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「不動産流通」の改革には行政・民間に加え消費者の意識改革も

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欧米諸国の7~9割に比べ、わが国では約15%にすぎない中古住宅流通シェア。その一方で、住宅を所有していても評価されるのは土地だけで、資産としての住宅は不当に低く評価されている。成熟社会を迎えたわが国では、住宅を長く利用し、資産として適正に流通させることが求められている。そのためには、不動産流通の改革が急務だという。不動産学者で、国の不動産行政の審議会委員なども務める清水千弘氏にお話しを聞いた。清水千弘氏(シンガポール国立大学不動産研究センター教授)
1967年岐阜県大垣市に生まれる。東京工業大学理工学研究科博士課程中退。東京大学博士(環境学)。専門は、指数理論・不動産経済学。株式会社リクルート住宅総合研究所主任研究員、麗澤大学経済学部教授等を経て現職。マサチューセッツ工科大学不動産研究センター研究員、ブリティッシュコロンビア大学経済学部客員教授等を兼務する。国土交通省社会資本整備審議会都市計画検討小委員会、都市マネジメント部会専門委員等を務める30年で無価値に、取り壊される住宅。失われる国民の資産

清水氏は、国の審議会などで意見を述べるほか、有志の民間事業者をメンバーとした研究会を主宰するなどして積極的に発言を行ってきた。2015年11月には、清水氏自身が座長を務める住宅新産業研究会から「透明で中立的な不動産流通市場の条件」という提言を発表した。

清水氏は、提言を発表した背景について「日本では、住宅が国民の資産として適正に形成されてきませんでした。建物は古くなると、不動産取引上は無価値とみなされたり、30年程で建て替えられて経済的価値が消滅していました。これからは人口減少・高齢化に伴って社会全体がダウンサイジングしていくことで、空き家の増加や放置などの課題を抱えています」と説明する。

【画像1】日本の住宅資産額は累積住宅投資額に比べ500兆円以上少なくなっているといわれている(出典:国土交通省「中古住宅市場活性化・空き家活用促進・住み替え円滑化に向けた取組について」より抜粋転載)

こうした状況に対して「これからは、住宅の利用価値をいかに長く存続させるか。そして、住宅の資産価値を高めていくような社会を形成することが求められています」と語る。

「2009年からはじめられた長期優良住宅制度に代表されるように、近年は長寿命で質の高い住宅がつくられるようになっています。こうした住宅は、一家族・一世代で使い切り取り壊すのではなく、中古住宅市場で適正に評価され流通することが求められます」と、国民経済や住宅ストックの観点から、従来の不動産の価値観や生活者の意識改革を図る必要性ついて説明する。そのためには、きちんと中古住宅が評価され取引されるような流通市場を形成していくことが必要だという。

【画像2】日本の中古住宅流通のシェアは14.7%と欧米に比べて少ない(出典:国土交通省「中古住宅市場活性化・空き家活用促進・住み替え円滑化に向けた取組について」より抜粋転載)中立的な住宅市場をつくり住宅を社会資源に

清水氏は「まずは、中古住宅市場の正常化が急務である」と強調する。その正常化の試みが、2016年1月、不動産流通システムにおける情報公開として実施されている。
(詳しくは山本久美子氏の記事「中古住宅の売り手・買い手に朗報、不動産情報システムに新機能」を参照)

宅地建物取引業法では、不動産の売却仲介を一業者のみに任せる場合、売主が不利な取引を強いられないように物件情報を「レインズ」と呼ばれる仲介業者同士で情報共有できるシステムに登録することが義務づけられている。ただ、システムへの登録情報では、物件の取引状況は分からない。これについて、「公開中」「書面による購入申し込みあり」「売主都合で一時紹介停止中」といった表示を求め、中古住宅の売主自身も、インターネットを介して取引の状況を確認できるようにした。

この見直しは、一部業者によって、本来は禁止されている物件囲い込みが指摘されていることに起因する。媒介を依頼された仲介業者が問い合わせを受けても「商談中」などと偽り取引を拒否する。その間に、自ら買い手を探し、売主と買主から仲介手数料を二重取りしているとされている。囲い込みによって、売却期間が不当に延びたり、公正な取引を阻害して、売主にとっては不利益となっていた。情報開示によって、こうした不正を防ぐ。

また、物件情報について、建築士等による耐震性能や住宅診断報告書の有り無しなど中古住宅の住宅性能・品質等についての情報が追加されたことも、買主にとっては、物件購入の判断材料となり、有益な改革だ。清水氏は「不動産流通においては、業者と売主・買主といった住宅消費者の情報の非対称性が課題とされてきた。このような情報開示によって、市場の透明性や中立性が進められます」と説明する。不動産取引価格や住宅履歴など、行政が担うべき情報の整備・開示も

そして、こうした事業者が取り組むべきことのほかに「これまで取引価格情報が十分にオープンにされておらず、その整備・開示については、他国と同様に国が主導し行うべき課題です」(清水氏)と行政の役割についても語る。

このほか、住宅履歴情報と呼ばれる、住宅の製造段階から時間を経る中での劣化や補修・リフォームなどの情報を蓄積する社会システムの構築。これからなお一層進む人口減社会にあってはそもそも住宅を利用する人が減る。中古住宅の用途転用を含むリノベーションや民泊など新しい利用を促進する方策に関連した規制緩和や法律などの制度設計を、国が率先して行うことについても提言に盛り込んでいるという。

こうした情報開示や規制緩和を進めることで、日本の不動産市場に海外からの投資を呼び込んだり、IT技術やビッグデータ等の活用による市場変革を促すことができる。そして、個人の信用度や不動産担保融資の枠組に依存した現在の住宅ローンのあり方から、住宅の品質や価値に基づいた新しい金融市場の醸成なども期待できるのではないかと解説する。

アメリカなどでは、こうした不動産取引や建物性能に関わる情報開示が進んでいることを基盤にして、より正確な不動産価格を導き出すサービスなど、イノベーションとして新しい不動産取引に付帯するサービス・業種が生まれているという。住宅消費者も受け身ではなく、責任を持った賢い消費者に

清水氏は、国や不動産事業者に対して提言を行うばかりではない。住宅の売り買いをする消費者側についても注文を付ける。

それは「住宅仲介市場が適正に機能していくには、不動産仲介業者はもちろんのこと売主、買主を含む消費者も責任を明確にする必要があると考えています」と言う。

例えば住宅診断(インスペクション)を機能させるには、売主や買主がその責任を負うことが大切だと考えるからだ。「アメリカなどでは、売り手に対して一定程度の情報開示の義務を負わせると共に、消費者に対しても商品を見極める責任を負わせています」と説明する。これまで、中古住宅の隠れた瑕疵なども含めて不動産仲介業者に負わせてきた責任が大きすぎ、消費者は過度に保護されてきたと感じているからだ。

「消費者も責任を持った賢い消費者に成長するべきでしょう。そうすることで、不動産事業者も本来の役割を発揮できます」と語る。
さらに「ストック中心の不動産流通市場では、中古住宅の購入者は、ひいては中古住宅の売主にもなります。住宅を適切に管理して、価値の維持向上に心がけ、次の購入者に手わたしていく。消費者自身が不動産の売り買いのなかで、このチェーンを回していく社会を求めることも大切です」と説明する。

つまり、不動産流通市場の進化は、行政による情報の整備・開示、仲介事業者の業務の透明性・中立性の確立、住宅消費者が賢い消費者となり健全な不動産市場を求めること、この3つを適切に進めていくことで実現可能なのだ。

【画像3】不動産流通市場が進化するためには、行政、民間、消費者の三者がそれぞれ改革・努力することが必要だ(取材をもとにSUUMOジャーナル編集部で作成)

このことは何もこれから中古住宅を求めようという人だけが関係ある話しではない。例えば、既に新築住宅を手に入れて住んでいる人も、その資産価値の行方を気にかけ、またいずれは売却する機会もあるかもしれない。誰もがその当事者になる可能性があるのだ。不動産流通市場の改革は始まったばかり。清水氏の提言を含め、その動向を注視する必要がある。清水氏が座長を務める住宅新産業研究会による研究成果と政策提言の全文がご覧いただけます。
「透明で中立的な不動産流通市場の条件 –情報流通整備と新産業の重要性-」
 1.新たな局面をむかえる日本の住宅市場
 2.情報整備の必要性
 3.情報整備の内容
 4.新しいビジネスの育成とイノベーション
 5.ビッグデータの活用・住宅金融市場の整備
 6.提言:透明で中立的な不動産流通市場の構築のために何が必要か?
別添資料:研究会メンバーおよび研究会の記録
元記事URL http://suumo.jp/journal/2016/01/12/103924/

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