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第44回 刑務所側の人

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 前回、刑務官の話をしたが、それに続けて、さらについでに刑務所側の人のことを書いておこう。
 拘置所でもそうだし、刑務所でもそうであるが、収容されている者は、刑務官のことを「親父」と呼ぶ。また、例えば苗字が「山本」であれば、「山本の親父」などと呼んで、他の刑務官との区別をする。

 私は、拘置所でも刑務所でも、この言い方だけはできなかった。どうして、刑務官のことを「親父」と呼ぶようになったのだろうか。自分の面倒をよくみてくれるから、親父のような存在ということで「親父」と呼ぶのだろうか。

 しかし、おおかたの犯罪者は、本当の両親の忠告などに耳をかさず、さんざん両親に面倒をかけてきたのだと思う。
 ところが、拘置所や、刑務所で、刑務官を「親父」と呼んで、その言いつけを頑なに守り(多くの人は)、それどころか媚びを売る(そういう人もかなりいた)などということは考えられない。
 だから、私は一度たりとも、その言葉を使わなかった。

 私たち未決が日常的に接するのは前にも書いた面倒見さんである。拘置工場衛生係ともいう。面倒見さんを刑務所側の人と区分するのはどうかとは思うが、私からすれば、そのような存在であった。
 この面倒見さん、どこかで読んだか聞いたのか記憶が不明なのだが、模範囚とか出所が近い人がなるらしい。
 そのことを思い出して、よくよく彼らを見ると、中にはある程度髪が伸びている人もいるから、やはり出所が近いのかなと思った。
 面倒見さんは本当にこまめに働いており、物腰も丁寧で、このような人が一体何をして実刑までになったのだろうと不思議であった。

 彼らの仕事とはというと、抽象的には刑務官の補助的作業というか、「面倒見」との言葉どおり、私たちの世話が仕事である。
 具体的にいうと、毎日三食を配膳してくれ、食器と残飯を片付け、購入品の有無や願い事を尋ね、内容に見合った願箋を交付し書き方まで指導し、各自の購入品を配布し、図書を配布し、洗濯物を回収し洗濯後には交付し、廊下をモップで掃除し、風呂掃除をしたりと、ありとあらゆる仕事をこなしている。

 日中は、各部屋を見渡せる番台に陣取っている刑務官の横で何か帳面づけのような作業をしており、部屋からの用事があるたびに、つまり報知器が出されるたびに、すぐにその部屋に行って用件を聞いて処理するという仕事をしている。
 さらには、実刑判決となって刑務所に移ったり、執行猶予や保釈になって部屋が空くと、布団を片付けて部屋の掃除をして備品を補充する。

 評判の悪い人が出ていったときにはかなり文句を言っていたが、空いた部屋の掃除をしながら、「汚ね~な、だらしがないよ」とぼやいていることもしばしばあった。
 私は面倒見さんにいろいろと親切丁寧に教えてもらっていたので、立つ鳥跡を濁さずということもあって、保釈となると分かったその前夜から(弁護士なので保釈の許否の予想がつく)翌朝保釈されるまでの間、部屋の隅々はもちろんのこと、トイレなどもすべてきれいに掃除をしておいた。
 部屋を出る際に面倒見さんが「よかったですね」と声を掛けてくれた。

 私が、布団カバーや枕カバーなどは洗濯に出すことになるはずなので、それを布団などから取り外そうとしていたら、その面倒見さんは、「いいですよ、先生。私がやっときますから、早く出た方がいいですよ」とまで言ってくれた。私にとってはいい人だった。
 今思えば前に書いた私の共犯者が根回ししてくれたのかもしれない。(つづく)

元記事

第44回 刑務所側の人

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