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空からメールが届く日 ―陸・海に続く新たな災害対策の取り組み

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飛来した無人航空機を検知して、孤立した被災地のサーバーが通信を開始する。上空を旋回しながらデータを受信した無人航空機は、メッセージを乗せてインターネットに接続できる場所へと向かっていく――まるで伝書鳩を思わせるような電子メール配送システムの実証実験が、2月25日、埼玉県の旧毛呂山高等学校グラウンドで公開された。

報道陣に公開された実験の様子

「陸」「海」で進められてきた災害対策の取り組みに「空」を加えて

5年前の3月11日。東日本大震災では、地震と津波とその後の停電が、通信ネットワークをずたずたに切り裂いた。東北6県で1,933局のau携帯電話基地局が停波し、携帯電話は通話も通信もできなくなった。

地震と津波から逃れる被災者にとって最も切実なのが、「安否確認」だった。震災時、自分の状況を知らせ、家族や知人の連絡を待つため、被災者の方々は財布や重要書類よりも携帯電話を持って避難したという。また首都圏でも、交通機関の乱れにより帰宅難民となった人々による通話の集中で「輻輳」(回線のパンク状態)が発生し、通話もメールもつながりにくい状況が発生した。

「何よりもまず携帯電話を持って避難する」というお客様の期待に応えたい。震災から5年、通信を途切れさせないためのさまざまな取り組みを、KDDIは進めてきた。

電力会社から供給される電力に加えて、基地局に設置した太陽光発電と蓄電池の3つの電源を利用する「トライブリッド基地局」は2016年3月現在で約100局、役所や主要駅など災害時の防災拠点となる場所約2,000カ所については、基地局バッテリー24時間化により「停電でも止まらない基地局」を実現している。

また、東日本大震災の時も活躍した「車載型基地局」については、2013年から4G LTE対応車両の導入を開始。震災以降加速したスマホシフトで、連絡手段が通話やメールだけでなく、LINE、Facebook、Twitterなど多様化したことに対応し、輻輳の影響を受けにくいデータ通信回線をいち早く復旧できる体制を整えた。

だが、それだけでは十分ではない。震災時、津波で大きな被害を受けた沿岸部のエリア復旧はなかなか進まなかった。その理由のひとつに、被災地まで行くための道路も被災していて、陸から車両が近づけなかったことがある。

この苦い教訓を受け、KDDIは海上保安庁と協力して「船舶型基地局」の実用化に向けた実証実験を進めてきた。海上の船舶に可搬型基地局を設置して沿岸部にエリアを形成する仕組みは、2012年の広島、2014年の鹿児島での実証実験を経て、沿岸部でのエリア復旧に威力を発揮することを確認。まもなく実用化される予定だ。

しかし、陸上からの車載型基地局にせよ、海上からの船舶型基地局にせよ、災害発生から派遣までには時間がかかる。また時間が経っても陸路でも海路でもたどりつけない「孤立地域」が発生する可能性はどうしても残る。「無人航空機によるEメール配送システム」は、この穴を埋めるものだ。これまで進めてきた「陸」「海」の取り組みに、新たに「空」からの取り組みが加わった。

災害に強いネットワークを構築すべく、「陸」「海」「空」の各分野においてKDDIグループ全体で対策が進められている

「伝書鳩」のような電子メールの仕組みを逆手にとって実現

今回公開された「無人航空機によるEメール配送システム」は、孤立地域にいる被災者からのメールを、無人航空機に搭載したメッセージ集配装置に回収し、物理的に移動することで、インターネット接続が可能な非孤立地域にあるゲートウェイ経由で配信するというもの。

無人航空機によるEメール配送システムの仕組み

KDDI研究所 アクセスネットワーク部門長 竹内和則

位置づけとしては、発災後から、ある程度復旧が進み可搬型移動基地局や船舶型基地局が利用できるようになるまでのあいだに、最低限の安否確認を可能とするための仕組みとなる。

「電子メールはネットワークが常時つながっていなくても通信できる、という特性を生かして、無人航空機が伝書鳩のように、孤立地域からインターネット接続できる場所までメールを運んで行くシステムを考えました」と、KDDI研究所の竹内和則は説明する。

孤立地域にいる被災者は自分のスマホに専用アプリをインストールして、Wi-Fiでメッセージ保管装置のサーバーに接続する。すると臨時メールアドレスが発行され、メールを作成して送信することができるようになる。「送信」されたメールは、メッセージ保管装置のサーバーに一時保管される。

メッセージ保管装置は「被災者向けアクセスポイント(Wi-Fi)」「小型サーバー」「対無人航空機通信装置(Wi-Fi)」と、これらを動かす電源から構成される。

孤立地域用のメッセージ保管装置。実用化時には、小型のアタッシェケースに上記機材をセットにしたコンパクトなものを公民館などに常備しておく形を想定する。セットアップ開始からメールの送信(一時保管)ができるようになるまではおよそ30分程度だ

専用アプリを利用してメールを送信する。添付ファイルも送ることができる

メール配信用の無人航空機には、小型サーバー地上向け通信装置(Wi-Fi)が搭載されている。孤立地域の上空に無人航空機が到達すると、地上のメッセージ保管装置が検知して自動的に2.4GHzを使い接続を開始する。

「地上用には、上空に飛来する無人航空機と安定した通信を確立するために、上向きに指向性のあるアンテナを新たに開発しました」(竹内)

赤い箱の中に記憶媒体としてSDカードを搭載したボード型サーバーとWi-Fi通信ボードがセットされている。なお、マルチコプターの機体は市販機で、通信用のアンテナとメッセージ集配装置を固定するアタッチメントは独自に開発した

公開されたデモでは、約50m上空でホバリングするマルチコプターとのあいだで通信が行われ、メールのデータがメッセージ集配装置に転送された。前日の実験では150m上空との通信にも成功している

メールを回収した無人航空機が非孤立地域に設置されたメッセージゲートウェイ上空に到達すると、メッセージ集配装置とメッセージゲートウェイがWi-Fiで接続され、メールのデータが転送される。メッセージゲートウェイからは、通常のメールと同様に、メールサーバー経由で宛先に配信される。

メッセージゲートウェイはインターネットに接続されており、メールをメールサーバーに向けて送出する。送られてきたメールは普段使っているメールアプリで確認できる

非孤立地域から孤立地域にメールを送信する際は、逆のルートをたどることになる。すなわち、孤立地域宛てメールを一時的にメッセージゲートウェイで保管し、無人航空機のメッセージ集配装置で回収して孤立地域上空からダウンロードする。

孤立地域を自動巡回して1日数時間のメール運用を可能に

当日公開された実証実験では、狭いグラウンド内で離陸、孤立地域でのデータ取得、非孤立地域でのデータ送出のデモができるよう、無人航空機にはマルチコプターを使用したが、実運用ではもっと航続距離が長い固定翼の無人航空機を使用した運用も想定している。

2時間程度の航続時間の無人航空機が、約20km離れたところから飛び立ち駆けつけて、点在する孤立地域を自動巡回してメールを回収し、メールゲートウェイに送信。逆に、孤立地域宛てのメールをメールゲートウェイから回収して、自動巡回しながら孤立地域に配送して回ることができる。

システムの稼働時間はバッテリーの容量によるが、発電機などと組み合わせて、無人航空機の巡回スケジュールに合わせて毎日数時間程度のメール送受信タイムを設定するなどの運用で、完全な孤立を防ぐことができるだろう。

なお、孤立地域で発行された固有メールアドレスは、最後に接続した場所のメッセージ保管装置とひもづけられ管理されている。避難所を移動した場合は再度その場所のメール保管装置に接続することで、所在地が更新される。

「空からのメール配信」の技術的な検証は進んでいるが、災害時の実運用には航空法にある「目視外飛行の原則禁止」に対する例外として認められるための要件の検討など、法的な整備が必要だ。

5年前のあの日、連絡のとれない家族を探すため、傷つき疲れた身体で避難所の壁に貼られた名簿を一心に見つめ、瓦礫の中を長時間歩きまわった被災者の方が大勢いた。たった1通のメールで居場所を知らせ合うことさえできれば、どれほど安心できたことだろう。

今回の実証実験は、総務省の電波資源拡大のための研究開発「無人航空機を活用した無線中継システムと地上ネットワークとの連携及び共用技術の研究開発」の一環として行われたものだ。2016年3月で一度区切りを迎えるが、KDDI研究所ではWi-Fiを含む無線通信技術の向上に取り組んでいく。

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