコ株式会社 グループ人事部 中谷真紀子さん

——まず、現在の社内男女比はどうなっていますか。

江崎グリコ単体では、男性が8割と、圧倒的に多いですね。新卒採用における女性比率は4割程度ですが、年度によっては6割の年もあり、平均すると5割弱の傾向です。お菓子メーカーということもあり、新卒採用の段階では女性のほうが母集団は大きいのですが、性別のバランスを維持するという観点や、職種によっては時間や場所の制約を乗り越える環境がまだ整っていないという事情のために今の比率になっています。しかし、グリコとしては、性別や国籍などに捉われることなく、採用活動を推進していきます。そして結果としての男女比率は公表していきたいと考えています。

——女性が多い職種、少ない職種はどのように分かれていますか。

女性が多いのはマーケティング部門、研究所部門、そして、本社の管理部門ですね。これらの部署は新卒採用・中途採用に関わらず応募者自体が多いですから、こちらが積極的に採用することで女性比率は少しずつ上っています。

逆に少ないのは、営業部門と製造部門です。営業部門は、時間や働く場所に制約を受けがちで、それを乗り越える環境が完全に整わない中で管理職になりたいという女性は、多くありません。また、製造部門においては工学系の女性がそもそも少ないため、採用の難易度はとても高いと感じています。

こうした事情から、現在はまだ女性管理職の数も少なく、管理職の一歩手前であるリーダークラスだけでなく、更に若いクラスにまで広げた取り組みの必要性を感じています。

“リーダーとして働く自分”を女性が想像できるように

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▲昨年のマネジメント研修の様子

——その現状を変えるために、社員の意識改革とさまざまな制度の新設・拡充に取り組んでいるとお聞きしています。まず、意識改革はどのように進められているのでしょうか。

昨年は男性管理職と女性の係長クラスに研修を受けてもらいました。これまでも制度の柔軟性向上などの取り組みはやってきましたが、本格的な人材育成や意識改革に着手したのは昨年のことです。まず手始めに女性社員に対して多くのインタビューを行ったところ、その中でいくつもの発見がありました。たとえば、女性管理職のロールモデルが社内にいないから、自分が管理職として働くイメージがわかないということです。

ロールモデルが不在だと、男性管理職の働き方そのままで想像してみるしかありません。「男性管理職はいつも長い時間働いているな。自分も管理職になれば長期間拘束されるんだろうか。私は子どもがいるから、ああいう働き方は無理だな」。そんなふうに考えてしまっていたんですね。

——これまでの男性の働き方にとらわれず、自分なりの働き方で挑戦するということも可能なのではないでしょうか。

そうなんです。だけど、そういう考え方も出てこないのはなぜだろうと疑問に思いました。出る杭は打たれるんじゃないかと萎縮して管理職試験を受けないという人もいます。でも、それではいつまでたっても状況は変わりません。まずは女性自身が、ロールモデル不在でも模索しながらやっていくという気持ちに切り替えてもらえないと。

そこで、女性のリーダークラスを対象にした、リーダーシップを強化する研修を行ったところ、この研修が結構うまくいったんです。30代から50代と幅広い年代の人が参加しました。中にはより大きなステージで活躍する事に対して消極的な社員もいました。その人が最後には「管理職を目指します」と目を輝かせて宣言してくれました。また、年配の参加者が「後輩のために道を切り拓いていきたい」とおっしゃったのも印象的でした。

——それは正直、驚きです。男性管理職しかいない職場で働いていたとなると、そう簡単に意識を変えることはできないように思えますが。

もちろん、あっと言う間に変化が起こったわけではありません。全部で6日間の研修でしたが、ひと月に1回、2日ずつという日程で行いました。最初の月は「いきなり考えろと言われても」という感じで、みんながもやもやしているのがわかりました。それが2回目、3回目となると、期間が空いているおかげで、自分の中で考えを整理することができたようです。

それから、研修の中には、自分の強みを発見できるようなコンテンツも含まれていて、これが効き目抜群でしたね。私たちが使用したのはMBTIという、性格を分類し、自分への理解を深めるというメソッドです。これによって、参加しているメンバー同士の違いが可視化されました。「あ、私たちって、それぞれこんなに違うんだ」という驚きと同時に「ああ、じゃあ私はこれでいいんだ」と自分の特性を肯定的に受け止めることができたんです。それぞれの違いを可視化したことによって、メンバー間の理解が深まり、目に見えない一体感が生まれたのもとても印象的でした。

リーダークラスの社員達は、実務推進の中核としてたくさんの仕事を任されている事が多く、仕事に追われていると、キャリアについてじっくり腰をすえて考えることは、とても難しいんですね。だから、考えるきっかけになるような場を強制的につくることが必要なんだと痛感しました。今年からは対象とする社員の層を押し下げて、若手にもどんどん研修を受けてもらう予定です。女性の場合、結婚や妊娠・出産というプライベートなイベントが起こる前に、キャリアについて考えてもらったほうが、より高い効果が期待できます。

男性管理職が“マイノリティ”となり、意識に変化が生じる

——では、男性管理職のほうはどのような研修をされたのでしょうか。

男性管理職の一部には、「女性活躍」という言葉にアレルギーのある方もいます。「女性が管理職になっちゃダメなんて言ってないのに、だれもならない。そもそもなりたくないんじゃないの」という意見もありました。職場によっては女性メンバーが在籍していないこともあるので、そうなると、ますますピンとこないでしょう。

そこで企業が多様性を担保しようとする意義を共有してもらうために、「ダイバーシティ・マネジメント研修」を実施しました。多様なメンバーで仕事を進めるということはどういうことなのか。たとえば、全員が長時間残業できて、休日出勤ができて、という職場ではなくなるはずですよね。そういう根本的なところから議論して、考えてみるという研修でした。

さらにこのあと、もう一つの研修を男女一緒に行っています。女性社員の研修に出たメンバーと、男性管理職の研修に出たメンバーを男女混合のチームに分け、「2030年のグリコのビジョンをつくる」というものです。多様なメンバーで議論する意義を、より肌身で感じてもらえるだろうと考えての企画でした。この研修に参加した女性は20人ほど。ただ、男性参加者の都合がつかなかった事もあり、1チームに女性が3人、男性が2人という普段の職場とは逆の男女構成比になりました。この構成が、予想もしていなかった化学反応を起こしました。

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▲昨年のワークショップの様子

弊社全体でいうと、1000人を超える社員のうち、女性は2割ほど。でもその研修では、それが逆転し、若い女性がマジョリティ。しかも、女性社員たちは、せっかく男性管理職と一緒に話をするんだからと張り切っていましたね。一方の男性管理職たちも、最初こそ、「何のために集められているんだ」とこぼしたりもしていましたが、彼女たちの熱意にふれるうちに、感じるものがあったようです。最後には「彼女たちの能力を活用しないのはもったいない」「うちの部署にもやっぱり女性の力が必要だよね」と笑顔で話してくれました。チーム分けは異なる部署の人たちが混ざるようにしましたから、「自分のこれからのマネジメントが変わりそうだ」という声もありました。参加した管理職たちの柔軟な姿勢には、こちらが目からウロコでした。

もちろん好影響は女性たちにもありました。普段は圧倒的な経験を持つ管理職にやり込められていると感じていた女性もいたはずです。でも研修のテーマは、2030年のビジョンという、普段の仕事の延長ではなく、もっと思考を遠くに飛ばして知恵を絞るべきもの。だから、いつもより経験の差は現れにくくなります。女性社員と男性管理職がほぼ対等の立場で話すことができたんですね。これは意見を言いやすいという効果を生んだけではなく、他方では管理職の考え方、ものごとの捉え方にふれるきっかけにもなりました。管理職の発言に耳を傾けていると、単に経験が多いというだけではなく、自分たちより高い視点でものごとを考えているんだと感じてもらえたということです。

終わってみれば、男性管理職も女性社員も感想は「楽しかった!」。こんなにお互いに刺激し合える機会は、普段の仕事の中でもそうないでしょう。今年も絶対にやりたい研修です。いかにして男性管理職たちにマイノリティの経験をしてもらうか、一生懸命考えたいと思います。

——確かに、理屈を説明されるのと、体感するのとでは差は歴然でしょうね。

アイデアは内部にこだわらず、“外部”に求めてもいい

——では、次に制度面のお話を伺いたいと思います。

既に導入していたフレックスタイム制度に加えて、去年トライアルを行ったのが在宅勤務制度、そして、これは営業職限定ですが、直行直帰です。どれも、より自由度の高い時間の使い方を可能にする制度になります。

在宅勤務は去年の12月に制度化しました。育児・介護等の事情のある方を対象にしていて、上司がOKを出せば、1週間あたり最大20時間まで可能です。「在宅勤務、便利だね」という声が聞こえてくる一方で、今までとは働き方が違ってくるために、多少のとまどいもあります。まだまだ利用者が少ないので、率先して手を挙げにくいという声も聞いています。フレックスタイム制にしても同様で、ケースを積み重ねていくことで、浸透を図りたいところです。

——まだ様子見の方が多いというわけですね。

はい。ただ、弊社の研究所は比較的女性の割合が高く、約4割が女性なんです。育児との両立をしている社員も多く、トライアルの呼びかけに対しても複数人が手を挙げて協力をしてくれました。他部署よりもスタートが早かったこともあり、上司も同僚も勝手がわかってきて、「在宅勤務、使ってみたら?」という話も自然に出る。そして、みんなもやっているからということで、育児休職から復職した人が自然と申請をしてきてくれる。そんな好循環がすでにできつつあります。

——新しい制度を次々に導入されていますが、そのアイデアは現場の声から生まれてきたものなんですか。

去年のヒアリングで、キャリア採用で入ってきた人たちの声を聞けたのは大きかったですね。実は在宅勤務に関しても、もともと社内に構想はあり、検討も進んでいました。キャリア採用の女性社員が「前職ではあったんだけど、使い勝手がよかったからうちにも入れられないかな」と言ったことがその動きを一気に加速させてくれたと感じています。「ベビーシッターの補助がほしい」とか、「出張のときに託児できる仕組みがほしい」とか、まだグリコにないサービスであっても、うまく制度化している企業はありますから、外からの意見がとても重要だと感じます。逆に「グリコのこの制度って、すごくいいのにあんまりアピールできてないよね」ということも見えてきますね。

外との接点ということでいえば、これも去年から始めた活動ですが、ダイバーシティ・マネジメントを支援するNPOの1年間のプログラムに、社員を2人派遣しています。100社を超える企業から300人弱の女性が派遣され、グループディスカッションやテーマ活動を通じて、女性の活躍を推進するためにどうすればいいのかを考えるというものです。こういった活動は、外部からノウハウを取り込むことができるだけでなく、社内では乏しい女性管理職のロールモデルにふれる貴重な機会にもなっています。今年から、ダイバーシティ西日本勉強会にも参加し、他社で活躍する女性たちとのネットワークができてきました。

——ロールモデルも制度の考案も、すべてを内製化しなければいけないわけではないですからね。視野も広がりそうです。

社内だけだと、女性のリーダークラスは20人程度。集まって話をしても、メンバーが固定化され、新しい話も出てこなくなります。外部の人たちにふれた社員が持ち帰った知見を、どうやって社内の女性たちに還元していくか、試行錯誤しているところです。

変革を目指すのは、多様性が重要な時代だから

——そもそも、グリコがこれだけ意欲的にさまざまな変革に取り組めるのは、なぜなのでしょうか。4月1日の女性活躍推進法施行を目前にしても、行動を起こせない企業というのは少なくないはずです。

誤解のないようにいうと、私たちは「女性を増やす」ということにこだわっているわけではありません。優秀な人材は性別に関係なく採用したい。その障壁になるものがあれば、それを取り除き、よりよい環境にしていきたい。女性活躍推進法に関しては、行動計画で女性管理者比率を明示しようかという話もありました。でも、下駄をはかせて女性だけを優遇するような印象を与えてしまえば、男性社員もやる気をなくしますし、女性社員としても不本意でしょう。管理職比率を掲げるのではなく、新卒採用において「これまで通り国籍や性別に関わらず採用活動を実施していく。その結果としての男女比率を公表していく」という考え方で臨んでいきたいと考えています。

私たちの行動力の源は、経営トップを含めて、新しいことを取り入れていこうという思いが共有されていることだと思います。私たちは2020年に向けて、非常にストレッチな目標を掲げていて、達成のためには変革が不可欠なんです。お菓子業界に限らず、メーカーそのものの既成観念が通用しない時代になってきているのではないでしょうか。

——終身雇用で安心して働ける。ちょっとのんびりしていても、一握りの天才がいつかヒットを生み出してくれるから焦らずとも大丈夫。少し前まで、メーカーに対してそんなイメージを抱いていた人は少なくないかもしれませんね。

私は、個人の力ではなく、皆で協力し合い、新しいことを見つける時代になっているのではと感じます。グリコがダイバーシティを重視しているのも、そのためでもあります。男女問わず自立して、自分はこうなりたいというキャリアを、それぞれが選べるような環境を整備できれば、きっと組み合わせの力を最大限発揮できる会社になれるはずです。

せっかくずっと働きたいという強い意欲を持った女性が入社してくれても、ライフイベントによる変化に対応できる職場環境が整っていないと、こんなにもったいないことはありません。将来の中枢になるであろう今の若手、未来の社員のために、どう道を作るか、土壌を作るか。今の勢いをゆるめることなくチャレンジしていきたいですね。

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江崎グリコ株式会社 グループ人事部 北山 登さん・中谷真紀子さん

後編「タクシー会社、ロボットメーカー かつての“男性社会”で必要とされている女性の力」に続く

文:唐仁原 俊博

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