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橋爪功 隙を笑われる小さな人間の色っぽさこそ喜劇

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 いまも演劇集団円に所属し代表もつとめる役者の橋爪功は、舞台だけでなく映画やドラマ、ナレーションなど幅広い活躍を続けている。山田洋次監督の映画に出演した時の体験について語った橋爪の言葉を、映画史・時代劇研究家の春日太一氏がつづった週刊ポスト連載『役者は言葉でできている』からお届けする。

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 橋爪功は山田洋次監督の最新作映画『家族はつらいよ』に主演している。どこにでもありそうな家族に巻き起こるトラブルを綴った山田調喜劇で、橋爪は日常空間から抜け出してきたような等身大の老人を演じた。

「人嫌いじゃなれないんだ、等身大の人間っていうのは。普段、いろんな場所で、人間観察っていうと大げさだけど、あらさがしをして一人でほくそ笑んでたりね。あのおっさん、うちに帰って大丈夫なのかな、とか。出来損ないが好きなんですよ、まあ、自分も含めてだけど。こういうバカがいるだろうっていうのを見事にやってみたいなって、いつも思っています。

 舞台で自分より人間としての等身の大きい役をやる時は、気持ちの動かし方が違います。激しく頭もハートも動かさないと追いつかない。だからって、今回のような等身大の役が簡単にできるのかっていうと、そうでもなくて。誰にでも一番わかりやすいから、その分だけ一番『違う』って言われる可能性もある。

『こんなのはいネェよ』と思われたら、おしまいだからね。そこのさじ加減には神経を遣いますよ。

 だから今回も山田監督に『橋爪君、今のはちょっと違うな』って言われると『あっ、ばれたか』って。『ああ、オーバーだったな』って、自分でも思ってるわけだから。『僕が演じた周造という男なら普段はこういう顔はしないだろう』っていうのをついついやってしまう。『俳優・橋爪功』の意識が出てしまう時があるんです。

 そういう時、山田監督はすぐに気づかれますね」

 おどけたり、転んだり。そうした喜劇的な芝居も楽しげにチャーミングに演じている。

「舞台でも、僕はもともと喜劇的なパートが多かったんですよ。なにより笑われる役が好きだった。漫才のボケ側が頭を叩かれて『アホか、おまえは』ってあるでしょう。そういう感じでお客さんに受け止めてもらえると『やった!』って思えるんです。

 でも実際に演じるのは難しい。ボケ側って、つっこまれた後で言い返すじゃないですか。その反抗がどこか隙のある反抗じゃないと駄目なんだ。相手を完璧にやりこめるような反抗だと、喜劇ではダメなんですよ。一ヵ所突かれると、ガタガタっと崩れ落ちるような、どこか脆さのある反抗のしかたじゃないと。

 隙のない人間、隙のない芝居は喜劇的な人物とは違ってくる気がする。青臭い主張をするんじゃなくて、隙があってそこを笑われて、初めて存在そのものを許してもらえるっていう、セコいところで生きている小さな人間の色っぽさ。喜劇ではそういうものを絶えず考えます。

 でも一方では、小憎らしいとか、小賢しいとか、厭らしさのある悪い役を演じるのも好きなのよ。そういう人間はたいてい隙を相手に見せません。ですから『嫌なやつだな、こいつ』って思われようとする時は、隙のない人間として演じています。

 ただ喜劇はそうじゃない。特に山田さんの喜劇って、悪人が出てこないから。演じる時も隙を作ることは意識しています」

撮影■藤岡雅樹

※週刊ポスト2016年3月11日号

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