ガジェット通信

見たことのないものを見に行こう

Qiitaが変えるエンジニアの「情報共有の世界」CTO髙橋侑久が語る『仕事の流儀』(前編)

DATE:
  • ガジェット通信を≫

研究者ではなく、プログラマとして世界にサービスを提供しよう

小学生のころからMacに慣れ親しんでいたとはいえ、コードを初めて書いたのは大学の学部時代。コンピュータに仕事をさせるのは、コードであり、プログラマの力は偉大だと思った。LISPの方言の一つ、Schemeから始めたのは大学のカリキュラムの影響だが、今どきのプログラマとしては異色だ。

「90%の学生はこれからプログラムを書きますという人たちだけれど、残り10%は子ども時代からコードを書いていたバリバリのプログラマ。同級生にすごい人がいたのがショックで、それがプログラミングの面白さに気づくきっかけになりました」

大学院時代は図書館情報学の研究室に属していた。Web検索システムを研究していたが、起業にも興味があり、在学中には「はてな」でアルバイトをしたり、博士課程進学後はGoogleのインターンを経験したこともある。

▲Increments株式会社 CTO 高橋侑久氏

「Googleでインターンをしているときに、及川さんと知り合うことができたんですが、及川さんだけでなく、Googleのエンジニアの姿勢には大きな刺激を受けました。これから先、研究者生活を続けるより、実際に人々に使われるプロダクトのためにコードを書いたほうが自分らしいとあらためて気づいたんです」

ちょうどその頃、学部同期生ですでにIncrementsを創業していたCEOの海野弘成氏から声がかかった。「Qiita」は自分も使っており、サービス思想に共感していた。博士課程を途中で終え、スタートアップにジョインすることに迷いはなかった。

「Qiita」の思想への共感はどのあたりにあったのか。

「自分も人のブログで勉強させたもらったクチ。そこで得た知識を何らかの形でエンジニアコミュニティに還元したいとはずっと思っていましたた。情報を抱え込むのではなく、誰もが使える情報共有基盤があって、その上で新しい価値を実現するほうがいい。『Qiita』のようなハブになる場所があったら、これから新しくプログラムを勉強しようという人は、とりあえず『Qiita』を見てと言える。『Qiita』はそういう世界を目指すサービスだと思いました」

自分が必要な機能を実装。コミュニティに支えられるプロダクト

Incrementsは大学時代のビジネスコンテストで知り合った3人が創業。ただ創業時にコードを書いていたのは海野社長一人。

より技術力を高めたり、エンジニアを採用するためにも、技術のヘッドになる人が必要で、そこで呼ばれたのが髙橋氏だった。

参画したのは2013年4月のこと。「Qiita」と「kobito」はあったが、「Qiita:Team」は生まれる直前だった。まずは「Qiita」の下書き機能の拡充を担当。

「僕は『Qiita』に割りと長い文章を投稿するユーザーでした。下書きを書いて、それを清書するというスタイル。だったら『Qiita』に下書き機能をつけちゃおうと。自分の必要性からですね」

「Qiita」のユーザーのほとんどはWeb系エンジニア。だから一般向けのサービスとは、不具合報告やクレームの内容が少し違う。

「ユーザーからのクレームに『内部動作はこうなっていると思うんですけど……』という言い方があったり、サービスがダウンしてもみんな怒るというより、『中の人頑張って』と励まされたりとか」

エンジニアコミュニティに支えられながら徐々に進化するプロダクト開発に、次第にハマっていく。

「Qiita」に下書き機能を実装し終えると、その後、有料サービスの「Qiita:Team」に精力を集中するようになる。

未知の領域における知見と、メンバーの学習意欲が合体する

CTOに就任したのは2013年末。CTOはリードエンジニアであると同時に、エンジニアの組織作りや環境整備にも関わり、エンジニア採用でも重要な役割を果たす。

「その時点で専任のエンジニアは僕一人。人を増やさないといけない。人材採用にあたってのコンセプトを固めてから、実際の採用活動を始めるようになりました」

大企業のエンジニア募集と違って、スタートアップの場合はまさに会社の屋台骨を支えるような2人目、3人目のエンジニアを採らなければならない。

「情報共有のプラットフォームを開発していて思うんですが、情報共有って単に誰かに教えを乞うという一方的なものではない。共有がうまくいくためには、一人ひとりのエンジニアが自律的・自発的に仕事をしていることが前提。だからIncrementsにもそういう人材が欲しいと思いました。チームなので一緒に仕事をして楽しい人。人のことを思いやれるというのもヒューマンスキルとしては重要な要素でした」

求める技術的スキルや経験は、これがなければダメというものはない。あるとすれば「現有のメンバーが知らない領域で、一定のスキルを発揮できること。さらに自分自身が未知の課題を克服するための学習意欲も欠かせない」

未知の領域における知見と、メンバーの学習意欲がうまく合体すれば、チームは強くなるという道理だ。

現在は社員14人に増えた。エンジニア8人。デザイナー3人。徐々に優れたメンバーがジョインするようになった。

社内にはRuby on Railsで開発するエンジニアが多いが、mizchi氏だけはJavaScriptのエキスパートで「ブラウザを主戦場に闘う人」(髙橋氏評)。

他にもRuboCopや RSpecのコアコミッターとして知られるyujinakayama氏、「WEB+DB PRESS」に記事を書いてもいるインフラ・エンジニアのspesnova氏など。

「インターネット的に有名な人が揃ってしまった。だからこれから入る人にはちょっと敷居が高いかもしれない」と髙橋氏は苦笑する。

ユーザーの声を聞きながら泥臭くスタート──「Qiita」が成功した理由

そもそも数あるエンジニア向け情報共有サービスの中で、「Qiita」が成功しつつある理由は何か。

「ユーザの利益を中心に考えるというのが、創業メンバーたちのポリシー。安易に事業拡大に走ったりせず、愚直に開発を続けた。サービスの離陸が結構泥臭かったことが、意外と受けているのかも」と髙橋氏は言う。

自分たち自身が「Qiita」のユーザーであり、自分たちが欲しいものを実装していく、という話は先の「下書き機能」にも窺える。ただ、「自分たちが欲しいものは必要だが、それだけで突っ走るとユーザーが離れてしまう」ということにも早くから気づいていた。

「2013年ころはTwitterでユーザーを見つけては話を聞きに行ったりとかしていました。開発者の思い込みだけで突っ走るのではなく、ユーザーの声にちゃんと耳を傾ける。ユーザーの声をダイレクトに聞くミートアップも、東京、博多、京都、名古屋など全国各地で今も続けています」

もちろんユーザーの機能要望をすべて取り込むことはできない。

「そのまま全部実装するということはないですね。ユーザーはこういう機能が欲しいと希望するが、その背景にはやりたいことがあって、それを実現するにはこの機能が、と考えているだけ。機能を要望している人は、本当は何をしたいのか。真のニーズを聴き取ることが重要だと思うんです」

「Qiita:Team」を使うとプロダクト品質は向上するか

2013年4月にリリースされた「Qiita:Team」は「『Qiita』をクローズドな社内環境で使いたい」というニーズが出発点。非公開のβ版を開発して、それを一部のユーザー企業に提供し、フィードバックを受けた。

いまIncrementsのWebサイトに並ぶユーザー導入事例を見ると、Web業界で勢いのある会社が並ぶ。「Qiita:Team」など優れた情報共有ツールを活用している会社は、開発するプロダクトやサービスも良質だということはいえるのか。

「サービス品質がいいかどうかはわからないけれど、少なくともそのプロダクトはいい作り方をしているとは言えるんじゃないでしょうか。特定の知識が特定の人に属したまま共有されないのは、組織としては健全とはいえないですから。暗黙知を共有知・組織知に転換するサイクルがある会社だと、新しい技術やサービスへの対応が早いということは言えると思います」

もちろん、ツールを入れたらすぐにコミュニティが活性化するというものでもない。あるいは、ツールをポンと置いたらみんながすぐに使いだすというものでもない。ただ、「Qiita:Team」の活用が進む企業には必ず、社内のキーパーソン、旗振り役がいる。

「そういう人をどうやったら増やせるか。そういう人が社内で『Qiita:Team』を導入を説得するにあたっての武器を、僕らがどうやって提供できるか」というのがこれからの課題。

「特に、インターフェイスは重要なので、社内のデザイナーやコミュニティマネージャーが足繁くユーザー企業を訪ね、継続的に話を聞くようにしています。他社での活用事例も伝えながら、一種の情報共有コンサルタント的な役割を果たしています」

今後の「Qiita」や「Qiita:Team」の方向性、及川卓也氏ジョイン後のIncrementsの変化などについては、後編のインタビューで紹介していく。

関連リンク

Increments株式会社
Qiita – プログラマの技術情報共有サービス
Qiita:Team – みんなが手軽に書ける情報共有ツール
Kobito -ソフトウェア開発者のためのMarkdownによる情報記録・共有ソフト

(執筆:広重隆樹 撮影:刑部友康)

カテゴリー : デジタル・IT タグ :
CodeIQ MAGAZINEの記事一覧をみる ▶
  • 誤字を発見した方はこちらからご連絡ください。
  • ガジェット通信編集部への情報提供はこちらから
  • 記事内の筆者見解は明示のない限りガジェット通信を代表するものではありません。

TOP