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なぜ、認知症高齢者に適切な歯科診療が行き渡らないのか

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私は、祖父の代から歯科医院を引き継いで診療しています。また、摂食嚥下評価医として、介護施設、在宅を問わず、訪問歯科診療を通して、高齢者の食支援を行っています。

歯科医として活動を続けていて感じるのが、認知症高齢者に適切な歯科医療が行き渡っていないということです。今回は、歯科医の視点から、この課題について考えてみたいと思います。

認知症高齢者=診療しづらい、という先入観

一般に考えられている認知症高齢者のイメージってどんなものなのでしょうか?同業者からは、下記のような不安や懸念がよく聞かれます

暴れてしまって抑制しないと治療は不可能?
通常のコミュニケーションが取れないのではないか?

確かに、歯科診療の場において、しばしば「口を開けてくれない」、「暴れる」といった抵抗がみられることがあります。しかし、歯科診療の場において、患者の状態をきちんと把握し、ご本人への適切な接し方を努めれば、その不安は解消されます。この事実が、歯科診療を提供する側に周知されず、「認知症患者は治療しづらい」といった思い込みが、現状の課題の背景にある根深い原因です。

私は、今まで認知症の患者さんの歯科治療を行ってきた中で、注意や配慮をすることはたくさんありましたが、診療ができなくて困ったということはほとんどありません。

残存歯数が多いと認知症になりづらい

口腔内状況と認知機能との関連はこれまでに多くの報告があります。特に、残存歯数と認知機能には有意な相関が見られるという報告が多数みられます。残存歯数が多いほど、嚥下機能が良好であり、必要摂取カロリーが維持されることが報告されていることから、義歯(入れ歯や差し歯等)が必要であることは明らかです。

さらには、単調になりがちな認知症高齢者の日常生活の中で、ʻ食事ʼは大切な心理的うるおいです。食事を介して、家族・介護者などの他者とのコミュニケーションも豊かになり、認知機能の維持の一助となります。つまり咀嚼機能を維持することは、認知機能悪化の重要な予防策となり,さらにはADLのサポート、生命予後の改善につながると考えられます。

口腔内の痛みに配慮したケアを

2012年に日本老年医学会より出された、高齢者の終末期の医療及びケアの立場表明には、「認知機能低下や意識障害などのために患者の意思の確認が困難な場合であっても、以前の患者の言動などを家族などからよく聴取し、それを尊重することが重要」であるとされています。しかし、歯科医療は生命予後に直接影響しないものが多いという事実があることから、いまだ統一されたものが整備されておらず、以下のような課題が生じています。

口腔内の痛みは強く感じやすく口からの栄養摂取が困難になりやすい
その結果、QOL・ADLを低下させることにより、続発的な生命予後に影響を与える
身体の循環機能が衰えている高齢者にとって痛みは強いストレスになる
一回の処置で治療が終了することは稀で通常は複数回の受診を必要とする
そのため、受診の付き添いや送迎などの介護リソースの継続確保が不可欠

以上より、できるだけ長い期間関わりを持てるように、急性症状に対する対応をしなくてもよいような環境・関係を整えることが重要です。つまり、歯科医や介護スタッフが、「本人の痛みを和らげる」という目的をもってご本人と向き合うことが、とても大切だといえます。しかし、認知症高齢者に苦手意識を持っていては、到底実現できません。

地域に根ざした歯科診療に必要なもの

「地域に根ざした診療を行う」
これは、多くの開業歯科医の先生方が掲げている診療理念で、私もその理念を掲げるひとりです。これまで、認知症高齢者の歯科診療に関わることを通して、ご家族や地域のコミュニュティと繋がる素晴らしさを実感してきました。

今後、国内の認知症高齢者は800万人規模に増えていくと言われています。適切な歯科診療が、すべての認知症高齢者に行き渡ってはじめて、「地域に根ざした診療」が実現できるのではないでしょうか。

次回以降は、認知症の方への歯科診療について、診療現場や介護現場で困りがちなケースの具体的な対処法について、考えてみたいと思います。

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