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5人の子をもつ母が語る、わたしが沖縄・離島へ移住したわけ

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沖縄本島からフェリーで約1時間北上。伊是名(いぜな)島がある。人口約1600人の小さな島だ。この島に昨年末に東京から移住してきた大家族を取材した。伊是名村では定住促進事業として、古民家の復元・修復を進めており、家賃3万円で移住する家族を募集していた。これに応募したのが伊藤さん一家。育ち盛りの子ども5人を抱えての移住、さぞかし苦労が多かったのでは……。

移住決定後に伊是名島を地図で確認した

沖縄の離島、それも那覇から車で約2時間の運天(うんてん)港から、さらにフェリーで約1時間かかる「伊是名島」。沖縄のルーツ、琉球王朝をつくった「尚円王(しょうえんおう)」の生誕の地でもあり、手つかずの自然が残る風光明媚な島だ。それだけに昔ながらの集落が残され、伝統行事も重んじられ、沖縄の中でも特別な島と言える。しかし、移住する前、伊藤さんは伊是名島どころか、沖縄に一度も訪れたことがなかったという。

【画像1】伊藤さん家族が住む「伊是名集落」のそばにある伊是名ビーチ。沖縄でも有名なビーチで夏には多くの観光客でにぎわう(写真撮影:伊藤加奈子)

【画像2】伊是名島に近づくと三角錐のような山が見えてくる。伊是名グスク跡だ。手前に広がるのは、日本の渚100選に選ばれた「伊是名二見ヶ浦海岸」(写真撮影:伊藤加奈子)

「夫とよく、テレビの旅番組を見て、沖縄っていいね、一度行ってみたいし、住めたらいいね、と話をしたことはありましたが、伊是名島には縁もゆかりもありません。それどころか、移住の応募をするまで伊是名島がどこにあるのか知らなかったんです。応募してから、どんな島なのかネットで確認しました。やっぱりコンビニはないのねと(笑)」

田舎への移住となると、旅行で訪れたことがある、友人がいるなど、なにかしらきっかけがあるものだ。しかし沖縄の離島暮らし、それも古民家なら一度は住んでみたいと思うもの。実際、伊是名村が移住者を募集したところ、SNSで瞬く間に拡散され、1週間で閲覧数は100万件を超えたという。しかし、現実的に離島に移住となれば、憧れだけで決断できるものではない。実際の応募は25組で、審査対象になったのは8組だったそうだ。

今回の入居は2組で、そのうちの1組が伊藤さん家族だ。伊藤さんが募集した理由は、離島暮らしへの憧れでも、古民家に住まうことでもなかった。伊是名島では大声で笑い、広々とした庭で遊び回る子どもたちだが、移住前に住んでいた東京での暮らしは、決して楽しいものではなかったと言う。

移住の理由は「子どもの笑顔のため」

「子どもが5人もいれば、毎日が戦いです(笑)。部屋の中で飛び跳ね、けんかもします。隣近所に申し訳ないと思いながらも、子どもを静かにさせるのには限界があります。移住前は、肩身の狭い思いもしましたし、気を遣いすぎて人付き合いにも疲れてしまいました。何よりも子どもたちから笑顔がなくなっていくのに耐えられなくなって」

伊是名島への移住は「もちろん、自然のなかでのびのびと育てたかったし、子どもたちが島の暮らしで学ぶこともあるだろうという想いもあった」と伊藤さんは言う。長女(12歳)を筆頭に下4人は全員男の子。わんぱく盛りで大人しくしなさいというほうが無理というもの。

【画像3】移住した古民家の縁側に学校から帰った子どもたちが集合。右から長女(12歳)、三男(5歳)、四男(3歳)、伊藤さん(30代)、次男(9歳)の大家族。長男(10歳)は恥ずかしがり屋で、撮影にも飽きてしまい、どこかへ行ってしまった(写真撮影:伊藤加奈子)

伊藤さんは夫の仕事の都合で、東京都北西部の町を何度か引越しをしている。最後に住んだ都営住宅では、子どもたちが家のなかで遊んでいると、上下左右の部屋からクレームが頻繁にあったそうだ。隣人も「子どもだから仕方ない」と思っていても限界だったかもしれない。でも、伊藤さん一家も息をひそめて生活するわけにもいかず、東京での生活は精神的に限界を超えていた。

さらに周囲の環境にもなじめず悩んでいた。特に長男は転校した学校が合わず、「あんなにいつも元気だったのが、しゃべらないし、笑わなくなってしまったんです。いじめがあったわけではありません。カウンセリングも受けましたが、ただただ環境に合わなかったんだと思います。人で苦労するより物で苦労する方がいい、と言ってくれた知人の言葉も後押しになりました」

【画像4】庭が広く、隣家とも程よい距離感があり、子どもたちは誰に気兼ねすることもなく遊び回る。次男が乗っている壁は、古くから沖縄の住宅にある「ひんぷん」。道路からの視線をさえぎり魔物が入ってこないという言い伝えがあるもの。子どもにかかれば、どんなものでも遊び場になってしまう(写真撮影:伊藤加奈子)

伊是名村の移住募集を知り即応募、とにかく必死だった

引越そうと決めた矢先、夫から、伊是名島で復元した古民家に住む移住家族を募集しているという話を聞かされた。2015年10月に2軒の古民家の復元・修復が完了し、伊是名村は「定住促進事業」の一貫として、古民家に移住する家族を募集したものだ。

「もう即決です。締切ぎりぎりだったのですが、思いの丈を書いて応募しました。夫は東京での仕事が残っているため、私と子ども5人だけ先に移住すること、生活は夫からの仕送りで賄えること、子どもたちとも島の行事やイベントに参加して、島の文化や伝統も学んでいきたいこと、とにかく思いつく限りアピールしました」

「伊藤さん家族の状況は理解していました。ただ、仕事はどうするのか、東京出身とのことで島の不便さは大丈夫なのかといった点は心配でした。でも応募動機などから、伊藤さんの真剣さが伝わり、島として、役場として、支援できることはしていこうと決断しました。時折、様子を見に行きますが、子どもたちが元気で何より。島の子どもよりもわんぱくかもしれません(笑)。子どもたちの笑顔を見たら、伊藤さん家族の移住を決めてよかった」と伊是名役場の上地史修さんは話す。

伊藤さんに移住決定通知が届いたのは2015年の10月末。そこからあわただしく荷造りや引越しの手続きをはじめ、子どもの学校が冬休みに入るのと同時に、伊是名島へ。

学校が楽しい! 高校進学で島を出ても「戻ってくる!」

「いろいろと考えている余裕はなかったし、東京から離れて、子どもたちがのびのび暮らせるんだと思ったら、ものすごいパワーが出ました。行かないでと言ってくれる友人もいましたが、私に迷いはありませんでした。荷物はコンテナひとつにまとめました。引越し費用はだいたい30万円ぐらいでしょうか。島で必要な車は沖縄で購入することにしました。大変だったのは、荷物を先に送らなければならなかったので、何もない部屋で数日間過ごさないといけなかったことぐらいですね」(伊藤さん)

沖縄・那覇空港に到着後、そのまま北部の港に行き、コンテナをフェリーに積み替える。島に到着したら、荷ほどきが待っている。「ああ、これが沖縄の古民家なんだ、素敵だな~」などと感慨にふける間もなく、子どもたちは遊び放題、伊藤さんは片づけに追われた。

実は、フェリーが島に到着したときに、長女が転入する中学校の女生徒が迎えにきていたそうだ。古民家の前でも家族の到着を待っていてくれた。長女は、島についた瞬間から「島の子」になった。島には中学までしかないので、高校では島を離れることになるが、「高校卒業して、たとえ東京に行くことがあっても、絶対島に戻ってくる」と言っているそうだ。東京の学校に馴染めなかった長男は、「学校が楽しい!サッカーも続けられたし、すごく気に入った!」

【画像5】左:島のサッカークラブに所属している長男(写真右)は逃げ足も速い(笑)。右:この日はあいにくの天気で外は寒かったが、誰ひとり家の中に入らず庭で駆け回る。いわゆる「子ども部屋」はない。宿題だって庭のテーブルで片づけてしまうのだ(写真撮影:伊藤加奈子)

物価は東京の2倍!? 島の生活は、一筋縄ではいかないと実感

あわただしく始まった伊是名の古民家暮らし。最近ようやく落ち着いてきたという。生活が始まれば、気になることがいろいろとでてくる。

「とにかく物価が高くて驚きました。物によっては東京の2倍。例えばティッシュペーパー5箱で500円とか。やはり離島なのでモノの運搬費がかなりかかるんですね。これじゃ生活できない!と思ったのですが、集落の方と共同購入を始め、今は1週間分まとめて注文してフェリーが到着したら受け取りに行っています。ひと月の生活費はだいたい15万~16万円で納めるようにしています。半分は食費ですけどね(笑)」

予想外だったのは、物価だけではなく、実は古民家暮らしそのものにもあった。沖縄は常夏と思われているが、冬は日照時間も少なく、風が吹き抜けると体感温度はぐっと下がる。伊藤さんの住む家は「古民家の復元・修復」という事業でもあるため、水まわりなどの設備は最新のものが取り入れられているが、断熱材などは使用していないため、隙間風も入ってくるし、相当寒さがこたえたという。電気代は思いのほか高くついてしまったようだ。

それでも違和感なく古民家に住めるのは、伊藤さんの小さいころの思い出と重なるからだと言う。

「小さいころ、8歳から15歳まで父方の祖父母の家に住んでいました。その家が昔の日本家屋で和室の部屋が続いていて、土間もありました。ここに住んでいて使いづらいとか、暮らしにくいとか感じないのは、きっと祖父母の家の記憶があったからだと思います」

沖縄の冬は経験したが、このあと梅雨、台風、夏の暑さも待っている。古民家暮らしは丁寧なメンテナンスも求められる。しかし伊藤さんに不安はまったくない。

「この古民家に住めるのは5年、最長で10年ということですが、できるだけ長く住みたいと思っていますし、島から出ていくつもりもありません。東京ではずっと子育てしていましたから、もし東京に戻っても仕事がないんじゃないかなと思いますし。4月に下の子どもが幼稚園、保育園に入れば、パートタイマーで働けたらとも思っています。島にも慣れてきたので、集落の行事やイベントにも参加したいとも思っています。うちの子どもたちにできるか分かりませんが、島の伝統を担う役割もあると考えています。とにかく、伊是名に移住できたのは、私にとっては最良の選択だったと思っています」

沖縄の古民家は一番座、二番座、裏座など間取りが独特だ。伝統行事のための大きな床の間や、先祖を祀る仏壇もかなり大きなスペースをとっている。ウォークインクローゼットなど十分な収納スペースがあるわけでもない。決して現代風の間取りではないのだ。しかし、子ども5人の洋服やおもちゃが部屋中に散らかることもなく、仏壇スペースを整理棚代わりに活用したり、裏座をストックルームにしたりと工夫して生活している。家の外には子どもたちの自転車が「のびのびと」置かれている。移住して約2カ月。すでに違和感なく、伊藤さん家族の日常がそこにはあった。

【画像6】伊藤さんの住む古民家は防風林が残されている。こうした風景は、島から消えようとしている(写真撮影:伊藤加奈子)

【画像7】修復ではなく復元。すでに元の古民家は取り壊されて、元の所有者が畑として使っていた。復元に当たっては、村に現存する設計図などを元に再現された(写真撮影:伊藤加奈子)

【画像8】島は湧き水が豊富で井戸がある家が多い。バケツを使っての汲み上げは大変だが、今も使えるという(写真撮影:伊藤加奈子)

【画像9】子ども5人の洋服は「仏壇」置き場にワイヤーカゴを設置して整理整頓(写真撮影:伊藤加奈子)

●取材協力

伊是名村役場
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