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若い旅人とアラビア語が刻まれたコップが写した世界の戦争の縮図

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Photo credit: Nakano Takayuki「ヨルダン〜思ったより都会で、思われてるより治安がよくて、世界遺産が華やかな国〜」

こんにちは!TRiPORTライターのへむりです。
中東やイスラム教ほど、誤解されている地域と宗教はないのではないかと思います。「怖い」「危険」というイメージとは裏腹に、中東やイスラム諸国で、すごく素敵な経験をした旅人は決して少なくないでしょう。僕自身も、すごくお世話になった人たちの住む地域や信じる宗教が、誤解されるのはすごく悔しいです。

僕は今、中東の国、ヨルダンに滞在しています。シリア、イラク、サウジアラビア、イスラエルに囲まれた、人口の9割以上がイスラム教徒の国です。ある日、そこで出会った日本の若い旅人との出来事を通して、「こうして世界は誤解され、争いが起こるのかも…」と不安になりました。

旅の仕方は人それぞれ。人の考え方も人それぞれだと思います。

ですが、地元の人が大切にしているものを大切にして欲しいという気持ちから、記事を書かせていただきます。

世界一周中の青年との出来事

ヨルダンの首都アンマンで、何気なくお土産屋さんに入ると、陽気な店員さんが迎えてくれました。シリアのアレッポ石鹸があったり、働いている子どもを指差して「この子はシリア人だよ」と言ったりと、興味深いお店だったので、のんびりと店内を物色していました。すると店員さんが「日本人がいたぞ」と、僕のところに高そうなカメラを首からさげた青年を連れてきました。

その青年は休学中の大学生で、世界一周中とのこと。
「明日、ヒマなんですよね。ヒマな人がいたら一緒にどっかに行くのに」と、その青年から遠回しに誘われてるような気がしましたが、僕はその誘いには乗りませんでした。翌日は特に予定がなかったにもかかわらず、誘いに乗らなかったのには理由があります。

彼は旅中に灰皿を集めるのが趣味らしく、お店にある灰皿を見ていました。そして彼が手にしたのは、アラビア語の刻まれた銀のボウル。

僕がその銀のボウルを指差し、「灰皿なの?」と店員さんに聞いたところ、「そこに書かれてるのは、クルアーン(イスラム教の聖典)の言葉だから、灰皿なんてとんでもない! それは水を入れるカップだよ」とのことでした。その旨を青年に説明したのにもかかわらず、「いやぁ、ぜひ灰皿にしたいな」と言い、銀のボウルを購入しました。日本にある行きつけのカフェにプレゼントするのだそうです。

僕が「国際問題になるかもよ」と忠告しましたが、気にする様子はありませんでした。この出来事があったので、そういう人と時間を過ごしても楽しくないだろうと思い、明日の約束もせず、Facebookなどの連絡先も聞かずに別れたのです。

Photo credit: Nakano Takayuki「ウズベキスタン うるるん滞在記 〜世界遺産と雑貨探し!シルクロードの旅〜」

イスラム教の人にとって「クルアーン」とは

イスラム教の人たちと住み、家族同然の付き合いをさせてもらった経験から、彼らがクルアーンをどれほど大事にしているかを知りました。クルアーンとは、イスラム教の聖典で、キリスト教で言うと聖書です(日本語だとコーランと書かれてます)。

日本でも数年前にクルアーンが破られてイスラム教徒が激怒したニュースや、『ジョジョの奇妙な冒険』のアニメの1シーンで、敵のボスキャラが持っている本がクルアーンの表紙であったことが問題視されました(原作では普通の本で、アニメ制作会社がアラビア語で書かれているものを吟味せずに選んだそうです)。

日本人からすれば「たかが一冊の本」に見えるかもしれませんが、彼らはとても丁重にその書物を扱っています。どの家にもクルアーンがありますが、クルアーンの置き場所は棚の最上部。他の本と重ねるようなこともしません。

スンナ派、シーア派という大きな区分だけでなく、アラウィ派やワッハーブ派という様々な宗派に分かれてはいるものの、共通して言えるのは「クルアーンの言葉を非常に重く受け止める」ということです。

偶像崇拝を禁止していることから、像や絵画の代わりに文字を使って動物を描くこともありますし、モスクではシンプルながら美しいアラビア書道で描かれたクルアーンの言葉を目にできます(シーア派は偶像崇拝が禁止されていないため、預言者ムハンマドの肖像画などもあります)。

Photo credit: Nakano Takayuki「ウズベキスタン うるるん滞在記 〜世界遺産と雑貨探し!シルクロードの旅〜」

クルアーンの重要性を日本人にわかりやすく伝えようとしても、うまく喩えができないのですが、鳥居や仏像を無下に扱わないのと似ているかもしれませんし、クルアーンを粗末に扱うことで怒りさえ覚える侮辱に値するという意味では、あなたの大切な人が邪険に扱われたような感じだと思います。日本で生まれ、育った人だと実感しにくいとは思いますが、彼らにとってクルアーンは、「とにかく大切なもの」なのです。

その「とにかく大切なもの」が、灰皿にされるというのは、どのような気持ちになるのでしょうか。「何もそんなムキにならなくても」と思う気持ちもわかりますが、「とにかく大切なもの」が汚されたり、無下にされたりしたときに怒る気持ちもわかります。

旅は理解を深める?溝を深める?

いつか日本のカフェで、青年が買った銀のボウルを見たイスラム教徒が、怒りを示したとき、真っ当な怒りであってもイスラム教は「怖い」「危険」というイメージが深まるのではないでしょうか。なぜなら怒られても仕方ないほどの侮辱をしたほうは、自覚がないからです。

いま起こっている多くの紛争は挑発されて手を出したほうが、「テロリスト」や「暴力的だ」というレッテルが貼られ、挑発したほうが「正義」で「合法的」な武力行使(という名前の無差別殺人)を行っていると思われているのが現状です。今回の青年との出来事から、まるでその縮図のようなことが起こりうるかもしれないという不安がよぎりました。

旅は様々な価値観と出会うことができる機会です。自分の価値観を大切にするのもいいですが、旅で出会った現地の人たちが大切にしているものに目を向けて、その価値観を尊重することで、よりよい旅になるのではないでしょうか。

ライター:へむり。
Photo by: Nakano Takayuki「ウズベキスタン うるるん滞在記 〜世界遺産と雑貨探し!シルクロードの旅〜」

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*Nakano Takayuki「ウズベキスタン うるるん滞在記 〜世界遺産と雑貨探し!シルクロードの旅〜」
*Nakano Takayuki「ウズベキスタン うるるん滞在記 〜世界遺産と雑貨探し!シルクロードの旅〜」

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