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丸山健二の「怒れ、ニッポン!」第3回

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丸山健二の「怒れ、ニッポン!」第3回

※小説家丸山健二氏よりご寄稿いただきました

怒れ、ニッポン!

 少年のような心を持った大人という表現を自慢として用いたがる、あまりに恥知らずな男の何と多いことか。そんな連中にかぎって、大人の男として振る舞わなくてはならない非常時にも相変わらず子どもをやっているのだ。その無責任さをまったく自覚することなく、父親面や責任者面を少しも改めない。

 やみくもに国家を肯定し、一から十まで認めるという無思慮な姿勢は、幼稚なゆえに危険な偏愛であって、本当の愛国精神ではない。さまざまな不正や矛盾に対して義憤を覚えるということに端を発しているのが、まさにそれなのだ。ちなみに、「愛国主義は悪党ども最後の拠り所」という言葉をご存じか?

 八百長まみれの相撲を国技同然に扱う日本は、ある意味、国民性を見事に象徴していると言える。根回しという表現でもって和らげてはいるものの、そのやり口の実態はまさしく八百長以外の何ものでもなく、それはこの国のありとあらゆる分野において蔓延している、伝統的なペテン。そして、疲弊の元。

 怒っている場合ではない、非難している場合ではないという、そんな意見に誤魔化されてはならない。怒るときにしっかりと怒っておかないことには、いつかまた必ずや襲いかかってくる悲劇に対処するための効果的な手段を生み出せないのだ。心底からの怒りこそが正義に裏打ちされた未来を差し招く。

 今、被災地の現場に来ている。女川町の真っ只中にわが身を置いている。天災の凄まじさにただただ圧倒されるばかりだ。しかし、最も恐ろしいと思ったことはこの悲惨な光景にたちまち自分の目が慣らされてしまうことだ。当事者でないことがこれほどまでに残酷な自分を生み出すとは思わなかった。

 とことん嘆き悲しんでも、どんなに失望落胆しても、ときには死を選択したくなっても、最終的には自力のみが物を言う。他力は所詮他力でしかなく、踏み台にはなり得ても、しかし、再生復活へ向けての決断と決行は自力に頼るしかない。守護神は自身以外に存在しないことを肝に銘じておくべきだろう。

 神仏という名の、あり得べからざる存在に精神を麻痺させられてはならない。生命を超えた生命を持つと言われているかれらが人間を造ったのではない。人間の弱さと狡さがかれらを生み出したのだ。さもなければ、人類や他の生き物たちがこれほどまでに延々といたぶられつづけるわけがないではないか。

 予想外の悲劇に見舞われたことで孤立感が深まり、他者の力に頼らざるを得ない状況に屈辱を覚えているうちに、それまではあれほど前向きだったおのれにすっかり自信が持てなくなり、もしかするとわが人生は哀れな結末に終わるのではないかという不安に苛まれる段になって初めて底力が発揮される。

 自己の実力や能力というものを、それまでの経験や体験によってのみ推し量ってはならない。つまり、おのれをそう簡単に見くびってはならない。どん底の境遇に投げ込まれたことがなかったせいで、ただそれだけの理由で、安閑として暮らしてきた自分を弱いと勝手に決めつけているだけのことなのだ。

 人をとことん駄目にしてしまう原因は、試練の数の少なさだ。あるいは、試練に挑もうとしない逃避癖だ。そして、その場凌ぎの癒しや、臭い感動のあれこれがほとんど利益目当てで氾濫する社会に取り込まれ、本物の慰安や本物の感激の味をすっかり忘れ、いや、一度も味わうことなく生きてきたせいだ。

 最初から高貴な性格の持ち主も、最初から侮りがたい人物も、最初から圧倒的な魅力を放つ人間もいない。かれらは挫折や落胆や悲劇をきっかけにして絶対的孤立に追いやられ、完膚なきまでに叩きのめされ、臨界の彼岸ぎりぎりまで追いつめられたことで、人生には敢闘あるのみと悟った人たちなのだ。

 誰にでも参加できる至高のボランティア活動とは、原発に異を唱え、そのすべてを廃炉に持ってゆく姿勢を表明することだ。原発が存在する限り、この国の未来の設計図は絶対に成り立たない。農業も漁業も林業もあったものではない。それでも原発を推進させたがる連中の性根は自滅の欲で腐っている。

 これほど甚大な被害を受けた当の国なのに、原発反対運動が一向に盛り上がらないのは一体全体どうしたことなのかと憂いていたところ、ここへきてようやく勢いを増してきた。喜ばしい限りだ。しがらみの数が少ない若者たちまでがだんまりを決め込むような腑抜け揃いではなかったことに救いを感じる。

 たった一度の人生なのに、人間を人間たらしめる理念に背中を向け、実際にはさほどの強者とは思えぬ輩の顔色を窺い、鼻息を窺って、大した見返りがあるわけでもないのに、リストラされるときにはバッサリと斬られてしまうというのに、おのれの心を歪めてまで屈従するとは。そんな自分をどう思う。

 隷従のなかでしか安住できない人間に成り下がってしまってはいないか。それは物心がついたときからすでにして始まっていたのではないか。自由をさかんに口にしながら、実際には自由をめざすことが苦痛なのではないか。そう、確かに自由は危険な道のりである。しかし、個人の自由こそが至宝なのだ。

 動物園の動物に共通するメリットは生涯にわたって餌の心配が無用であることだが、そのことを勤め人のそれと同一視するのは早計だ。動物は息を引き取るまで面倒を見てもらえても、勤め人は高齢による労働力の低下や、景気の変動や、雇い主の気まぐれなどによって途中であっさりと放り出されてしまう。

(つづく)

丸山健二氏プロフィール
1943 年 12 月 23 日生まれ。小説家。長野県飯山市出身。1966 年「夏の流れ」で第 56 回芥川賞受賞。このときの芥川賞受賞の最年少記録は2004年の綿矢りさ氏受賞まで破られなかった。受賞後長野県へ移住。以降数々の作品が賞の候補作となるが辞退。「孤高の作家」とも呼ばれる。作品執筆の傍ら、350坪の庭の作庭に一人で励む。
Twitter:@maruyamakenji

※原稿は丸山健二氏によるツイートより

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