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お年寄りを「被介護者」から「社会資源」に|あおいけあ代表加藤忠相さんインタビュー

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今、介護業界で最も注目を集めている高齢者向け介護福祉施設「あおいけあ」をご存じでしょうか?神奈川県藤沢市の長閑な住宅街にあるその施設には、日々、全国の同業者や行政、大学の研究員など多くの人が視察にやってきます。訪れた人が口を揃えて言うのは「目指すべき認知症ケアの姿があった」ということ。事実、あおいけあを利用するお年寄りの多くは元気になり、要介護度が下がるのだそう。2013年には「第一回かながわ福祉サービス大賞」も受賞し、“藤沢モデル”として大きな注目を集めているあおいケアの介護。一体何が、どうすごいのか、今回はあおいけあさんを訪問してみました!

※あおいけあは、小規模多機能型居宅介護「おたがいさん」、デイサービス「いどばた」、グループホーム「結」の3つの介護事業所を同じ敷地内で運営しています。

★今回お話を伺った方


●加藤忠相(かとうただすけ)さん

株式会社あおいけあ代表取締役。1974年生まれ。東北福祉大学社会福祉学部社会教育学科卒業後、横浜の特別養護老人ホームへ就職。高齢者を支配・管理する介護現場の実情にショックを受け、3年間勤めた後退職。25歳で起業し、株式会社あおいけあを設立。2007年より小規模多機能型居宅介護「おたがいさん」をスタート。2012年「第一回かながわ福祉サービス大賞」受賞。高齢者の能力を地域貢献に活かすケアは“藤沢モデル”として注目を集め、湘南を中心に取り組みが拡大している。慶應義塾大学非常勤講師、NPO法人ココロまち理事長としても活動中。私生活では3人の子どもを育てるパパでもあり、サックス奏者でもある。

あおいけあ公式サイト
あおいけあFacebookページ

施設に閉じ込めるケアは「支配」と同じ

――加藤さんは、25歳と若くしてあおいけあを設立されたのですよね。独立のきっかけを教えていただけますか?

きっかけは、大学卒業して初めて就職した特別養護老人ホームでの日常にショックを受けたことです。とにかく業務効率が最優先で、オムツを手早く交換できる人は褒められても、お年寄りとお茶を飲んで話すことは許されない雰囲気でした。お年寄りたちは1日中施設の中で過ごし、家族が面会に来ない限りはまず外に出られない。みんな表情が暗くて、毎日息苦しそうで。これは介護じゃなくて支配だ、施設に閉じ込めることで“お世話される”人を増やしているだけだ、と思いました。

同じ場所で3年間働きましたが、状況は変わらず。働きたいと思える場所がないのなら、自分で作ってしまおう、という発想ではじめたのがあおいけあです。若気の至りです(笑)。
あおいけあ外観。敷地内には汲み上げ式の井戸や池があり、屋上にも登れる、遊びゴコロある造り。

――なるほど。確かにあおいけあは、“閉じ込められている”印象とは正反対ですね。特に、施設内に通っている道が、地域の通学路や通勤路の一部になっているのがユニークです。

まず、地域に開かれた場所にしようと、敷地の塀を取っ払いました。敷地内にある一本道は、地域の人が誰でも通れます。放課後の小学生達がふらっと遊びに来たり、手をつないで通る高校生カップルに利用者のお年寄り達が「昔はあんなことしなかった」とこぼしたり。つくられたものではない自然な「世代を超えた交流」を作りたかったんです。
あおいけあ図面。真ん中の通路は、通学路であり通勤路。子供やサラリーマンが近道として通ります。

立ち上げの時にもう一つ大事にしたのは、物理的に居心地が良い空間です。例えば、施設の壁や床材はすべて無垢材を使って、狭い部屋でも圧迫感を感じないようにしました。目から入る情報は、脳内の視床という部分に伝達されますが、視床を心地良い情報で埋めてあげることが大切なんです。そうすることで、自律神経の調節が上手くいき、血圧が安定したり、血行促進につながってリラックスした状態に導かれるのです。

椅子だってそうです。普通の介護施設によくあるパイプの椅子に6時間座っていようと思ったら、私たちだってキツイでしょう。お年寄りだったら尚更です。でも立ち上がったら徘徊だ、問題老人だと言われてしまう。おかしいですよね?だから、姿勢を崩して座れるソファやいつでも寝転がれる畳を用意しています。

地域参加すれば「被介護者」は「社会資源」になる

――あおいけあでは、利用者のお年寄りが地域に出て社会活動をされているのですよね。

はい、外には積極的に出掛けています。活動内容は色々で、近所の掃除や神社の清掃や公園の花植え等々です。利用者のほとんどは認知症のある方で、当初は「認知症の人を連れ出すなんて危ない」という声もありました。でも、ちょっと考えてみてほしい。認知症のあるなし関係なく、多くの人は、良いことをしたい、人の役に立ちたい、と考えています。地域の中で役割を果たすことで自分が生きる価値を実感できるのは、高齢者だけではないはずです。生き甲斐を持てれば、その人らしさが出て、表情も輝きます。

例えば、掃除一つとってみても、スタッフが掃除をするのはただの業務でしかないですが、一緒に施設を掃除すれば自立支援になります。さらに一歩進んで、神社の掃除になると、地域貢献していることになる。近所の人から「ありがとう、ごくろうさま」と言われたら、嬉しいですよね。これが本当の自立です。結果的に身体機能や認知機能も高まり、要介護度が下がる、というわけです。
自立支援のステップを表した図。行動範囲が広がるほど、自立度も幸福度も高まります。

――お年寄りの尊厳を守りながら、興味のあることをしていただく、ということでしょうか?

いえ、尊厳を守る、という意識は特別していません。僕たちがお年寄りを「守ってあげらなければいけない」存在という前提で捉えていたら、いいケアは出来ないと思います。実際にお年寄りと毎日を過ごしているとよく分かるんですが、認知症があろうがなかろうが、みんな自立支援のはるか先を見せてくれます。“全然世話になっていない”かっこいいお年寄り達を是非、見ていただきたいです。ちょっと施設見学しますか?
自動車部品の取り付けを行うのは、元々自動車関係の仕事をしていた利用者の男性。
ランチ前。皆で食事をするテーブルを、ふきんでせっせと磨く利用者の女性。
施設内の草木の剪定をするのも、元々植木職人として働いていた利用者の男性。

――すごい、本当に皆さんイキイキされていますね。

よく、もとから元気なお年寄りばかり集まったんじゃないのか、と誤解されるのですが、そうではなくて。むしろ、ここに来る前は家族へ暴力をふるったり、道端で排泄してしまったり、周辺症状が強く出ているために他の介護施設では受け入れてもらえなかった人が多いんです。

かつて周りから“困った人”として扱われていた人が、ここで毎日を過ごすうちに段々と落ち着いて、今度は地域貢献をしている。僕たちは、特別なことをしているわけではありません。ただ、元々お年寄りが持っている能力や得意なことを発揮できる機会を作っているだけなんです。

「認知症、よく分かりません」でいい。より良い人間関係を作ることが一番大切

――職員の方への育成はどのようにされていますか?

僕たちは、ケアマニュアルは一切持っていません。ただ、譲れないトップゴールを決めています。それは「より良い人間関係の構築」です。人にされて嫌なことは絶対にしないこと。そして、その人らしいQOL(生活の質)を最大限に高めること。これさえ目指していたら、アプローチ手法に細かい口出しはしません。スタッフ全員やり方が違っていて良いと思っています。

――あおいけあでは定期的に勉強会を実施されていて、専門職としての見識を増やす機会が豊富なイメージです。

勉強会の目的は、知識を吸収するため、というよりは、自分の業務を自分で振り返って学びを得るためです。職員だけでなく、地域の誰でも参加できる参加型の勉強会にしていて、毎回スタッフが日々の活動を発表する場があります。

質疑応答の時間で、参加者から認知症の仕組みやケアについて聞かれることが多いのですが、うちのスタッフはよく「認知症のことは分かりません」と答えています。で、質問者にキョトンとされる(笑)。でも、それでいいんです。一人ひとり異なる利用者の個性をきちんと把握して、相手の得意分野を活かした関わり方をすることが何より大事です。

――出ている症状ではなくて、対峙している相手自身を見るのですね。

はい。こんなことを言うとまた、「あおいけあには従業員が沢山いるからできるんじゃないの」と言われるのですが、規定通りの人員配置基準ですよ。よく、人が足りないから1対1の関係性を築く個別ケアは難しい、なんて言われたりしますが、実際は逆です。職員と利用者の良い関係性が築ければ、介護拒否もなくなって、日々の活動が結果的にスムーズになるからです。「引き算のケア」と呼んでいます。
その日の出来事をスタッフ間で共有しているノート。利用者のお年寄りの様子が綴る内容に愛がにじみ出ています。

あおいけあが「特例的な存在」になってはいけない

――世の中的には、あおいけあのような取組みを実践している施設はまだ少数派です。この流れが全国的に広がるためには、何をしたら良いのでしょうか?

正直、色んな方から「理想だね」と言ってもらうことにはしっくりきていません。僕らにとっては現実ですし、当たり前だと思うことを続けているだけだからです。あおいけあが介護業界の常識から浮いた、特別な存在になっていてはいけないと思います。

ただ、現状の効率優先の介護がいかにおかしいか、危機意識を持つことは大事ですよね。まずは、介護施設のハード面から見直す必要があると感じます。立派なハコモノは要りません。1日の時間を心地良く過ごせて、人が集う場所をデザインすることが大切です。

既存の施設を一気に塗り替えるのは、おそらく難しいでしょう。でもこれから新しく介護を始める人達が突破口になって現状を変えていくことは不可能ではないと思います。

――大学や研究機関とタッグを組んで、科学的に良いケアを分析する取り組みもされているのですよね。

はい。静岡大学情報学部の竹林研究室との共同研究で、あおいけあでの介護の様子を動画で撮影する定点観測を続けています。今まで普通に行われてきたことがいかにおかしいか?を認識する手段として、「良いケア」に科学的なメスを入れることには非常に期待値が高いですね。

――地域包括ケアへの期待が高まっていく中で、今後新たに挑戦されたいことはありますか?

色んな計画が進んでいます。例えば、シングルマザーのためのシェアハウス。小さな子どもがいても、昼間は介護事業所でお年寄りと遊ばせながら、働くことができる場です。また、高齢者の就労の場にもなるコミュニティ・レストランも計画しています。介護事業所を交流拠点して、様々な人達をサポートしながら、ゆるやかな居場所や役割を作っていきたいと思っています。

これからも、介護を必要とするお年寄りは確実に増え続ける一方で、国の財政は厳しくなっています。今のままだと、割を食うのは、私たちの子ども世代になってしまう。その課題を、地域の助け合いを強めることで解消していくのは私たちの役割です。幸い、藤沢地域には同じ志を持つ仲間が集まっています。まずは地域の皆で藤沢型介護モデルを完成させて、全国に発信していけたらと思っています。

見学を終えた感想

「認知症で困っている人が“困らないように寄り添えば”ステキなお年寄りになる」実際にあおいけあで自主的に動くイキイキしたお年寄りを見て、その真意を目の当たりにしました。この日常が実現できるのは、認知症への深い理解と、地域の人が集うようデザインされた空間、お年寄りの強みを活かした関わり、そして働くスタッフの主体性があってこそ。あおいけあの視点や理念が、これからの介護現場のスタンダードになっていくことを願います。

この記事を書いた人

認知症ONLINE 編集部

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