ガジェット通信 GetNews

見たことのないものを見に行こう

ヒヨコの経済学<span style=”font-family: ‘メイリオ’, Meiryo;”>――</span>気が短いにもわけがある

DATE:
  • ガジェット通信 GetNewsを≫

ヒヨコはあきれるほど気が短い。それは道理にかなった行動か?

個を超える社会の道理がみえてきた。

動物の心をめぐって

動物に心があるだろうかと考えながら、長いこと動物を、それもニワトリのヒヨコを調べてきた。愚かな問いかけである。私はヒヨコではないから、ヒヨコの経験を共有することはない。脳に化学物質を探すというのなら可能だが、心というのは何を探せばよいのだろう。あやふやな対象で、もとより無理筋なのだ。無理は承知だ。不良設定であることを覚悟した上で、問いたかったのである。

そこで考えた。心(mind)という名詞に問題があるのではないか。むしろ動詞としてのmind、彼らが「気にかけていること」を問題にしよう。

ヒヨコに道理はあるか?

卵を温めて3週間目、決まった日にはヒヨコが孵(かえ)る。数日は餌も水も要らないが、その後は大量に食う。自由にさせれば毎日体重の2〜3割相当の餌を食べて大きくなる。ニューギニア高地で人間が赤色野鶏を飼いならして以来、すでに1万年近い。鳥は凶暴な生き物だが、今でもヒヨコはひたすら食べる。だからこそ人間は飼いならすこともできたのだろう。

三歩歩けば忘れる、という。chicken brainといえば愚かさを表す。しかし、彼らは実に厳しい経済的原理を貫いている。それに気づいたのは、異時点間選択という、心理学の古びた課題をヒヨコに解かせたときのことである。

赤いビーズを啄(ついば)めばすぐに1粒の粟が出る。緑なら6粒だが待たねばならない。この待ち時間を0、1、2、3秒と変えて調べた。0秒なら緑を選び6 粒を取る。しかし3秒なら赤を選び1粒を取る。極めて気が短い。ばかげたことだ。

一体、彼らは何を気にしているのだろう。なかなか答えが見つからなかった。

最適性を破り生き延びる

悶々としているなか、ある学生から生態学を教わった。本を開くと「最適採餌理論」なるものがある。1970年代、昆虫学者たちが虫にとって一番良い行動とは何か、理論と実地で調べた。自己の利益を最大にする行動から、ちょっとでもずれてしまえば、やがてそのような動物は駆逐される。しかし一匹の動物には、世界のすべてを知ることができない時と共に餌は変わり、世界は不確実だ。この世界では、直近の利潤率だけに忠実に振る舞い、ましな選択肢があれば心変わりすることが賢い。学生からの教えを得て、研究は大きく進んだ。ヒヨコの脳の中に、利潤率を精密に計算する神経回路があることも分かった。

しかし話はそれで済まなかった。ヒヨコは群れで生きる。捕食者からの安全を得るが、餌を競い争うことが常態となる。この競争のもとでは衝動性が異常に高まり、最適性からずれてしまうのである。

病的な破れのようにもみえた。しかし、ヒヨコはこれによって仲間の発見した餌を横取りし、餓死から逃れて生き延びる。最適性はむしろ彼らの生存を脅かしていたのである。

ヒトに立ち戻ろう。競い憎みつつも、より多く愛し理解し共生している。社会を生きるためには、最適性が破れる必要がある。ヒヨコの現実が我々を探る指針にもなることを期待して、まだヒヨコを見つめている。

文:松島俊也

絵:大坪紀久子

上記は、Nextcom No.25の「情報伝達・解体新書 彼らの流儀はどうなっている?」からの抜粋です。

Nextcomは、株式会社KDDI総研が発行する情報通信誌で、情報通信制度・政策に対する理解を深めるとともに、時代や環境の変化に即したこれからの情報通信制度・政策についての議論を高めることを意図として発行しています。

詳細は、こちらからご覧ください。

Toshiya Matsushima

北海道大学 大学院 理学研究院 教授

1957年東京都生まれ。東京大学で学位取得後、ブレーメン大学(ドイツ)、カロリンスカ医科大学(スウェーデン)、上智大学、名古屋大学などを経て現職。動物の行動と脳の研究を行っている。著書に『動物に心はあるだろうか?初めての動物行動学』など。

関連リンク

株式会社KDDI総研

※掲載されたKDDIの商品・サービスに関する情報は、掲載日現在のものです。商品・サービスの料金、サービスの内容・仕様などの情報は予告なしに変更されることがありますので、あらかじめご了承ください。

関連記事リンク(外部サイト)

粘菌に脳はないけど、能はあるハズ
シマウマはなぜ縞模様なのか?
野良猫は自由気ままに生きている?

TIME & SPACEの記事一覧をみる ▶
  • 誤字を発見した方はこちらからご連絡ください。
  • ガジェット通信編集部への情報提供はこちらから
  • 記事内の筆者見解は明示のない限りガジェット通信を代表するものではありません。