体験を伝える―『ガジェット通信』の考え方

面白いものを探しにいこう 本物を体験し体感しよう 会いたい人に会いに行こう 見たことのないものを見に行こう そしてそれをやわらかくみんなに伝えよう [→ガジェ通についてもっと詳しく] [→ガジェット通信フロアについて]

『星ガ丘ワンダーランド』中村倫也インタビュー

 

116

その町では丘の上に観覧車が回っている。今ではすっかり寂れてしまったその遊園地も、かつては夢と思い出がいっぱい詰まった場所だった。そんなノスタルジーを湛えつつ展開する色彩、映像、そして珠玉のキャラクターたち。と同時に、気がつけば、霧のようなミステリーが物語をうっすらと覆い尽くしていく————。

各界の注目を集める俊英が日本映画を支える俳優たちを随所にちりばめて撮った本作『星ガ丘ワンダーランド』は、まさに才能と才能の化学変化に満ちたアーティスティックな名作に仕上がった。そんな中、物語の芯の部分をしっかりと担い、なおかつ多くの出演者とまみえながら透明な空気を発露させていく存在こそ、主演の中村倫也だ。確たる実力と研ぎ澄まされた存在感とで観客を魅了し、この2016年、様々な領域でのさらなる活躍が期待されるこの逸材。彼の目に本作はどのように映ったのか。そこに込められた思いについて話を訊いた。

 

 

 

——————完成した映画はもうご覧になりました?

中村 「見てないんです・・・」

——————えっ!!!

中村 「……ウソです(笑)」

——————あー!!!びっくりしました。じゃあ、気を取り直して。実際ご覧になられたご感想などから伺ってもいいですか?

中村 「柳沢(翔)監督とカメラマンの今村(圭佑)さんという二人のタッグが作る独特の映像世界というか、心象風景というか、そういったものがきっと美しいものに仕上がるんだろうなと期待しつつ、撮影中もあえてモニターを見ず演じてました。ですから、実際に出来上がった作品を見て、そういったところがファンタジックに、かつ残酷に切り取られていて、とても素敵な映画に仕上がったなと思いましたね」

——————中村さんの人生における、まさに「名刺代わり」というか、一生誇れる主演作だと思います。最初にご覧になった時、そういう実感ってふつふつと湧き上がってくるものでしたか?

中村 「正直、全然なかったです(笑)」

——————そういうものなんですか?

中村 「ある種、客観的には見れなくなっているといいますか。監督の狙っていたものがどう発露しているのかってところばかりに目がいってしまいました。自分の演技に関しては本当に思い入れの強いシーンばかりなので、そもそも客観的な目線というものが持てなくなっていて……。試写の後にも関係者の方に『いやあ、良かったね』と褒めていただいたんですけど、まだどこかしら100パーセント乗っかれない自分がそこにいるという」

——————なるほど。

中村 「ですから、実際に映画が公開されて、お客さんがどう楽しんでくださるのかっていうのが僕にとっての全てなのかもしれません。胸を張れるものは作れているので、もうジタバタしようもないですし。そういうお客さんの声が聞こえてきて初めてホッとできるのかなあって思ってますね」

 

018

剥き出しのままの自分で挑んだ“温人”という役柄

 

——————中村さん演じる温人(はると)は「星ガ丘駅」の落し物係として勤務する駅員さんです。彼の最初のシーンのセリフが「はーい、どうしました?」なんですが、この声のトーンがすごく温かくて、一瞬にして魅了されるものがありました。入念に打ち合わせを重ねたり、何度も取り直したりしたシーンだったんでしょうか?

中村 「いやあ、全然。そういう意味では極力、声とかフィジカルなことは僕そのもので挑んだつもりです。演じる役によっては歩き方や声のトーンとか息の量を変えることはありますけれど、今回は“剥き出しのままいく”ことがテーマといいますか、そうじゃないと太刀打ちできない役だったので。ですから、あのシーンは何も打ち合わせとかそういったことはなかったですね。僕の人間的な温かさが滲み出たんですね、きっと(笑)」

——————本当にあったかい、素晴らしいシーンでした。他にも、子供時代の自分と今の自分とがオーバーラップするようなシーンも多く、演じていて感情の出し方が難しい場面もあったのではないかと思いますが。

中村 「“温人”という役柄自体が、どっちかというと積極的に表へ出て行くタイプではないですし、この映画もまた、語らないところで語る、みたいな性格を持っている作品です。その持ち味を大切に生かすため、過度な表現は極力しないように、そこにある“肌触り”をそっと置いていくような毎日でした。足し算でやっちゃったほうが確実に楽なのはわかってるんですが、監督のOKをもらえるのを信じて、あえて(引き算の演技を)貫きましたね」

1 2次のページ
NeoL/ネオエルの記事一覧をみる
  • 誤字を発見した方はこちらからご連絡ください。
  • ガジェット通信編集部への情報提供はこちらから
  • 記事内の筆者見解は明示のない限りガジェット通信を代表するものではありません。