軽井沢バス転落事故で発覚したずさんすぎる管理体制 「これを機に事業縮小」で許されるわけがない!

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軽井沢バス転落事故で発覚したずさんすぎる管理体制 「これを機に事業縮小」で許されるわけがない!

僕は新潟在住の物書き。基本的に原稿は家で書いているんだけど、たまに取材が入って地方に出向くこともある。この際に利用する交通機関は、新幹線か大型バスだ。

新幹線は何よりも安全で、短時間で目的地に到着するのが良い。一方で大型バスは移動に時間もかかるが、寝て過ごせばOKだし、何より安い。手持ちが少ない時に仕事が入ったら、まずはバスの座席照会をするものだ。

ところで大型バスの運転手というものは、近年高齢化が進んでいるという。その理由の一つになり手がいないということが挙げられるそうだ。国交省によれば、ここ10年はバスの運転手数がおよそ12万人のまま特に推移していないという。

そしてこのうち、6人に1人が60歳以上となっており、多くのバス社が運転手の慢性的な不足に頭を抱えているという。そんな中で悲劇が起きてしまった。
運転手は65歳の高齢者、なのに健康診断も適性検査もなし

1月15日に長野県北佐久郡軽井沢町の入山峠付近で発生した、大型バスの転落事故。乗員・乗客41人全員が死傷し、1月19日時点で死者15人にも上ってしまった。現在でも事故原因をめぐって報道が盛んだが、ここにきてとんでもない現状が発覚した。

事故を起こし、運転手2名を喪ってしまったバス会社「イーエスピー」は、2014年に運送事業に参入したばかりの新参会社であった。その「イーエスピー」に対して、2015年2月、国交省が立ち入り捜査に入っていたのだが、その捜査で明るみになった実情が、まあ酷い。

運転手は健康診断を受けておらず、業務前には酒気帯び確認もしていない。挙句、入社時点での適性検査もしていなかった。

さらに呆れたのが、事故当時に運転業務を行っていた土屋広運転手が、大型バスの運転が不慣れだと会社に対して主張していたにも関わらず、大型バスを運転させていたことである。報道では、同社の営業部長が面接担当者からこの旨を知らされていたと語っているが、だったらどうして大型バスを運転させたのか。

まして土屋運転手は当時65歳。65歳はもう高齢者だし、「イーエスピー」に入社した時期だって、昨年12月である。しかも同社での業務も、それまでたった3回だけ。大型バスに不慣れと話していた高齢者に、乗客を乗せたまま雪道を運転させるというのは、あまりに危機意識に欠ける。
乗客にシートベルトの着用も促さず、おまけに虚偽の書類作成疑惑まで

ところで、大型バスの運転手は、どのバス会社でも必ず、乗務員台帳を作成することになっているそうだ。この乗務員台帳は、運転免許証など運転に基本的な情報や、持病の有無などについて記載された大切なものだ。しかし国交省の調査では、「イーエスピー」が運転手に対してこの台帳を容易していなかったことも明らかになっている。

それだけではない。事故の状況を見ると、シートベルトの着用すら促されておらず、実際に多くの乗客が着用していなかった状況も明らかになった。大型バスの利用者に対して、出発前に目的地への到着時間の目安や、途中の休憩所についての情報と共に、シートベルトの着用は必ず促すものである。

僕も複数のバス会社を利用しているが、これはどの会社を利用しても変わらないことだ。こういった、安全のための基礎的な意識さえ、「イーエスピー」には備わっていなかったのだ。

まだまだ呆れた事実はある。事故を起こしてしまったことで運行が途中で中止になってしまったにもかかわらず、何故か業務終了の印鑑が押された書類が発見されたのだ。これはつまり、日常的に業務の終了については虚偽の報告書類を作成していた可能性まで出てくることになる。幾ら最近になって参入したといっても、これほどまでに誠実さの欠片もないバス会社があったとは。
危ない前兆はいくらでもあったはず、なぜもっと早く撤退しなかったのか

この事故については、運転手に対して支払われていた報酬が、全く実働に見合っていなかったことも見逃せない。亡くなった運転手の土屋さんに支払われる報酬は、8時間の休憩も含めて、東京・新宿―長野・北志賀高原を往復して2万5000円。高齢者に不慣れな大型バスを運転させておいて、それしか支払っていないとは……。

「イーエスピー」の高橋美作社長は、事故後「運行上の管理の未熟さに、ずさんさ、本当に実感しておりまして、これを機にバス事業部の縮小を行うことを決めました」と話している。

被害者や亡くなった方の遺族からすれば、何が「『これを機に』だ!」と思うことだろう。これだけ不備の多い会社だ。「これを機に」と感じるきっかけは、事故以前に幾らでもあったはずである。幾ら泣いて見せても、土下座して見せても、亡くなった方は戻ってこない。

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