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元リブセンスCTOから、現役の医師や小説家まで──Web技術で日本の医療を変えたいと集結する『メドレー』のユニークな役員たち

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エンジニアは全体を動かす原動力になるべき

「『医療×IT』というと、結構かたくて古いシステムかと想像されるかもしれません。スーツを着たSEがせっせと病院を回って医療情報システムを導入するみたいな。しかし、私たちの事業は、Webによる人材マッチングと情報提供サービス。常に新しいWeb技術を積極的に取り入れて、モダンなシステム開発を心がけています」と言うのは、メドレー取締役CTOの平山宗介氏だ。

同社は医療介護求人サイト「ジョブメドレー」、医師たちがつくるオンライン病気事典「MEDLEY」などの事業を展開している。

「ジョブメドレー」についてはRuby on Railsで開発し、DBはMySQL、インフラはAWSという組み合わせ。Webサービスとしては決して珍しくはないが、今どきのトレンドをきっちりと押さえている。

一方、「MEDLEY」はPHPとMongoDBがメインだが、爆速フレームワークとして定評のあるPhalcon PHPを導入してスピードを担保している。いずれもスマートデバイスや高精細ディスプレイでの閲覧の双方に耐えうるよう、UI/UXも考慮されている。

「開発言語・開発環境はそれぞれ違うものの、基本的にはフロントとインフラを分けず、一人のエンジニアが何でも屋として両方に関わることができるようにしています。
さらに、エンジニアがサービスの内容にコミットし、全国の病院を訪問する営業職や、求職者のキャリアサポートを担当するスタッフとも対等に話し合えるような雰囲気づくりも心がけています。
エンジニア集団だけで固まってしまい、技術を細分化してそこに特化してしまうと、サービスとしての整合性やサービス展開のスピード感が失われるからです」と、平山氏は語る。

そこで活かされているのは前職での成功・失敗体験だ。前職はアルバイト求人サイト「ジョブセンス」を運営するリブセンスのCTO。

事業とエンジニアリングを乖離させることなく、エンジニアが営業や企画サイドと同等の立場で、みずからKPIを持ちながら仕事を進める──そうしたエンジニア組織の構築に寄与してきた。

リブセンスの前は大手SIer、グリー、そしてミログなどいくつかの企業で活躍した経験があり、大企業とスタートアップ、両方の組織を知っているのが強みだ。

開発手法でいえば、ウォーターフォール、アジャイルの両方に熟知していた。同社の技術力向上とエンジニア組織の再構築に貢献した後、2015年7月にメドレーに参画した。

ただ、その経験に照らしたとき、メドレーに参加した当初は、まだエンジニアの力が最大限に引き出されていないと感じた。

「一言でいえばモチベーションが低かった。下を向いて粛々と仕事をこなしているだけという状態。エンジニアはもっと楽しく仕事をすべき。営業や事務も含めた組織全体のオペレーションの中で、エンジニアは全体を動かす原動力になるべきだ」

メンバーにそう語りかけ、エンジニアの役割を議論した。医療の未来を明るくするためにはITの力が欠かせないことを、あらためて伝えた。新しいCTOからこうした強いメッセージが発せられるだけで、エンジニアたちの表情はがらりと変わったという。

あらゆる可能性を排除しない独自のアルゴリズムを動かす

メドレーの事業は、医療・介護分野における深刻な人材不足を解決するというミッションを持って2010年にスタートした「ジョブメドレー」が、現時点では最大の収益源になっている。

さらにメドレーのサービスが広く一般に認知されるようになったのは、2015年1月に「MEDLEY」が新規事業としてスタートしてからだろう。

医療従事者による監修のもと、病気に関する膨大な知識を網羅的に集約したオンライン病気事典。病気の一般的な解説だけでなく、医師からのコメント、専門病院や薬剤の紹介までを知ることができる。

内外の医療専門誌や学会誌に掲載された論文のエッセンスをわかりやすく伝えるニュース欄も好評だ。監修に参加する医師は現在約300名。基本的にはボランティアだ。

「MEDLEY」のトップページには、病気や症状、薬、ニュース、医療機関などを検索するボックスがある。実際に使うとわかるがこの検索アルゴリズムが実によくできている。

「かゆい」と入れると、身体の部位が表示され、そこから例えば「眼」を選ぶと、他の症状があるかないかが問われ、それに答えていくうちに症状が絞り込まれていく。

「ただ、単なる条件分岐による絞り込み検索ではないんです。もし条件分岐で、Aではないとすれば、Bというように決めつけてしまうと、可能性のある病気を見逃すことになってしまう。可能性ゼロと断言することは、医療現場では禁じ手。

それは医師の知らない難病かもしれないし、初めて診るケースかもしれない。一意的に決めつけず、あらゆる可能性を排除しない。そうした実際の診断のプロセスをできるだけアルゴリズム化しています。一言でいえば、裏で何度も確率計算を行い、病状のセットから可能性の高い順番に病名を表示するようにしています」
というのは、オンライン病気事典のプロダクトマネージャーの石井大地氏だ。

東大医学部から文学部に『文転』。東大入試の受験ノウハウ本を多数執筆する一方、「今村友紀」名義で書いた『クリスタル・ヴァリーに降りそそぐ灰』で第48回文藝賞を受賞した新鋭の小説家というもう一つの顔を持つ。

実は「MEDLEY」の検索アルゴリズムは、同社の技術顧問であり、東大医科学研究所ヘルスインテリジェンスセンター助教でもある長谷川嵩矩氏が開発した、ベイズ学習を用いた医療用疾患推定システムがベースになっている。

その使い勝手や性能パフォーマンスを高めるため、せっせとたった一人でPHPのコードを書いたのが石井氏だった。

「新規事業だからスタッフがいない。というより新規事業だからこそ、自分の手で最後まで作り上げたかった。最初のコードには作った人の思いが込められるもの」と言う。

PHPエンジニアでもある小説家。いや小説も書くエンジニア兼プロダクトマネージャーというべきか。小説もコンピュータ・プログラミングも、一つの構造化された言語形式という意味では似ていると、石井氏は言う。「21世紀の文学はすべてコード化される」という持論も聞いたが、その話はまた別の機会に。

社内で日常的に進む、医療とITのオーバーラップ

「『3分診療』とも呼ばれる短い診療時間の中では、医師にゆとりはなく、患者さんに正確な医療情報を伝えるのは難しい。患者さん一人ひとりも十分に納得感を得ることができない。
そうした状況を改善するためには、せめて病気に関する一般情報を患者さんが持っていてほしい。医師はそれを前提にすれば、患者さん固有の病状をより詳しく伝えることができるようになる。そのためには、医師の監修による網羅的かつ正確な医療情報サイトが不可欠だと思った」と、石井氏は「MEDLEY」開発の動機を話す。

これは彼がメドレー社に参加した理由でもある。その思いを、コードの形で実装できたのだが、それだけなら開発者の単なるエゴで終わったかもしれない。

先述したように、「MEDLEY」の医学監修には全国の多くの医師が関わる。もちろん、社内にも何人かの医療従事経験者がいて、その知見が活かされているところが最大の強みでもあるのだ。

その中には、ドクターヘリ添乗医や離島医の経験を持ち、今も夜勤アルバイトで日赤医療センターの救急救命医として働くこともあるという、沖山翔氏がいる。プログラム経験こそないものの、PHPのコードが読めるというから驚きだ。

「彼にコードを見せたら、変数名を指摘しながら問題点を指摘してきましたからね(笑)」(石井氏)。

医療ドラマになぞらえて言えば、「Dr・コトー」や「ジェネラル・ルージュ」が、PHPの文法を理解しているというようなものだろう。

医療従事者がITを自分の武器にする。その一方で、ITエンジニアが医療情報分野を自分の力を活かす専門領域として認識する。そうした医療とITのオーバーラップが、メドレーのなかでは日常的に行われている。

なにせ同社の代表取締役のうちの一人の肩書きは「代表取締役医師」。他にも、医師や看護師、カウンセラーの資格を持つ医療・健康の専門家がいる。

「医療分野とか医師の資格を持つ人がいる会社というと、自分には縁がないと思うエンジニアがいるかもしれませんが、医者にかかったり、薬を飲んだりするのは誰もが経験する日常的なこと。どんな人も必ず接点があるものだと思うんです。
そこにエンジニアとして関わることができるのは、面白いし刺激的です。それにね、ちょっと身体の調子がおかしいとかいうときにも、社内の専門家たちが気軽に相談に乗ってくれますからね」(平山氏)。

会社で仕事をしながら日常的なメディカルアドバイスが得られるという意味でいえば、福利厚生的にもバッチリの会社でもあるのだ。

医療サービスの展開を支えるエンジニアの要件

これまで医療サービス専門企業が、外部のシステム会社に外注して医療システムを開発することはよくあった。逆にIT企業が高名な医師を監修役にすえて医療システム分野に参入する例も少なくなかった。

しかし、メドレーはそのいずれとも異なり、医療とITの融合を自らの課題として捉える若いメンバーたちが、日本の医療の現状を変えたいと集まって来た企業だ。

2015年暮れには、日経BP社や有力個人投資家を引受先とする総額2億3000万円の第三者割当増資に成功。今後は、医療従事者のための総合医療サイト「日経メディカルOnline」との連携が進む見込みだ。

そうした新たな医療サービスの展開を支えるエンジニアの要件は、「フルスタックの人」。「これしかできないという単機能のエンジニアは今の時点では求めていない。フロントとバックエンド、システムとデザイン、開発と事業……それらを一気通貫に理解することができる人が欲しい」と、平山氏は望む。当然、そうしたマルチなエンジニアは、かなり個性的な人材である可能性が高い。

「そういう個性をまとめるのが、CTOの仕事。コミュニケーションや情報共有の仕組みをファシリテートし、個性的な人材が自由に動き回れる『空気』を作り出すのが重要な役目」と、平山氏はCTOとしての課題を語っている。

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(執筆:広重隆樹 撮影:刑部友康)

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