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【舌対音感】第5回:須永辰緒【俺が愛したローカルフードたち】

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「旅をしない音楽家は不幸だ」という言葉を残したのはモーツァルトだが、では、旅する音楽家の中でもっとも幸せなのは? それはやはり、その土地土地ならではの旨いものを味わい尽くしている音楽家ではないだろうか。そこで! ライブやツアーで各地を巡るミュージシャンたちに、オススメのローカルフードや、自分の足で見つけた美味しい店を伺っていく連載企画。

第5回は、今年DJ活動30周年を迎えた、DJ/プロデューサーの須永辰緒さん。日本全国47都道府県をくまなく回る須永さんは、酒場通・ラーメン通としても知られています。今回は自らの足でDigしたオススメの街や酒場をたっぷり紹介いただきました。

話す人:須永辰緒(Sunaga t Experience)

Sunaga t Experience =須永辰緒によるソロ・ユニット含むDJ/プロデューサー。 DJとして東京、大阪でレギュラー・パーティを主宰し、DJプレイでは国内の47都道府県をすべて踏破。欧州からアジアまで海外公演も多数。MIX CDシリーズ『World Standard』は10作を数え、ライフ・ワークとも言うべきジャズ・コンピレーションアルバム 『須永辰緒の夜ジャズ』は15作以上を継続中。国内から海外レーベルのコンパイルCDも多数制作。多数のリミックスワークに加え自身のソロ・ユニッ ト”Sunaga t Experience”としてアルバム4作を発表。多種コンピレーションの監修やプロデュース・ワークス、海外リミックス作品含め関連する作品は延べ200作を超え、2015年11月にはDJ30周年記念パーティも開催された。日本一忙しい”レコード番長”として知られている。

戦前スウィングみたいな店は、足を使って探さないと

──今日お話を伺っている笹塚ボウルは、須永さんが中心になって行っているチャリティ・イベント「吉田類と仲間たち」が開催されている会場でもあります。

「東日本大震災で被害を受けた東北の酒蔵の復興を目指して一献傾けるというイベントです。吉田類さんを真ん中にして酒縁でつながったミュージシャンやDJと一緒に、我々酒呑みにできることは、楽しく笑って酒を呑むことだけだ、という類さんの想いのもと、これまでに8回開催しています」

──日本全県でDJを行ったという偉業も成し遂げられた須永さんですが、やっぱり地方に行く時には、その土地の酒場をめぐったり、美味しいものを食べたりすることがモチベーションのひとつになってるんでしょうか?

「まあ言ってみれば、それがメインみたいなものですから(笑)。僕の場合はレコード屋めぐりっていう楽しみもあるんですけど、地方に行ったら自分で勝手に放浪してDig(=探索する)する癖があるんで。一人でブラブラ酒場に行っては外してみたり、いい店に当たって喜んだりしてます。もちろん地元のオーガナイザーがアテンドしてくれる場合もありますが、酒場といってもいろんなジャンルがあるでしょ? たとえば一口にジャズと言っても戦前のスウィングからモダン・ジャズ、クラブ・ジャズとかいろいろあるわけじゃないですか? 酒場に当てはめるとするなら、クラブ・ジャズ系はわりとネットやガイドブックにも出てるから探しやすいけど、さすがに戦前スウィングみたいな店はほとんど情報がないから、足を使って探さないといけない」

──戦前スウィングにしても録音状態がボロボロだったり、ただ古いだけで面白みもない場合もありますしね(笑)

「まあ、そういう店に雰囲気を味わいに行くっていう楽しみもあるんですけどね。かと思えば、モダン・ジャズのように佇まいのキリッとした、上野の〈シンスケ〉や秋田の〈酒盃〉のような昔ながらの居酒屋があったり。だから、どれがいいかとは一概に言えないけれども、好きな店はたくさんありますよ」

店主が拡声器でメニューの説明を…

──では、酒呑み的にお気に入りのお店を、いくつか教えていただけますか?

「なかなか思い出しにくいんで、南から北上していってもいいですか?(笑)。九州だと、やっぱり鹿児島と福岡は、酒呑みのパラダイスですね。鹿児島には天文館という日本屈指の歓楽街があるけど、どこに入っても何を食べてもたいてい美味しい。天文館のあたりなら5、6軒ははしごしますね。もちろんDJの仕事前ですけど、僕はあぶさんタイプなもんで飲まないと力が発揮できないんです(笑)。天文館では、黒豚のしゃぶしゃぶの〈寿庵〉も美味しかったですね。福岡は、以前は行きつけの屋台があったけどそこが閉店しちゃって。その代わりに、最近は若い子がやってる面白い店が増えてきてる。うどん酒場だったり、イタリアン、フレンチ、和食、寿司屋……と、毎回行くたびに新しい店が出来てて。たとえばもつ焼の〈BUTABARA〉や炊き餃子の〈池田商店〉なんかは普通に美味しいですね」

──古くて味のある酒場だけじゃなく、新しいお店もDigされてるのがすごいと思います。

「最近だと、広島に〈そらや〉っていういい立ち飲み屋が出来てましたね。駅から程近くにある、松江出身の若い人がやってるお店なんですけど、珍しい日本酒もずらっと並んでて。2日連続で行ったんですけど、刺身のメニューが全部違うのがすごい。この間はヤガラなんかも出てきましたからね。それでも、1人前で刺身400円ぐらいという良心的な価格で。広島にもこんなお店があるんだ?って感動しました」

──中国地方もよさげな酒処がわんさかありそうですよね。

「山陰地方でいうと、思い入れがある街は松江。昔から何度も行ってる街なんですけど、もともとクラブらしいクラブすらないところだったです。そこからマメに足を運んで、松江のクラブ・シーンを作っていったという自負はあります。松江といえば〈宍道湖七珍(しっちん)〉。スズキ、ウナギ、モロゲエビ、シジミ……と、美味しい魚介が揃ってるんですが、その七珍を中心に出す〈川京〉っていう居酒屋があって。この店が面白いのは、親父さんが毎回、拡声器を持ってメニューの説明をしはじめるんです。息子さんがミュージシャンされてるそうで、大学を卒業してからミュージシャンになるまでの話も説明してくれる。僕は今まで7回ぐらい行ってるんですけど、毎回同じ説明聞いてます(笑)。ここで必ず飲むのは焼酎のシジミ割り。焼酎をシジミの出汁で割ったものなんですが、酒呑みって自分に言い訳したいじゃないですか(笑)。鳥取では〈まる金〉っていう寿司屋さんが印象深いです。ここの息子さんは偶然にも東京渋谷にあるクラブの「organ bar」でDJやっていたそうで。ここで食べたカレイの子まぶし、あとはモサエビの塩焼きは美味しかったですね。モサエビは頭ごとバリバリ食べられて、味噌がみっちり詰まってて最高でした」

酒場へ行くためだけに、日帰りすることも

──大阪や京都以外で、近畿地方でオススメの店は?

「和歌山も面白い街ですね。必ず行くのは〈いろは劇場〉っていう魚料理が美味い居酒屋。そこの刺身のバリエーションには感動しましたね。あと、ちょっと変わり種でいうと〈うなぎつり 大阪屋〉。そこは釣堀なんですが、釣り糸を買って自分でうなぎを釣るんです。釣ったうなぎはその場で捌いて焼いてくれて、持ち込んだ酒で一杯やれるっていう」

──お酒持ち込みっていうのもすごいですね。

「釣り糸にも何種類かあって、300円の釣り糸はあきらかにティッシュを撚って糸にしたようなもので(笑)。値段によって強度が高くなってくるんですけど、300円の糸では、まず釣れるわけないんですよ。だけど地元の若い子は子供の頃その300円の糸で釣ったことがあるそうで。親父のあの苦虫を噛み潰したような顔といったらなかったです!って言ってましたね(笑)。他にもスマートボールの店なんかもあったりと、和歌山は昔ながらの良さも残るいい街ですね。隣の三重では、こないだ四日市に行ったばかり。キンミヤ焼酎で有名な宮崎本店の酒蔵も見学させてもらって。もともと宮崎本店は〈宮の雪〉という日本酒をはじめ、みりんやウイスキーも作ってるメーカーで。いろいろ試飲させてもらって酒呑み冥利に尽きる1日を過ごさせてもらいました。その宮崎本店の社長に教えてもらったのが、酒場〈うま安〉のカツオの塩切り。カツオを塩漬けにして熟成させた、へしこみたいなものなんですけど、これがエラい美味しくて。ひと切れで軽く日本酒一合いけちゃいます」

──その土地土地でしか食べられない料理や珍味に出会えるのも大きな楽しみですよね。

「そうですね。地方に行くと食べたことないものや、聞いたことのない料理を食べるようにしてるんです。あと、その土地でしか採れない地野菜で飲むのもいい。地野菜で美味しいところといえば高知と鳥取。生野菜に地元のなめ味噌みたいなのをつけてバリバリ食べるだけでも、本当に美味しくて感動しましたね。和歌山には湯浅醤油っていう有名なメーカーがあるんですが、そこで作ってる金山寺味噌も野菜につけて食べると美味しいです。あと仙台のほうでよく食べられるのが、根芹。居酒屋行くと、根芹を使ったセリ鍋っていうのがあって。葉っぱじゃなくて、茎と根っこの部分をしゃぶしゃぶにして食べる。これが美味しいんですよね。秋田の〈酒盃〉にはじゅんさいのかやき(貝焼き)っていうのがあって、ホタテの貝で小鍋仕立てにした料理がありますね」

──野菜を肴に飲めるというのは、身体にとっても嬉しいように思えます。

「あと、忘れちゃいけないのが宇都宮の〈庄助〉。僕は栃木県出身なんですが、庄助は名店中の名店です。こないだも庄助に飲みに行くためだけに、湘南新宿ラインに乗って日帰りで行ってきました(笑)。何を食べても美味しいけど、この時期だったらオススメはきのこ鍋。出汁も他のものが入ってない、きのこだけで取ってる。栃木や福島のあたりでよく食べる乳茸っていうきのこがあって。切ると白い汁が出るから乳茸っていうんですけど、それを鍋に入るとポルチーニ茸みたいなすごい香りが出てくるんですけど、おつゆも素晴らしく美味しくて。山のもので美味い料理を出してくれるお店は貴重ですね」

──こうしてお話を聞いてるだけで、地方の酒場をめぐってみたくなります。もちろん今回語っていただいた以外にも、オススメの街や酒場もあると思うんですが、たとえば、初めて訪れるような場所で、いい酒場を掘り当てるコツみたいなものはありますか?

「それはね、やっぱり経験値しかないんですよね。たとえば暖簾のくたびれ具合とか、サッシ扉の感じとか、なんとなく気が利いてなさそうな感じとか、気になるポイントみたいなものもあるけど、いい店には必ず入ってみたい何かがあるんです。それでも、地元の人がオススメの店に案内してくれた時に、ここかよ? こんなところでいいの?って感じても、実際に入ってみたらものすごい美味しいお店だったりすることもあるから、一概に自分の経験値だけでは計れない部分もあるんですけどね。やっぱり酒場にずっと行ってないとわからない、その感覚を磨いていくしかないんです」

撮影:松木雄一 撮影協力:笹塚ボウル


書いた人:

宮内健

1971年東京都生まれ。ライター/エディター。『バッド・ニュース』『CDジャーナル』の編集部を経て、フリーランスに。以降『bounce』編集長、東京スカパラダイスオーケストラと制作した『JUSTA MAGAZINE』編集などを歴任し、2009年にフリーマガジン『ramblin’』を創刊。並行してイベントのオーガナイズ、FM番組構成/出演など、様々な形で音楽とその周辺にあるカルチャーの楽しさを伝えている。 Twitter:@powwow

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