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第5回:TOKYO ARTBOOK FAIR ディレクター 中島佑介氏(後編)

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アート界のトキワ荘

―その後恵比寿に移られたのですよね。

早稲田のテンポラリーショップを1年半ほど続けたのですが、ギャラリーの展示があるときには全部撤収しなければならないので結構大変で(笑)。
物件を探していたときに偶然今の恵比寿の建物を見つけたのです。実はもう5年間も空き家のままで、オーナーも建物を壊して土地を売りたいというような状況でした。不動産屋さんで賃貸募集していたわけではありませんでした。そこで当時この物件の隣にあった酒屋さんに連絡先を教えてもらい、直接オーナーさんにお願いしました。

最初は貸す気はないとのことだったのですが、オーナーさんが元々文化的な活動に興味を持たれている方で、本屋をやるということに関心を持ってくれて、貸していただけることになりました。ただし1棟まるまるが条件と言われ、さすがに全部を自分たちだけで借りるには大きすぎるので一緒に入ってくれる仲間を探すことになったのです。そうしたところイラストレーターの山本祐布子さんと写真家の若木信吾さんが入ってくれることになり、一棟まるまる借りられることになりました。

―アート界のときわ荘みたいな話ですね。(笑)

いや、本当にうまくいって。今でも空きがでると自分たちで次に借りる人を探したり、まるで管理人のようなことをしています(笑)。

―内装も本当にいい雰囲気ですね。

あるものを活かしたり、ただ白く塗っただけなんですけど。元からあるものを活かせばいいのだという考えで自分たちで内装も手がけました。

―まさに”Less is More”ですね。場所も住宅街でちょっとわかりにくいところにあって。写真家の長島有里枝さんが『背中の記憶』(講談社文庫)の中にも、恵比寿でlimArtに行こうと探しまわったエピソードが載っていますね。
恵比寿という街を選んだ理由は何かあったのですか。


実は恵比寿は当初全く考えていなかったのです。西麻布にあった知り合いの古道具屋さんが恵比寿に引っ越すことになり、その内装の様子を見にいった帰りにたまたまこの建物を見つけました。

出版社単位で本を紹介するということ

―中島さんっていつも偶然いいことがいっぱいありますね。
お店の名前がlimArtからPostに変わった経緯を聞かせてください。

limArtでは古書をメインに扱っていて、そのセレクションが面白いと言ってくれる方も多かったのですが、どうしても自分自身が興味あるものばかりになり、個人的な本棚のような、良くも悪くも偏ったセレクトになってしまいました。それは本屋としてはどうなのかな、というジレンマが自分の中にありました。それとだんだん新刊も徐々に面白い本が増えてきていたので扱っていきたくなったのですが、当時のlimArtでそれを始めるのは、今までのお店のラインナップとは上手く合わないので、どうしようかと思っていたところ、2011年に代々木ヴィレッジという施設のデザイン監修をしていたワンダーウォールの片山正通さんから「施設の中に文化的なものを作りたいので本屋やらない?」と誘っていただいたのです。

スペースがコンテナという、小さなスペースだったので、その場所でお客さんが飽きのこない物は何かと考えたときに、本を全部入れ替えていくことを考えました。次に、毎回出版社を決めて、出版社という単位で本を紹介するのがいいのではないかと考えたのです。普通の人は本を買う時、あまり出版社は意識しないものですが、出版社という単位で本を紹介していけば、自分の関心の無い本も紹介できるということになります。そうして代々木で始めました。

―その後恵比寿に集約したのですね。

わざわざ両方のお店を行き来してくださるお客さんが多かったのと、自分も恵比寿と代々木を掛け持つのはさすがにきつくなってきて(笑)、2013年から恵比寿のlimArtをPostにしました。

―出版社を選ぶポイントはありますか。

海外は出版社によってかなりカラー、出している本の傾向があります。出版社の規模の大小より、カラーがはっきり出ている出版社を紹介するようにしています。

本を直接手にとるこ

―中島さんが今後やっていきたいことは、どんなことですか。

いい本が見せられる場所、イベントとか、お店とかで直接手にとってもらえる場所をもっと増やしていきたいです。やはりアートブックはネットだけでは、魅力を伝えきれないと思うので。本の面白さ、魅力をもっと多くの人に知ってもらいたいですね。

―最後に一番お気に入りの1冊を教えてください。

個人的にはなるべく蔵書しないようにしているのですが、この本は手元においておきたいと思い残している本があります。
自分が本屋をやろうと思ったきっかけにもなったのですが、
60年代から90年代のアーティストが作った、本の展示会があったのですが、そのカタログです。アートブックがひたすら表紙とともに解説してあって、自分にとっては夢のような本なのです。

―まさに中島さんの原点のような本ですね。有り難うございました。来年も東京アートブックフェア、楽しみにしています。

<プロフィール>

中島佑介

1981年生まれ、長野県出身。株式会社リムアート代表取締役

学生時代にワタリウム美術館の『onSundays』にて古書について学ぶ。
卒業後の2002年、共同経営者の廣田佐知子とともに早稲田の『ラ・ガルリ・デ・ナカムラ』内に古書&インテリアショップ『limArt』をオープン、のちに恵比寿に移転。
2010年12月には代々木VILLAGE内に『limArt』の姉妹店にあたる『POST』をオープン。
『limArt』では現代美術の企画展示と古書の取扱いに特化し、
『POST』では、海外の出版社にフォーカスを当てた書籍を取扱い、定期的に出版社ごと商品を入れ替えるという独自のラインナップを展開。
2013年より恵比寿の『limArt』に『POST』を統合。
2015年よりTHE TOKYO ART BOOK FAIRの共同ディレクターに就任。

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