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【昂! 男子ケータイ小説部】男たち、進化したケータイ小説を読んでキュンキュンする!

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ここは新宿のある酒場。2階にある秘密の小部屋が彼らの部室だ。引き戸を少し開けば侃々諤々(かんかんがくがく)、テンションも音量も上がり気味のトークが溢れ出してくる。

「伏線だらけ! 伏線のバイキングや」
「白坂さんの策略は読めなかった!」
「マンガでは原作のオチが1ページ目に!」

“彼ら”とは――。TS 男子ケータイ小説部である。メンバーは20代、30代、40代のT&S編集部員3人。2016年3月、編集部内に「男子少女マンガ部」が創設された。活動内容は、auのブックパスで配信される少女マンガを読み、男子ならではの視点と価値観を発揮して語り倒すこと。……なのだが、時に『ドラえもん』を大人目線で読んで涙したり、『シティハンター』から真剣にモテ要素を発掘したり、臨機応変に部の名称も読む対象も変えながら語り合ってきた。そして今回はなんと! ケータイ小説。

実は「日本ケータイ小説大賞」なる賞があり、今年で10回目を迎えるらしい。おりしも、その大賞作が決定。タイトルは『はちみつ色の太陽』。で、この作品『りぼん』&『マーガレットBOOKストア!』でマンガ化もされたのだ。こりゃもう読んでもみるしかないのである。

『はちみつ色の太陽』
主人公は蜂谷美月。ある秘密のせいで、3年前に夢をあきらめた高校2年生。ひょんなことではちみつ色の髪をした学校一のモテ男・日下部陽の秘密を知り、それをきっかけに彼氏彼女のフリをすることに。噛み合わないふたりは少しずつ距離を詰め、本当のカップルみたいに……。でも、実は日下部陽にはもうひとつ秘密があり、そしてそれは美月の「あきらめた夢」とも関わっていて……
カバー・本文イラスト/たしろみや

男たち、初めてのケータイ小説に戸惑う

30代N(以下30)「ケータイ小説って健在だったんだなあ。知ってた?」
20代H(以下20)「知ってますよ、『恋空』とか。調べてみたら、アレもう10年前なんですよね」
40代T(以下40)「めちゃめちゃ流行ってたよな。映画化もされて、ガッキーかわいかったなぁ」
20「今回読んだのはケータイ小説大賞の受賞作ですね。今年で10回目で、主催は毎日新聞社とスターツ出版、TSUTAYAが協賛。『りぼん』『マーガレットBOOKストア!』にKDDIが特別協力というかたちでついていて」
40「ちゃんとしてるなあ」
20「そうなんですよ」

30「オレ、色々と発見があって面白かったよ」
20「どんなです?」
30「小説で横書きっていうのはまあ最近見なれてきたからさておき、人物とか情景とか行動の描写が、もうやたらと懇切丁寧なのよ」
40「あぁ、そうだよね。省略してもわかるようなところまできっちり書いてる」
30「たとえばこういうくだりとか」

 ところどころ脱色しているのか、朝日に照らされ、はちみつ色に輝く髪は誘うように風をまとった。
 スラリと伸びた長い脚は机から無防備に投げ出され、180センチはあるだろう身長のせいで、なんとなく窮屈そうに見える。
 二重まぶたの黒目がちな瞳に、筋の通った鼻筋、薄い唇、頬杖をつき、頬に添えられた指は男の子らしい骨っぽさがあるのに細く長くとても繊細で。
 瞳を縁取る長いまつ毛は、女の私からしたらうらやましいことこの上ない。

©Link/スターツ出版

20「日下部 陽くんの初登場シーンですね。いやあ、カッコイイ。カッコよさの権化ですね」
30「もっと整理して端的に書くこともできる。でも学園一のモテ男が教室に現れた描写なんだから、”整理”とか”端的”っていうのは違うんだよ。むしろ全力で興奮を伝えるというか……」
40「そうか、落ち着いて観察して描写してたら『この子、こんなにカッコイイんだよ!』みたいな気持ちは伝わってこない」
30「だよね。で、気付いたわけ。これはケータイ小説だから、書き手にとっても読者にとっても、大事なのは”共感”なんじゃないかと。端的にクールに書くよりも、荒削りでも盛って盛って形容するほうがリアルなんじゃないかって」
20「それってブログに近いかもしれませんね。アイドルちゃんがその日のできごとをこと細かく語ってくれるのは親しみがわきますし」

40「あと、わかりやすさにもすごく気を遣ってる」
30「そうそう。たとえばこの小説は基本的に主人公の美月の視点で描かれているんだけど、ところどころで日下部陽の側から見た描写があって、そこには【陽side】って書かれてる」
20「多くの小説では、いちいちそうは書かないですよね。マンガなら、誰のセリフか、誰の考えてることかは絵ですぐにわかるじゃないですか。小説ではそれをやるために『これから陽が思ったことを書きますよー』って宣言してんだと思います。わかりやすいし、きちんとドキドキする用意もできました」
40「いわゆる作家先生の高尚なお考えを世に問う! じゃなくてさ、同世代の子たちが『ねぇ、ちょっと聞いてよ〜』的に同じ目線で語り合うっていう……そういうところを含めて、ケータイ小説の流儀なのかもね。だから妙なリアリティがある」
30「そこを見誤らなければ、オッサンもケータイ小説を存分に楽しめると思う(笑)」

大賞受賞作『はちみつ色の太陽』のみどころを探る

©たしろみや/スターツ出版

20「このお話、いろいろなことがありますよねー。主人公たちの秘密もひとつだけじゃないし、人気者の陽の親衛隊との対決はあるし、ライバルの策略はあるし、スポーツ対決はあるし……」
40「伏線だらけだしね。伏線のバイキングや」
30「猫も出てくるしね。……ミィちゃん」
40「あのミィちゃんのネーミングも伏線だったのには驚いた。すごいサービスだと思う」
20「ちょっと読みどころをあげていきましょうか」

■人気者・日下部くんの秘密①

 芸能人と言っても違和感のないほど整ったその容姿は、老若男女、誰が見ても一度は見惚れてしまうほど極上だった。けれど、肝心の日下部くんは神様からもらったその容姿を振りかざすこともなく……。
(中略)星の数ほどある女の子たちからの愛の告白を、今日までことごとく断り続けていた。
 日下部くんに泣かされた女の子の話は、1年中あとを絶たない。

©Link/スターツ出版

20「そんなクールな日下部くんが、学校の中でこっそり猫を飼ってるという」
30「序盤から怒涛だよね。猫に甘い声を出してる日下部くんを偶然見つけた美月がその場で倒れて、なんとお姫様抱っこで保健室まで運ばれるところをみんなに目撃されて……」
40「彼女でもないのに特別扱い受けたらみんなにひどい目に合わされるから、ニセのカレカノになってくれっていう序盤。超強引なところがいいよね(笑)」
20「なんか最近の少女マンガとかケータイ小説の傾向として、最初から付き合う→関係を深める、っていうのが一般的らしいですよ」
30「時代は変わったものだね……。オレの時代は付き合うまでがストーリーだったのに。おかげで現実に付き合ってからのイメージが全然わかなくて、苦労したよ……」
20「30さん、『愛してる』って言えない世代ですもんね(笑)」
30「合ってるけどうるさい」

ミスタークールガイのはずの日下部陽くんが猫といちゃいちゃしている声を聞き、ヒロインの蜂谷美月はなにかとんでもないことをしているのかと勘違い。一方、超恥ずかしいシーンを聞かれた日下部くん、「全部、聞いてたのか!?」で壁ドン
©たしろみや/スターツ出版

■対決! 日下部親衛隊

 ドンッ!!と、予想外にも、突然勢いよく身体を押されて、私は上手に受け身をとれず、その場に盛大に尻もちを突いた。
 とっさに伸ばした両手のひらは、冷たいリノリウムの床に鈍い音を立ててこすれ、ヒリヒリとした痛みを残す。
(中略)
「あんたみたいなブスが、陽様に近づいてんじゃないわよ!!」

©Link/スターツ出版

40「途端に、美月と陽が付き合ってるって噂になって、さっそく”日下部親衛隊”がやってくるという(笑)
30「美月のこと”ブス”とか、日下部くんは”陽様”って、セリフもすごい」
20「ちゃんと各所に配慮しないと、学校では実際にこういう目に遭うんですよね。少女マンガと違うのは、いじめのシーンでのインフレが起こってないところ。ムチャクチャないじめ方じゃない。でもそのぶん、リアリティがあります」

40「一方で、美月が履いてるスリッパで親衛隊のアタマをスパーンって張って啖呵を切るっていう山場も用意してる」
30「そのスリッパを語るのに『これでさっきトイレも行っちゃったけど、もうたたいたあとだから、それは言わないでおく』って書くあたり、すごく女子のリアルトークっぽい」
40「学校一のイケメンにちょっかい出して……出してないけど、それでいじめられて、でもめげずに立ち向かうっていうフレームはテッパンの様式美でもあるね」
20「今年のケータイ小説大賞のテーマが、”史上最強の学園ストーリー”なんですよ」
30「オッサン的には、誰もが知ってる最強のテッパンフレームと、”今の子っぽい解釈”の組み合わせの妙がお楽しみポイントになると思う。『なるほど、そこからそう展開するのか』って素直に感心したところが結構あったもん」

■悪魔の策略で美月の秘密発覚

 その瞳の周りは長いまつ毛で縁取られ、陶器のような白い肌によく映えるピンク色の唇は、きれいな弧を描いて私に微笑みかけている。
 ほんのりと、淡い桜色に染まった頬。
 そこには、正真正銘の天使が立っていた。
(中略)
「ごめんね、蜂谷さん……でも私、陽くん以外の人は考えられないの」
 いやいや、ちょっと待ってよ。
 私ってば、もしかして今、ライバル宣言をされてるの?
 よりにもよって、学校一の美少女に。
 ミジンコの私に、リアル天使がライバル宣言?

©Link/スターツ出版

20「美月ちゃんはやっかみ半分で、2学期のスポーツ祭委員に選出されますね。夏休みにガンガン学校に行かないといけないキツイ仕事で、日下部くんも水泳の授業を完全にサボった罰で委員を任されると。……急接近じゃないですか!」
40「で、そこに学校一の美少女、白坂さんの登場。一見いい子なんだけど、色々と波乱を起こす」
30「史上最強の学園ストーリーとしては、この手の性悪キャラは絶対必要だよね」
20「いや、白坂さんって登場シーンですでに美月に対してボソッと”疫病神”ってつぶやいたりしてるし、黒い部分を隠す気ないですよね(笑)」
30「でも、白坂さんの策略は読めなかった! 花火大会でデブルデートするシーン」
40「あれは、ちょっとした叙述トリックだね。誰が誰を好きで、誰が何を諦めるか。俺、ああいうロジック好きだな。で、陽が美月の体の秘密を知り、傷ついて泣きだした美月と急接近する……」
30「ちょっと複雑な人間関係の描写とか恋の策略って、少年マンガにはなかなかない醍醐味だよね。女子って普段こんなこと考えてんのか。スゲーな! って思っちゃう」

美月の体のことでちょっとしたトラブルになり、ショックを受ける美月。結果、助けに来た日下部くんと手をつないで街を歩くことに。すべて白坂さんの策略のせい(おかげ)
©たしろみや/スターツ出版

■人気者・日下部くんの秘密②

「……なんで、なんでだよっ! お前、あんなに水泳が好きだったじゃんかっ!! それなのに……いまだに、過去に縛られてんのかよっ!! ふざけんなよ……っ!!」
「……っ」
「また、逃げんのか!? あの時みたいに―― あの夏みたいに、また、俺たちから逃げるのかよ!?」

©Link/スターツ出版

20「日下部くん、中学時代の同級生に責められてますね。ふと過去の水泳のことを尋ねるんだけど、水泳は日下部くんのつらい過去につながると……」
30「このやりとりを聞いてた美月は気が気じゃないよね」
20「なんで日下部くんは水泳の授業だけいつもサボってたのか、っていうことがここで明らかになります」
40「オレこのあと、美月が親友のミドリに”(日下部)陽くんのことどう思ってる?”って聞かれるシーン好き。答えていくうちに、自分自身の気持ちに気づくっていう」
20「それで、なんとか力になりたいと思って日下部くんに尋ねるのに、かえって心を閉ざされてしまうっていう……キツイですよね。”関係ないヤツが……興味本位で、踏みこんでこようとするな”みたいなこと、好きな男に言われて」
40「オレもキツかったよ……。せっかく進展しそうな時に、オマエはなんばいいようとか! って思った」
20「それもう完全に少女のメンタリティですね。気持ち悪いですけど」
40「父親目線のメンタリティと言ってくれ」

後ろのビート板に乗っているのがミィちゃん。美月と日下部くんはそれぞれ自分の気持ちに気づき、「嘘はやめよう」とニセのカレカノ関係に終止符を打つ

©たしろみや/スターツ出版

■スポ根要素

 あと、数メートル。
 あと、少し。
 あと、本当にわずかな差で。
 お願い、神様……っ!!
(中略)
「……っ、日下部くんっ!! がんばれっ!!!」
 ミドリの声をさえぎり、私がそう、声を張りあげた直後。
 今日一番の歓声が学校中に響いて、日下部くんの姿が……
 太陽に照らされて輝いていた、はちみつ色の髪を――黒く染めた、日下部くんの姿が。

©Link/スターツ出版

20「クライマックスはスポーツ祭です。本来は委員なんで、美月と一緒に教室で横断幕を見張ってないといけないはずの日下部くんが、なぜか姿を現さない。ホントはバスケに出るはずだったのに、そこにもいない。で、どこにいったのか……燃えるシチュエーションですね」
30「実はもう学校には来ていて、で、出場するのはバスケじゃなくて……。スポ根的要素もあって、この作品、ホント盛りだくさんだわ」
40「やっぱり”史上最強”って謳うだけのことはあると思うよ。志村けんが昔『ベタなほうがお客さんは安心して楽しめる。でも、ちょっと裏切ることが大事』って言ってた」
20「実はスポ根パートがトドメなのではなくて、もう1個2個、さらにクライマックス的なものをぶっこんできますよね」
30「そこらへんも型にとらわれない感じがして良かった。変なかっこつけ方をしないで、”あとね、それからね”って話が続く感じもリアルな女子トークっぽくて楽しめたよ」
20「……でも30さん、いつもボクが”あと”とか”それから”とか言うと怒るじゃないですか」
30「いや20の場合、仕事の報告に、内容ととりとめとまとまりがないだけだから。全然違う話だからね」

『りぼん』誌上でマンガになって気づいたこと

たしろみやさんによるコミカライズ。冒頭は美月が中学時代、有望視されていた水泳部時代のシーンからスタート。美月の秘密が早々に明かされるのだ。

©たしろみや/スターツ出版

20「で、この『はちみつ色の太陽』、たしろみやさんによる80ページのコミカライズ作品にもなってます」
40「驚いたね」
30「驚いた」
20「原作のオチを1ページ目から描いてきてますもんね」
40「最後まで伏せてきた美月の秘密を、ストーリーの中心に据えてる」
30「結果、ホントにすっきりしてる。ニセのカレカノ状態の設定がないから、性悪美少女の白坂さんも登場しない」
40「猫も出てこない(泣)」
20「美月と日下部くんの関係性が完全に変わってるんですよね」
30「冒頭で水泳に打ち込む美月の魅力的な姿をキチンと描いたから、それを諦めなきゃいけなくなった辛さもしっかり出てる」
40「オレ、読みながら、なんで日下部くんはこんなにも美月にグイグイ接近してくるんだろうって思ったんだけど、その理由もちゃんと納得できたよ」
30「だからこそ、一気に関係が発展しちゃうわけですけどね」

日下部くんの肩を借りて美月がうたた寝。すると近くで偶然花火大会が。花火を見上げるふたり。このあと日下部くん、原作では考えられなかったような行動に出る
©たしろみや/集英社

40「80ページで、原作の雰囲気がすごくうまくいかせてるんじゃない?」
30「水泳×学園ラブストーリーに一本化されたね。当たり前なんだけど、マンガって、その時に何を考えていたとかどんなふうに思ったとか、全部セリフに書くわけじゃないじゃん? ケータイ小説版ではそこのところも、全部ちゃんと書いてたんだなあってことを改めて気付かされた」
40「それで小説版では表現にみっしりした感じがあるのか……」
30「”私はこういうふうに思ったので、こうした”みたいな正解が必ずセットになってるから、読む方は迷うことなく導かれていくような感覚。なんというか、感情を力づくで揺さぶられるみたいな」
40「それは、感受性の鈍ったオッサンたちには”濃い”かもねえ」
20「40さん、ぼんやり生きてますもんね」
40「合ってるけどやかましい」
30「でも、たまにはいいと思うんだよ。強引にグラングランさせられるのって。凝り固まった脳の筋肉をほぐしてくれるはずだから」
20「そうですかねえ」
30「なんだよ?」
20「ボクは、やっぱり単純に面白かったっすよ!」

電子書籍とコミカライズ版、どちらもau「ブックパス」で

大賞受賞作Linkさんの『はちみつ色の太陽』の電子書籍と、たしろみやさんによる80ページのコミカライズ作品は、ともにブックパスで読めます。

気になった方は、ぜひともチェック。年に1度は感情をグラングランにされてみてはいかがでしょう。

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ブックパス 日本ケータイ小説大賞

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