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技術の力で料理を変える!? 『クックパッド』の裏側を教えてもらいました──立薗理彦の次世代メディア探検隊【2】

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<クックパッドに聞いてみたかったこと・立薗理彦> 

今回は、料理をテーマにしたサービスを提供する「クックパッド」さんにお話を伺います。ユーザーから投稿されたレシピを中心に膨大な料理の情報を提供していて、筆者も料理をする際にお世話になっています。
また、最近はクックパッドさんの技術者ブログの記事が「はてなブックマーク」などで話題になることも多く、エンジニア・ドリブンの会社としても広く知られるようになっています。今回は、サービス運営の哲学、そしてエンジニアの働き方についていろいろな質問をぶつけてきました。

<インタビュアー>

立薗 理彦氏:エンジニア。ニュースサイト“ナタリー”立ち上げ時のCTOとして、バックエンドとUIの開発を行う。その後、サンフランシスコのngmoco社でゲームエンジンの開発にも従事。帰国後、ジャーナリストの津田大介氏と共にアンケートサービス“ゼゼヒヒ”・政治メディア“ポリタス”を立ち上げた。

<インタビュイー>

五十嵐 啓人氏:クックパッド株式会社 検索・編成部 部長。IT系ニュースメディアサイトでディレクター職を経験した後、クックパッドへ。レシピ検索の品質向上に取り組む。

勝間 亮氏:クックパッド株式会社 投稿推進部 部長。ベンチャー企業で動画配信の技術開発を経験後にクックパッドへ。レシピ投稿者のための施策を担当。

▲メディアの裏側を支えたエンジニア同士の語らいが交わされた。

日本最大の料理レシピ投稿・検索サービス

―― クックパッドのユーザー数や利用状況、検索されるレシピの傾向について教えてください。

勝間氏:「毎日の料理を楽しみにすることで、心からの笑顔を増やす」ことをテーマに、1998年3月にサービスを開始しました。

2015年9月時点の月間利用者数は5,576万人で、内訳はPCが1,565万人、スマホが3,021万人、アプリが927万人、フィーチャーフォンが61万人です(ブラウザベースまたは端末ベースにより集計)。ユーザーの多くは、30代を中心とした主婦で、買物前や、晩ごはんを考える夕方16~18時の時間帯にご利用いただく方が多いです。

投稿されているレシピの数は、225万品以上あります。この2年ほどで、スマホからの利用が増えて、レシピ投稿もスマホアプリがPCからの投稿数を逆転しました。

五十嵐氏:よく検索されているレシピは、季節や時間帯(朝昼夜)などによっても異なりますが、「家庭にある食材」で作れる「簡単・時短」の「おいしい」レシピが探されていることが多いです。

「つくれぽ」(「つくりましたフォトレポート」の略。レシピを検索して作ったユーザーが写真付きでレシピ投稿者に報告できる機能)も参考にする方が多いようです。

▲検索しやすい仕組みを構築している五十嵐氏。中華料理全般が得意料理。

アプリを使ってレシピ投稿のハードルを下げるための下地作り

―― レシピ投稿での課題や注力していることは何でしょうか?

勝間氏:いかに簡単に、楽しくレシピを書けるかです。特に最近では、アプリでの体験を向上させることがテーマです。
いきなりレシピ投稿するのはハードルが高いようで、そのハードルを下げる取り組みの1つとして「お料理アルバム」というアプリを開発しました。

料理を写真で記録するアプリで、まずは自分の作った料理の写真を撮りためる習慣を作ってもらい、うまくできたら、レシピとして投稿してもらおうという狙いです。

                    ▲お料理アルバム

―― クックパッドはいわゆるUGC(一般ユーザーによって生成されるコンテンツ)サービスですが、投稿の品質維持や盗作などで苦労したことはありますか?

勝間氏:投稿された内容は、レシピはもちろん、「つくれぽ」の写真やコメントも含めてスタッフが目視でチェックしています。

メインの担当者は3人ですが、効率的にチェックできるツールを内製しているので、この人数でも大きな問題は出ていません。

    ▲クックパッドのPCサイトトップ画面

―― レシピ投稿のハードルを下げるということですが、品質向上のために取り組んでいることは?

勝間氏:どうやって品質を上げるかという議論もありますが、クックパッドはあくまでもプラットフォームです。レシピ作者の投稿を届くべき人に届けることが役割で、品質に口を出す立場ではないので、特別な取り組みは現在行っていません。

ユーザーの利用目的である検索機能を日々改善

―― クックパッドは、主にどのような利用のされ方をしていますか?

五十嵐氏:冷蔵庫の残り物や食材の名前を検索して、レシピを探す方が多いです。また、「朝ごはん」や「おつまみ」など目的でレシピを探す方も多いです。

現在、約225万のレシピがありますが、ユーザーの期待どおりに検索結果を返せるように改善を続けるのが私の役割です。

たとえば一昨年、塩レモンが流行りましたが、「レモンの塩炒め」ではなく、ユーザーさんが期待するような「塩レモン」を調味料として使ったレシピを候補として表示するようにします。

―― レシピ検索では、どのような工夫をしていますか?

五十嵐氏:検索結果は、同じワードで検索しても状況に合わせた結果を返すようにしています。例えば、有料会員は、検索結果を人気順で表示できます。

よく「単純につくれぽ数でソートしているんでしょ?」といわれますが、そうではありません。詳細は明かせませんが、季節によって適切なものを出すなど、毎日使っていても飽きないような仕掛けには力を入れています。

2015年は、レシピが決めにくいクリスマスなどの目的語検索から定番料理を提案することや、食材から作れる料理をクックパッドの多様なレシピから提案し、レパートリー不足を補うためのプロダクトなどの開発を進めました。

例えば、「砂肝」というと一般的には焼き鳥程度しか思いつかない場合も多いと思いますが、写真のように様々な料理になります。これを自動で食材・目的ごとに提案できるような技術・プロダクト開発を行い、毎日の料理をされる方の家事を少しでも楽にできたらと思っています。

     ▲「砂肝」を利用した料理一覧を、クックパッド登録レシピから自動生成した画面

また、これまでの検索は言うなれば「検索クエリ」と「レシピテキスト」のマッチングでした。しかし、例えば「甘いもの」と検索した時、甘いものとレシピに書いてなくても、「甘いもの」であればそれを候補に出すといったことも始めています。

ユーザーが難しい検索クエリを思いつかなくても、そのクエリの裏にあった、本当に欲しかったものを届けられるようにするなど、入力デバイスやユーザーの利用方法に合わせて日々改善を行っています。

技術は重要だがあくまでも手段と割り切る

―― 技術ブログにも力が入っていて、記事の量も多く、はてなブックマークのホッテントリにもよく入っていますよね。技術で問題解決しようという姿勢が非常に強いように感じます。

五十嵐氏:おっしゃるとおりです。私が入社面接をしたときに、この会社では技術のことを知らないと何もできないなと強く感じたことを覚えています。

勝間氏:創業者の佐野陽光が、非常にエンジニアリングが好きな人物なので、その思いが根付いているのでしょう。ただし、技術は重要ですが、技術のための技術になってはいけない。あくまでもユーザーの課題解決のための手段であることを忘れてはいけないとも思っています。

このサービスは何を解決するための手段なのかを忘れないように、というのは社内でもよく出る議論です。

▲ユーザーが投稿しやすくなる仕組みを考えている勝間さん。得意料理は冷しゃぶサラダ。

―― さまざまなトライをしていますが、うまくいかない事もありますか?

五十嵐氏:失敗も少なからずあります。例えば和食、洋食、アジアンなど、「味付け」で分類できる技術ができたので、これは便利だと思って一般公開したのですが、あまり利用されませんでした。

技術が面白かったので、そのまま使われると思ったのですが、実際はユーザーの利用方法と一致しておらず失敗だったと反省することもたくさんあります。

ただ、最近は開発チームとディレクションチームが相互に、ユーザーの問題解決について議論、検証し合いながらサービスをリリースできるようになりました。

おそらく、技術そのままリリースしていたら失敗したであろうプロダクトであっても「もう一度ユーザーの解決したい問題は何だったんだろう?」と立ち返り、本当に必要になった時はじめて技術を利用するというプロダクト開発の進め方が少しずつ根付いてきました。

―― ディレクターとエンジニアはどのような関係ですか?

五十嵐氏:エンジニア自身がユーザー体験に責任を持ったり、ディレクターが自らSQLやコードを書いたりしたりといった、越境してお互いのことを知ろうという文化があり、会社もそれを推奨しています。

新機能やサービス追加にエンジニアが積極参加

―― エンジニアが新機能やサービスの企画を出すことは当たり前にあることですか?

五十嵐氏:こういう機能を入れたいといったアイデアは、エンジニア側から出てくることが多いです。料理を通じて世の中を変えたい、日本の食卓をもっとよくしたいと考えている人にとっては、面白い会社です。

―― サービスを開発している会社などでは、理系と文系の壁みたいな話がよく出ますが、それを感じたことはありますか? たとえば、エンジニアはプロジェクト管理ツールなどを使いたいのに、面倒だから嫌だといわれてしまうとか。

勝間氏:もちろん、エンジニアチームには、このツールを使うのが当たり前といったエンジニア文化がありますが、それを全社的に推し進めようとはしません。エンジニアではないスタッフも参加するプロジェクトでは、そういう人たちでも使いやすいのは何かという建設的な議論のうえでツールを選択しています。

―― 社内で統一されたツール類はどのようなものがありますか?

五十嵐氏:会社全体としては、HipChatを導入しています。社内の情報共有には、内製ツールでブログとWikiが合わさったようなものがあります。

共通ツールとしてはそれくらいで、あとはプロダクトごとにバラバラです。GitHub EnterpriseのIssue、Basecamp、PivotalTrackerなど、状況やチームの好みで変わってきます。

何よりも優先すべきは、ユーザーにプロダクトを届けることで、手段は二の次ですから。

▲連載ホストの立薗さん。得意料理はパスタ全般。

業界屈指のRuby on Railsヘビーユーザー

―― クックパッドは業界内でもRubyのヘビーユーザーとして有名で、Ruby on Railsのプロジェクトとして世界最大級ですが、採用した理由は何でしょうか?

勝間氏:開発スピードを優先した結果です。もっとも早く自分たちのアイデアを形にしてユーザーに届けることを考えたら、Ruby on Railsがもっとも効率的だったというわけです。

―― Ruby on Railsであることのデメリットは?

勝間氏:Rubyならではのデメリットは、特に感じていません。ただし、「パフォーマンスに気をつけたコードを書く」「レスポンスタイムを上げるためにアプリケーションの中に適切にキャッシュを入れる」など、Webアプリケーション開発において当然のことをきちんと行うことは重要です。

パフォーマンス面も、サービス開発エンジニア自身が気をつけることはもちろん、開発基盤チームやインフラチームのエンジニアも努力してくれているので、大きな問題は出ていません。

―― コードレビューはどのような体制でしていますか? また、気を付けていることはありますか?

五十嵐氏:自部署のメンバーだけのこともありますが、それだけだと不安なときは、エンジニアリングの知識にもっと詳しい技術部の人を呼んでやることもあります。

勝間氏:気を付けていることは、絶対修正してもらいたいレベルなのか、時間があったら修正を検討してもらうレベルなのか、自分のスタンスを明らかにする。無機質な感じにならないよう感情を出すために絵文字も積極的に使う。

あとは逆の立場の話ですが、何でもかんでもコメント欄でやり取りし過ぎないことですね。といっても、炎上するときはしちゃいますが(笑)。

スマホシフトで開発体制と求められるスキルが多様化

―― スマホシフトが進んでいるとのことですが、スマホアプリも社内で開発しているのですか?

勝間氏:2年くらい前から、モバイルに注力しなくてはという意識を全社的に持っています。エンジニアリングに関しても、いままでRubyしか書いていなかった人が、JavaやObjective-Cでアプリを書いたり、その逆をしたり、多様化しています。

           ▲スマホ向けアプリ画面のトップ

―― 簡単にできるものですか?

五十嵐氏:ネイティブコードでアプリを書いたり、フロントエンドを作ったりする以外にも、アプリのバックエンドの開発など貢献のやり方はさまざまです。

全員がUIの作り込みをするような状況にはならないとは思いますし、それぞれの得意分野を活かして、アプリに対して参加していく方法もそれぞれだと思います。

そのためにも、僕らがもっとサービスを広げて、エンジニアが挑戦できる幅を広げていきたいです。「エンジニアはやりたがっているのに、会社的に無理」という状況にならないように。

レシピ検索だけでなく料理全般のワンストップ情報サービスを目指す

―― 今後の展望や重視していく取り組みはなんですか?

五十嵐氏:ユーザーから期待はますます高くなっています。レシピ検索については、レシピだけでなく、料理に関することなら何でも見つかる、料理検索にしていきたいと考えています。

―― ほかのメディアで面白いと思っていたり、注目していたりするものはありますか?

五十嵐氏:定額の音楽配信サービスですね。レコメンド機能がよくできているので、食の分野ならどうアプローチできるか考えています。

勝間氏:投稿という観点だと、気軽に投稿できるサービスとしてインスタグラムに注目しています。年配から若い人まで、幅広い層が投稿しているのは、ヒントになるのではないかと。

―― 読者であるエンジニアに向けてメッセージをお願いします。

五十嵐氏:レシピの投稿は、日本中の家庭の食卓で食べられているものをどのようなフォーマットやUIで情報を集めるかを考える楽しさがありますし、レシピ検索という意味では国内企業で検索エンジンをまじめに作り込める貴重な会社のひとつだと思います。

食に関してはユーザーさんがものすごくたくさんの悩みを抱えているだけに、自分たちが解決すべき楽しい課題をユーザーさんが次から次へと僕らに与えてくれます。

勝間氏:食というテーマは、今後も絶対になくなることはないでしょう。そんな永遠のテーマに対して、技術的な観点からアプローチできるのは非常に恵まれている環境です。その魅力が、1人でも多くのエンジニアに伝わるとうれしいですね。

―― ありがとうございました。

<取材を終えて:立薗理彦>

取材に先立って、クックパッドさんのブログを読み返したのですが、技術の力をサービスに取り込む姿勢と圧倒的なアウトプットの量には驚きました。実際に話を聞いたお二人も、静かな語り口のなかに思い入れをたくさん感じることができて、とにかく熱い会社という感想を持ちました。

「検索」を中心としたサービス・デザインは、制作したコンテンツをユーザーに向けて送り出すニュース・メディアとは根本から発想が異なっていて、ユーザーが能動的に情報を求める、いわば「Pull型メディア」といえるのではないでしょうか。

「いかに拡散するか?」「いかにユーザーの目を引くか?」という視点から離れて、ユーザーの要求を理解し、よりマッチした情報を届ける工夫がされていました。

どうしたら、自分たちのメディアをもっと能動的に利用してもらえるようになるだろうか。そんな風に考えてみることも、新しいメディアの姿を探るヒントの1つになるのかもしれません。

(文:仲里淳、撮影:志立育)

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