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アルピニスト・野口健さんが明かす、ヒマラヤへの思いとは?

アルピニスト・野口健さんが明かす、ヒマラヤへの思いとは?

 アルピニスト・野口健さん——1999年、25歳で七大陸最高峰登頂最年少記録を樹立後は、日本隊に参加して命を落としたシェルパ(ヒマラヤ登山をサポートする案内人)の遺族の生活を補償するため「シェルパ基金」を設立する他、富士山やエベレストの清掃登山、戦没者の遺骨収集など、その活動は多岐にわたります。

 19歳でヒマラヤを訪れてから50回以上もネパールに足を運んでいるという野口さんですが、昨年4月、ヒマラヤ登山中に、ネパール大震災に遭遇。多くの登山隊がヒマラヤを離れる中、現場からの情報発信及び支援活動に従事し、その後、「野口健ヒマラヤ大震災基金」を設立するなど、ヒマラヤの復興に尽力しています。

 そして今月15日、写真集『ヒマラヤに捧ぐ』(集英社インターナショナル)を上梓。そんな野口さんに、ヒマラヤへの想いについてお伺いしました。

* *  *

――写真集を出版された今、改めて震災当時の様子を聞かせて頂けますか?

昨年の4月25日、ちょうどヒマラヤの山間部、ベースキャンプに向かっていた時でした。あたりはものすごい轟音に包まれ、まるで戦場のよう……。その後、余震も続く中、必死に下山して、やっとの思いでたどりついた村も壊滅状態。全身から力が抜けて行くのを感じました。

まもなく他の登山隊はみんな撤退していきましたが、僕は現地に留まることにしました。ネパールでは、81年ぶりの巨大地震。たまたまかもしれないけど、僕としては、そのタイミングで現場にいたことに「意味」を感じたんです。そして、何かを伝えなければと、カメラを手にエベレスト街道の村をすべて回りました。

――その時に撮影した写真も本作には一部収められていますね。

はい。震災直後の2週間は、行く先々で倒壊家屋や放心状態の人々を目の当たりにし、シャッターを押し続けました。ただ、悲しみの最中にある人達にカメラを向けるのは、本当にしんどかった。一緒にいたシェルパたちからも「なんでこんなときにカメラを向けるんだ」という雰囲気が伝わってきましたし、実際に嫌な思いをした人だっていたはずです。それでもカメラを向けたのは、「いつか理解してもらえばいい」と思ったから。今、振り返ってみれば、あのとき現場に留まって、写真を撮って良かったですね。

――震災から約1ヶ月後に帰国し、メディア向けに記者会見をされていますね。

あの時は多くのメディアの方々に集まっていただきました。ただ、これは非常に難しい問題で、震災直後というのは、人々の興味もあるからメディアも報道してくれるんですが、時間の経過とともに人の興味が失われていくと、報道そのものが減って行く。人の興味や関心って持続しないし、メディアもリアルタイムで求められるニュースを伝えなければならないですから、仕方のないことなのですけど。

僕は思うのですが、「伝える」ことと「伝えきる」ことは違う。報道マンは伝えることが仕事かもしれないけど、僕はその気になれば、ずっと伝え続けることができる。だからこそ、僕は伝えきろうと思いました。あの大震災の時にそこにいたのは、そういうことなのかなと。

――現場から伝え続けることと同時に、「ヒマラヤ大震災基金」も立ち上げられました。

基金は半年間で、1億2千万円も集まりました。ただ、実は、昨年5月に帰国してから、次にネパールに行くまでの約3ヶ月、どんどんとネパールから気持ちが離れていたんです。被災して1ヶ月ほど現地に留まり、あらゆる過酷な状況と向き合い、知らず知らずに消耗していたんでしょう。平和な日本に戻ると段々と、ネパールから気持ちが離れていくんです。おそらく人間の防衛本能で「忘れたい」と思うのかもしれない。

その反面、募金は日本全国からどんどん集まってくる。「これはマズい」と思いました。こうした基金の場合、お金だけでなく、募金してくれた人の思い、善意が詰まっています。僕は絶対にそれを裏切ることはできない。だから、震災当時の思いに戻りたくて、8月に再びネパールに行くことにしたんです。

ただ、その時期のネパールは雨季。雨で地盤が緩んで、土砂崩れが発生するなど二次被害が多発しており、現地のシェルパも「危ないから来るな」と言う。確かに、現地に行くのは危なかったんですが、このまま現場に行かないで気持ちが離れるのはもっと危ないと思い、半ば強引にネパールに向かったのです。

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