マンション建替え[2] 「こんな住まいにしたい」の調整が大変

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マンション建替え[2] 「こんな住まいにしたい」の調整が大変

前回、決まった建替え推進決議。建替え推進委員会は20名ほどでスタート。新築時から住み続けてきた方、法人の代表の方、弁護士や建築士の方もいた。これは心強いと思ったが、なかでも長年住み続け理事を経験されてきた方たちの実行力が素晴らしかった。そして忘れてならないのは、管理員のFさんの存在だ。いろいろな場面で彼の知識が役に立った。【連載】私の「マンション建替え」経験談

「マンションの老朽化」が話題になる昨今、マンションの建替えという問題が切実になってきている。どんな問題が起こり、どんな方法で解決していくか。具体的な例を知る機会は少ない。今回はマンション管理士の資格を取り、築50年の自宅マンションの建替えを経験した筆者が5回にわたってプロセスをお伝えします。

・第1回:マンション建替え[1] 仮住まいのはずが…建替え推進メンバーに

狭い、古い、危ない等々…切羽詰まった状況になっていた

そもそも「建替え」という事業は、新しい建物に住んでみて、みんなが満足できることが目標だ。そのためには新しい建物がどんなものになるかが大きなポイントになる。幸い、敷地には余裕があったので、今より広い住まいに「自己負担金なし」で住めるという説明は聞いていた(※)。

※昨今のマンション建替えは、容積率の問題などで自己負担金のかかるケースがあり決議がスムーズに行かないことが多い

建替えの理由が「各住戸の狭さ」と「エレベーターなどの設備がない」、「配管等の老朽化」、そしてなんといっても「耐震性の問題」だった。「約40m2という空間は家族で住むには狭い」、「最上階に住むお年寄りは足が悪く買い物に行けない」、「共用部分の壁に剥落があった」等々、急いで解決しなければならない問題が起こっていた。「近いうちに来る」と言われる首都圏の地震の問題も待ったなしの状態だった。

以前から理事会の方々が、それらの対策は話しあってきたようだったが、推進委員会に参加してみて初めて聞くこともたくさんあった。「今は元気だから階段の昇り降りは苦ではないが、10年後はどうだろう」、「剥落した壁が落ちてきたらどうしよう」など。自分の問題としても、老朽化や設備の不具合は差し迫った問題になってきた。

後から聞いた話だが、管理員のFさんはお年寄りに代わって買い物に行ってあげていたという。狭い住まいなので、家族は同居できずに別のところに住んでいた。その代わりに何くれとなく目を配ってくれていたのがFさんだ。修繕や清掃など、団地内をくまなく管理してくれていて、建物の具合や住民の状況を把握していた。誰よりも「建替えの必要性」を感じていたのは、実はFさんではないかと思う。

緑を残したいという願いに「総合設計制度」という方法を選択

余っている容積を使って建物を建てた場合、どうしても敷地いっぱいに建てることになる。つまり長年、住民が愛してきた自然豊かな環境が残せない。近隣の方たちも、この団地の緑に愛着を持っていてくれていた。当時の緑をなるべく残しつつ、住環境をバージョンアップするために選んだのが「総合設計制度」だ。

「総合設計制度」とは、敷地内に歩行者が自由に通行できる空地(公開空地)を設けることで行政の許可を得て、容積率や建物の高さの制限を緩和してもらえる制度だ。高さ制限の緩和を受けることで、建物を高くする分、提供公園や公開空地をつくれて、道路や隣地からはかなり距離を取って建物を建てることもできる。そのかわり、行政との折衝やさまざまな届出の必要はあり時間と手間がかかるが、住民も事業者もこの方策を選んだ。

結果的にこの方策は良かったと思う。東西南北どの方向にもかなりゆとりができた。元々の道路に加えて歩道状空地をつくることで、建物は実質2階高くなったが圧迫感は軽減されたと思う。実際、私の部屋からの眺めも以前の住まいとあまり変わらない。方角は変わったが、周囲の建物との距離感は確保できた。

絶対ゆずれない条件、それは「免震」という工法

「建替え」の目的の一つである地震に対する不安。それに対しては「免震」という構造を取り入れてもらうことになった。「耐震」、「制振」、「免震」といろいろ検討したが、「たとえ工事費が多少高くなっても、大地震が来たとしても安心して暮らせる建物にしてほしい」というのは住民全体の願いだったかも知れない。

建替え推進委員会が始まったときから、すでに「免震」にするということは、ほぼ決まっていた。「建替え基本計画案」をつくっていくうえでも構造は大切なことだ。早い段階で住民の希望がそろっていたことは大きい。

重要な住戸の向き。みんなが納得するために取り入れたポイント制度

逆に大変なのは住戸配置だった。元の住まいは、全戸が南向きという贅沢な配置。容積率を満たすには他の方角の部屋もつくらざるを得ない。もともと断熱がきかず、冬の寒さが堪える住まいだったので、住民のなかには「南向き」にこだわる人が多かったが、こればかりはあきらめるしかなかった。

そこで工夫を凝らしたのは、新しい住まいを決める方法だ。限られた住戸に人気が集まりすぎたら、「建替え」自体が頓挫する。人気を分散させるために、不動産鑑定士、販売会社数社の外部の人に依頼して、客観的に新しい住戸にポイントを付けてもらった。

向き・階数・広さなどの条件から、販売時の価格差をポイントにあてはめれば、住民にとって負担分も分かりやすく希望住戸がばらける。もともと持っていた住戸もポイント化し、新しく選ぶ住戸が自分のポイントより高くなると差額を支払い、持分より低い住戸を選ぶと差額を受け取る、という仕組みだ。それぞれの家族構成や経済状態に合わせて選ぶことになる。

当然、新しい南向きの住戸は他の部屋よりポイントが高い。だがふたを開けてみると、希望住戸は思っていたよりばらけた。さらに、複数回アンケートを取っていくうちに、希望が重なる住戸は減っていった。どうしても希望が重なる住戸は抽選になったが、最終的にはみんなが満足できる住まいを手に入れることになったようだ。

大切なのは、客観的な評価とていねいな対応だ。自分たちでポイントを決めるのではなく、外部のプロや販売の評価を採り入れることで、公平な住戸選びが可能になる。また何回もアンケートを取ることで、重なっていた希望を他の住戸に回してくれる人も出てくる。住戸選びがスムーズにいくことは「建替え」成功への大きなポイントなので、手間も時間もかける必要があるだろう。

次回は建替え“推進”決議から、「建替え決議」にたどりつくまでの住民同士のなかでのコンセンサスの取り方について触れたい。さまざまな事情と背景を持つ住民同士が、どうやって心を一つにしていくかというプロセスである。●参考

・東京都総合設計許可要綱
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