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知る人ぞ知る“角打ち”の名店・阿佐ヶ谷「裏の部屋」という楽園

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商店街のど真ん中にある謎の店

ある晩近所の酒屋にビールを買いに行ったら、店の裏の倉庫にずんずんと入っていく団体を見かけた。それは若い女性と、数人の男性。どうみても店員さんではなく、業者の人にしてはなんだかやたらと楽しそう……。チラッと横目で覗いてみると、奥のほうで楽しそうに、酒を酌み交わしている様子。えっ、ここって酒屋さんの倉庫じゃないの? なんでお客さんがお酒を飲んでるの?

そんな疑問と、なにやら楽しい予感を抱きつつ店を出たところで、謎が解けました!

コレです! 「角打ち処 裏の部屋」

店の奥が立ち飲みスペースになっている酒屋さんだったのですが、このあたりに住んで2年以上経つのに、「角打ち」の意味を知らなかったため、このスペースの存在にまったく気づかなかったのでした!

このお店は、大正13年に開店した「三矢酒店」。JR阿佐ケ谷駅と、丸ノ内線南阿佐ヶ谷駅をつなぐ商店街「阿佐谷パールセンター」の中にあります。

阿佐谷パールセンターといえば、8月の七夕まつりが有名です。今年で62回目を迎えた七夕まつりが始まったのは昭和29年なので、それよりもずっと早くから開業していたんですね。今回ご紹介する角打ちスタイルの営業を始めたのは、ここ3年ほどとのこと。このお店で、自分も実際角打ちに潜入してみることにしました!

まずは、前回お客さんを目撃した「裏の部屋」へと移動してみます……。

店内はこのように、歩き飲み推奨のビールの樽売りがあるくらいで、店の奥に立ち飲みゾーンがあるようには見えないのですが……。

お酒のジャングルをかきわけ、

ぐんぐん進んでいくと……

ビールコーナーの左に、謎めいた通路が……。

その奥は、完全に酒屋さんの倉庫です。

ここに先日、男女が吸い込まれて行ったのを目撃したんですよ。ホントに入っていいの? と思いつつ進んで行くと……。

あれ? 出口みたいなところに出たぞ?

酒樽の上にグラスが置かれていて、人が飲んだあとがありますが……うーん、完全に外ですねえ。本当にここで飲めるのかな?

と思いきや、すでに一杯やっているお客さんを発見しました!

やっぱりここで合ってたんですね。せっかくなので、一杯ご一緒しながら、取材をさせていただくことになりました。

本日のナビゲーターは、「三矢酒店」三代目店主の、三矢治(みつやおさむ)さん。

──店の奥で飲むのを、角打ちって言うんですか? そもそも読み方って、かどうちで合ってますか? それとも『かくうち』?

三矢さん「かどうち、かくうち、両方だよね。昔からこのへんの地域では酒屋さんがこういう店内の立ち飲みをやってたんですよ。だから単純に『立ち飲み』とか『コップ酒』って読んでたんだけど、最近立ち飲みがブームになってるから、立ち飲みっていう言葉からかっこいい店を期待されても困っちゃうんで(笑)。それで角打ちにしたの。基本的に店頭でご注文いただいて、ここで自由に飲んでもらう。ふつう角打ちってのは、レジの周りとか、店頭のあたりでやるわけよ。でもうちは普段は表で作業していて裏で飲んでもらう形だから、お客さんがほかのお客さんを案内したりしてます」

な、なんともゆるい営業形態!

しかし同店では、蔵元の方を招いた日本酒の試飲会なども頻繁に行っており、阿佐ケ谷エリアの酒屋さんの中でも道行く人への働きかけが強いお店です。そうした試飲会や角打ち、歩き飲みできるビールの販売など、いろいろな楽しみ方を強く提案するようになったのは、三代目の三矢治さんの代から。地酒寄りだった先代までの品揃えに加え、いわゆるクラフトビールを含め、世界のビールを約200種類揃えたラインナップとなっている。十年ほどかけて今のスタイルを徐々に確立していったそうです。

角打ちゾーンは、倉庫を兼ねたスペースとなっています。

ビールの在庫の上のほうにはこんなふうにメニューが貼ってあり、そのときどきのおすすめの銘柄が並んでいます。日本酒をメインに、ビールやワインも並び、1杯250円〜と格安!

三矢さん「そのときどきで出会ううまい酒で、メニューを塗り替えていってるんだよ。日本酒だったら、今は愛知県西尾市の「奥」。これがイチ押しです。一見フルーティで飲みやすいけど、ガツンと来る飲みごたえ。またうまい酒に会えば、塗り替えられるかもしれないけどね」

さっき入ってきた入口の頭上には、さりげなくシステムの説明が書かれています。クラフトビールをはじめとする店内のお酒も、持ち込み料を払えばここで飲んでOKなんですね。

お酒好きにはたまらない品揃え!

ではさっそく、店主おすすめの「奥」を注文し、角打ちデビューしてみます!

お店の入口にレジがあるので、まず店員さんに「裏の部屋で飲みたいんですけどー」と一声かけて、お酒を選びます。

三矢さん「ここの人に言ってもらえれば、コップに注がせてもらうんで。その都度支払いして、使ったコップは所定の場所へセルフで戻してね」

──『奥』、お願いしまーす!

するとレジ脇の冷蔵庫からお酒を取り出して、店長さんがトクトクと注いでくれます。

おつまみも店頭で注文可能。

お酒を受け取り、支払いもここで済ませて、裏の部屋へ移動。

あとは勝手に楽しんでね〜、というスタイルです。

お酒を持って酒屋さんの中を歩くと、なにかいけないことをしているような気持ちに。かすかな背徳感とともに、ワクワクが高まる……。

さっきの倉庫ゾーンまでたどり付きました!

「恥ずかしながら、ほぼ毎日来てます」という常連のお客さんにお話を伺いました。

──以前若い女性が入っていくのを見かけたんですけど、角打ちをやっているお店の中では、ここは女性が多いほうなんですか?

お客さん「若い人は、角打ちと立ち飲み屋さんを特に区別してないみたいで、結構来ますね。ここは禁煙なので、それもあって割と女の人が来ます。クラフトビール好きの方や日本酒好きな人がここでしか売ってないものを求めて、よいものを適切な値段で飲んでいくという感じです」

そのときお客さんが飲んでいた瓶ビールは、サッポロラガービール。

通称「赤星」(中瓶350円)と呼ばれるこのビールは、現存する日本最古のビールブランドと言われています。日本で今生産されている瓶ビールは、ほとんどがフィルターを使って酵母を取り除いた「生ビール」ですが、サッポロラガーは熱処理によって酵母の働きを止めるスタイルを取り続けている、昔ながらのビールです。うーん、渋い!

こちらもさっそく、さきほどの「奥」(400円)をいただきながら、話を続けます。

三矢さん「サッポロラガーはあんまりスーパーでは売ってないけど、飲み屋さんでも大衆系の焼き鳥屋さんなんかは置いていることがあるよね」

お客さん「高円寺や阿佐ヶ谷の居酒屋は、サッポロラガーを置いているとお客さんから信用されるんですよ」

──おっ、わかってるね! みたいな感じですね! そういえば角打ちって、そもそもどういう意味なんですか?」

三矢さん「お店の一角を意味するっていう話もあるし、酒の升の角から来てるっていう説もあるよね」

お客さん「昔、九州の炭坑で働いていた人達が昼間から酒屋で飲んでいて、枡の角に塩をつけてお酒を飲んだりしていたのが発祥らしいですよ」

──そういう意味だったんですね。お店の前にでっかい看板がありますけど、角打ちの意味を知らなかったから、2年以上このあたりに住んでいてしょっちゅうお店の前を通っていたのに、立ち飲みスペースがあるなんて全然知らなかったんですよ!

お客さん「ぼくも最初知らなかったですよ。でもビールも安いし禁煙だし、ここ最高だなと思って通ってます。最初はこの部屋じゃなくて、そっちの通路の狭いスペースで飲んでたんですよ。給湯室のOLみたいな感じで。七夕まつりのとき、お客さんが多くてそこだけじゃ入りきれないから、試しにこのスペースも使ってみたら面白かったんで、今度からこっちにしようってことになったんです」

こうしていつの間にか、お客さんに取材させていただくことに。確かに、このスペースで飲むのは凄すぎですねえ(笑)

──いや〜外の公園が、丸見えですねえ。夏なんか、最高ですね

お客さん「ええ、でも暑いですよ。むこうが公園なんで、夏は蚊が来ます」

その言葉を裏付けるように、蚊対策グッズか完備されていました。最低限の情報を、ハードボイルドに教えてくれる掲示がクールです。

──冬、寒そうですね

お客さん「でも冬は透明のビニールシートを設置するので、大丈夫ですよ。エア感が若干失われますけど」

──エア感(笑)! いつもどのくらい飲んでいくんですか?

お客さん「4〜5時間とか。どっちみち家に帰っても飲みながら本読んでるし、閉店までいたりしますよ。ビール飲んでて寒くなってきたら、マフラーしてニット帽かぶって」

──ほとんど、暖房つけずに家で晩酌してるのと変わらないじゃないですか!

角打ちが始まった頃は、何時間いても他のおじさんと二人だけで、商社に務めていたというそのおじいさんの武勇伝を無限ループで聞いたりしていたそうです。

お客さん「『』は、日本酒らしい日本酒ですよね。僕は日本酒だと『』が好きですね。瓶が一つなくなると新しいのが加わるので、お客さん同士で互いのお酒を飲んで試したり、通ううちに傾向がみんなわかってくるから、誰々さんはこのお酒好きそうですよとか勧めあったりしますよ」

そうこうしているうちに、2年くらい通っているという女性の常連さんも登場。クラフトビールがお好きで、いろいろなものを試しているとか。

お客さん「見たことないビールがいっぱいあるから、ラベルの印象で選んで片っ端から飲んでいったりしますよ」

店内には、唐辛子の入ったビールや

ゲーテも愛飲していたというビールなど、確かに気になるものばかり!

──そういえば、ここの近くにある中華料理屋の『蓬莱軒』、なくなっちゃいましたよね

お客さん「『朝陽』は行きました? 店の中が見えないのでダメモトで入ったら、おいしかったんですよ。玉ブタっていうメニューがあって、どんな味ですか? ってお店の人に聞いたら『食えばわかるよ!』って言われたんだけど、超おいしい!」

こんな感じで、初対面同士の地元トークも弾みます。

ちなみに取材当日は、七夕まつりに次ぐ阿佐ケ谷の一大イベント、阿佐谷ジャズストリートが行われていました。せっかくなので、角打ちに加え、歩き飲みをしつつ路上ライブも鑑賞することに。

「ベアードビアー 信州早生ウェットホップエール」(Sサイズ500円)というビールをいただきました。

ご主人「ホップはだいたい外国産のものを使うけど、これは信州産のホップを使ってる。このベアードビールを作っているのはアメリカ人なんだよ。日本人の女性と結婚して地ビールの会社を立ち上げて、かなり成長してる。定番もあるんだけど、限定の変わり種のビールをずいぶん作ってるんだ」

なんと、ご主人がビールをおごってくださいました! 角打ちができる「裏の部屋」にも、ジャズの音色がしっとりと響いていましたよ〜!

お店情報

三矢酒店 角打ち処 裏の部屋

住所:東京都杉並区阿佐ヶ谷南1-13-17

電話:03-3314-6151

営業時間 :月~金 12:00頃〜22:30、土・祝 12:00頃〜20:00、日 16:00〜19:30

定休日:無休


書いた人:

増山かおり

(ますやま・かおり)1984年、青森県七戸町生まれ。東京都江東区で育ち、早稲田大学第一文学部卒業後、百貨店勤務を経てフリーライターに。『散歩の達人』(交通新聞社)、『LDK』(晋遊舎)、『New Roses Web』(産経デジタル)などで執筆。著書に『JR中央線あるある』(TOブックス)、『高円寺エトアール物語~天狗ガールズ』(HOT WIRE GROOP)。

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