漱石を読めば、小説の技術がすべてわかる?

access_time create folder生活・趣味

漱石を読めば、小説の技術がすべてわかる?

『吾輩は猫である』『幻影の盾』『坊っちゃん』『草枕』『二百十日』『虞美人草』『野分』『三四郎』『坑夫』『夢十夜』『それから』『門』『彼岸過迄』『行人』『こころ』『道草』『明暗』—-少年時代から漢詩や漢文に親しみ、英文学はもちろん18、19世紀の西欧小説にも精通、小説様式の大半を把握したうえで、自らも筆を執り小説家となった、明治時代の文系トップエリート・夏目漱石。

 漱石の作品には、小説の基盤となる技術のすべてが結集しており、いわば漱石は”小説の教師”なのだと、文芸評論家の渡部直己さん自著『本気で作家になりたければ漱石に学べ!』で指摘します。

「この国の近代文学史上、漱石ほど幅の広い作家は絶無であるといってよく、ごく単純なジャンル論にしたがっても、その筆は、風刺ユーモア小説、幻想小説、探偵小説、青春小説、心理小説、社会小説、勧善懲悪小説などの広範囲にわたり、文体、人称、焦点化、時間処理、空間構成などの形式面においても、ほとんど一作ごとに自在に形を変じているのだ」(本書より)

 本書では、人物造形法、場面転換の心得、伏線の張り方、比喩の活用、読者との共謀技法など、漱石の作品のなかに見受けられるテクニックの数々を、実際の文章を例に挙げながら解説。なぜ漱石はすごいのか、小説の教師なのか、その理由にさまざまな角度から迫っていきます。

 たとえば、漱石の小説作品において第一に注目したいのは、その書き出し。”吾輩は猫である。名前はまだ無い。”という、大胆な擬人法を用いたあまりにも有名な書き出しからはじまる『吾輩は猫である』。主人公の無鉄砲な性格を伝えるエピソードからはじまる『坊っちゃん』、”智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。”という対句的な断定調の『草枕』。

 あるいは、会話文による書き出しの『二百十日』『虞美人草』『明暗』、目覚めの描写からはじまる『三四郎』『それから』といったように、その書き出しには多様な文体が採用されており、実にヴァリエーションに富んでいます。

 本書の冒頭には渡部さんと、小説家・奥泉光さんとの対談が収録されていますが、そのなかで奥泉さんは「これから小説を書きはじめる人は、漱石の小説をすべて読めとは言わないが、最初の二ページだけ全部目を通したらいいんじゃないかと思うんです。漱石がいかに文体というものを選択し、それが作品となって結実しているかという点を、まず確認すべきだ」(本書より)と述べています。

 ちなみに、そんな奥泉さんが選ぶ、漱石の小説ベストスリーは『吾輩は猫である』『坊っちゃん』『思い出す事など』。学校の教科書で『こころ』しか読んだことのないという方は、まずはこの3作品から読んでみるのもいいかもしれません

■関連記事

文豪たちが綴った"京都ガイドブック"がとてもステキ
文体に注目することで見えてくるものとは?
一篇の詩に込められた、奥深い世界の読み解き方とは?

  1. HOME
  2. 生活・趣味
  3. 漱石を読めば、小説の技術がすべてわかる?
access_time create folder生活・趣味

BOOKSTAND

「ブックスタンド ニュース」は、旬の出版ニュースから世の中を読み解きます。

ウェブサイト: http://bookstand.webdoku.jp/news/

  • ガジェット通信編集部への情報提供はこちら
  • 記事内の筆者見解は明示のない限りガジェット通信を代表するものではありません。