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パクチー出荷が5年で3倍増 ついに今年ブレークか

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 今年、本格的に人気が出そうな食材がある。タイ料理に欠かせないパクチーだ。その広がり方を食文化に詳しい編集・ライターの松浦達也氏が解説する。

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 これまで幾度となく「ブーム到来!」と言われてきたのに、実はまだ流行のピークはまるで先という食べ物は、いくつもある。最近では行列の代名詞として復活したポップコーンも少し前までは安居酒屋のお通しでしかお見かけしなかったし、プレミアムじゃない頃のロールケーキも地味なおやつの時代が長かった。

 そして幾度となく「ブーム」の洗礼を受けながら、ここに来て「ブーム」卒業の兆しを見せている食材がある。「パクチー」である。「パクチー」はタイ名であり、英語では「コリアンダー」、中国でも「香菜」として親しまれている。葉だけではなく種子としてのコリアンダーはカレーに欠かせないスパイスだが、その話はまた別の機会に譲りたい。

 本日の主役、葉のほうの「パクチー」はタイ料理などで何度となく「ブーム」を迎えていたが、ここ最近いよいよ日常で見かける機会が増えてきた。「ブーム」「トレンド」を越え、完全に定着期に入ったと言っていいだろう。

 発信側でとりわけ本腰を入れているのが、SPICEの「S」とHERBの「B」を社名に掲げる、エスビー食品。同社のパクチー出荷実績はこの5年で、フレッシュ・ドライともそれぞれ3倍に。「本格的な浸透はまだ先」とは言うものの、展開については積極的。今年に入って家庭向け「クリーミーパクチーソース」のほか、サラダ用のシーズニング、パスタソース、カレーの素などジャンル横断でパクチー商品を発売。さらに業務用にもパクチーペーストなど新商材を投入し、完全な”パクチー推し”体制に入っている。

 他メーカーにも”パクチー”推しの機運は急速に広まりつつある。今月、味の素もサラダ用シーズニング「Toss Sala」に「タイ風エスニック味」を投入。来月には焼きビーフンでおなじものケンミンが新しく「手軽に料理しタイ」というダジャレのようなネーミングのラインナップを立ち上げ、「トムヤムクン」にはパクチーフレーバーオイルが別添される。さらに同月、マルコメがパクチー入りの「トムヤンクン風みそ汁」を発売。”パクチーメニュー”の枠は急速に広がりつつある。

 国内でパクチーが認知を伸ばしたのは1980年代後半の「エスニックブーム」をきっかけとする、タイ料理店の躍進だった。当時の新聞はその様子をこう報じている。

「十二、三年前には国内に一軒もなかったタイ料理店。三年ほど前のエスニックブーム時にも十店程度だった。それがこの三年で首都圏だけで四十店にまで増えた」(日本経済新聞1990年10月29日付)

 1970年代には「一軒もなかった」タイ料理店は、現在関東だけでも420軒、全国では700軒以上(※タウンページ調べ)にまで増えた。そこにはパクチー専門飲食店も含まれているし、家庭向けのアイテムにもスナック菓子やカップラーメンなど、身近な食べ物にフレーバーとして採用されるようになった。

パクチーの香りはクセが強い。体臭も強くなく「無香好き」とも言われた日本人にとって「合わないのでは」という人もいる。だが人の舌が感じる味わいは、慣れや習慣によって変化する。味覚と密接な関係を持つ嗅覚も、環境の変化に影響されると考えるのはむしろ自然なことだろう。そもそも「無香好き」と言っても、日本にもネギ、シソ、ニラ、ニンニク、ミョウガなど香味野菜はいくらでもある。

食べ物にまつわるブームは25~30年おきに大きな波が訪れるものが多い。冒頭で例に挙げたポップコーンやロールケーキもそう。人と食べ物の関わりにおいて、まったくの目新しい食べものが急に受け入れられるということは極めてまれだ。明治時代の肉食解禁からの牛鍋ブームにしても、それ以前から人目をしのぶようにして肉を食べていたエリアもあった。「ブーム」の土壌は常に耕されている。

 情報網が細かな網目のごとく張り巡らされた現代においては、むしろ日常に息を潜めるかのようにおとなしくしている”食”こそが、次なる大ブレイクの最有力候補。現代の食にまつわるブームやトレンドは、もはや追いかける対象ではない。すぐそばに視線を落とせば、そこに次なるブームになりうる「いいもの」は転がっている。


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