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強制起訴

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 東京電力の原発事故に関係して、その元会長らが検察審査会の起訴決議を経て、指定弁護士により起訴されることとなった。検察審査会法は平成16年に改正されたのだが、それまでの検察審査会による議決には、起訴相当、不起訴不当、不起訴相当の議決しかなく(これらは今もある)、起訴議決はなかった。
 しかも、それらの議決は(前二者)検察官について、起訴処分に対する法的拘束力はなかった。

 ところで、余談であるが、「起訴相当」と「不起訴不当」はどこが違うのだろうか。
 検察官には起訴するか不起訴とするかの二者択一の権限しかなく、「起訴相当」と「不起訴不当」は表裏の関係にしかなく、同義ではないかと不思議に思ったことがある。
 そのとおりであって、これは議決に賛成した審査員の数による区分なのである。検察審査会は11人の審査員で構成されているが、起訴すべきとの意見にその8人以上が賛成すれば「起訴相当」となり、8人未満で6人以上が賛成すれば「不起訴不当」となるだけである。検察に対する非難の程度は、前者が重いということになる。

 さて、平成16年の改正前までは、先に書いたように、起訴相当議決や不起訴不当議決をしたところで、起訴処分に関して法的効力はなく、検察官も検察審査会の議決に拘束されるものでもなかった。その結果、検察審査会はほとんど意味のない制度ではないかと言われることもしばしばあった。
 そこで、そのような批判を受け、また刑事司法の民主化という世間の流れもあって、検察審査会法が改正され、「起訴議決」つまり強制起訴制度が付加されたのである。

 しかし、一応法律の専門家である検察官が、事実関係や証拠関係をふまえて、上司の決裁も受けて不起訴としたもの、つまり刑事裁判を維持することは困難であると考えた事件について、検察審査会が強制起訴をすることにそれほどの合理性があるのは疑問である。
 その良しあしは別として、検察官の起訴事件の有罪率はかなりの数値を示している。これに対して検察審査会による強制起訴での有罪はいまだ2件しかなく、その有罪率ははるかに低いものである。
 どうも、世論に迎合して結論を出している、審査会構成員こそが法的知識に乏しいのではないかと思う今回の議決である。
 というのも、マスコミ報道に接しただけであるが、多くのマスコミの一致した報道によれば、元会長らの責任問題は、業務上過失致死傷となるのは当然で、この核心は被告人らに過失を認めることができるかどうかであるところ、これが認められるとの根拠に、刑法で議論されている過失理論の「不安感説」や「危惧感説」が挙げられていることからの思いである。

 不安感説とか危惧感説というのは、簡単にいえば、物事にあたり不安や危惧を感じた場合やそのような客観的状況にあれば、当然に注意義務が課され、結果回避のための措置を講ずべきであって、その措置を講じないことで過失が認定されるという考えである。
 ざっくりといえば、自動車運転について、運転すれば事故が発生するかもしれないことは客観的に明白である、だから措置を講ずべきである、それは運転しないことであるとの結論となる説なのである(もちろんそれを回避する別理論もあるが)。

 当然ながら、実務上も採用されていない説である。
 マスコミ報道が正しいとすれば、そのような説に依拠して強制起訴とすることは大問題である。また、被告人とされて裁判を受ける者の負担もどれだけ考慮されているのかも分からない。
 将来無罪とされた場合に、いかなる形で責任をとることができるのだろうか。

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強制起訴

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