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【佐々木俊尚が語る】2016年、ホラクラシーな組織でエンジニア「個人」が注目される時代になる

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「好きなときにつながれる」からリモートな働き方ができる。

──「地方でのリモートワーク」を導入するIT企業が増えていますね?

確かに、IT企業に勤めるエンジニアはリモートワークと非常に相性がいいですね。ここ数年は“目新しさ”によるメディアへの露出は減っているかもしれませんが、しっかりと定着していますよね。

▲福井、軽井沢、東京の多拠点で生活し、そのメリットを享受している佐々木さん。

例えば、IT企業のサテライトオフィスが多く入居することで有名になった徳島県神山町なんて、最近は企業が集まりすぎてネットが遅くなったんじゃないかという笑い話もあるくらい。

人口約6,000人の町は、「神山バレー」として注目され、年間2,200人の視察者が訪れるという。2013年にシェアオフィス、2015年に短期滞在型宿泊施設「WEEK神山」がオープン。

友人にもそういう勤務体系の人が増えてきました。兵庫の実家に住みながら、渋谷の会社に勤務している友人がいますが、iPadに常に会社のオフィスの様子が映し出されている。会議をするときは、渋谷の会社の彼の席にiPadが置かれて、そこに彼が映っていて会議をしている。日本に関しては、回線が隅々まで行き渡っているから、離島や山小屋などに行かない限り「勤務」できますよね。

地方で、さらに実家だったりすると、生活コストが圧倒的にやすいし、親戚などのコミュニティーがセイフティーネットになっているしで、リモートにしない理由がないくらいではないかな。

さらに、これは2010年以降の特徴だと思うけど、住んでいる地域から何らかの理由で出たとしても、出たら出たっきりという感じにはならない。

Facebookやその他のSNSがあるからで、ある場所で培った人的ネットワークが場所に限定されずに引き継がれるから、そのエリアを出て、違う場所で仕事をすることになったとしても、関係性は緩やかにつながってるんじゃないかと思うんです。

そういう意味では、リモートワークは2010年以降に少しずつ進んでいて、「多拠点生活」になっているんじゃないかなと。

──たしかに。まだ少数ですが京都、東京、鹿児島などをグルグル回りながらWebのデザインをしている人もいますね。格安チケットなどが当たり前になって、移動コストなどが下がっているのも影響しているかも。

熊本県に三角エコビレッジ サイハテ(*)というコミューン的な場所があります。ここは田舎ですが、インターネットが使える。

そういう環境を利用して、平日は東京や福岡で仕事をしているんだけど、週末は熊本のサイハテに戻ってきて農業をやっているというスタイルの人がいる。

まさに、多拠点な暮らし方ですよね。

こういったスタイルの場合、完全に地方に移住するわけではなく、東京にも軸足を置いておけますよね。

東京にいる意味はそれなりにあって、地方だと会える人も限られるから、どうしても閉塞感が出てくると思うのです。

でも、東京では、勉強会などのいろいろな集まりがあって、ネットワークがどんどんできる。だから東京の人間関係を維持しながら、ときどき田舎に行くというスタイルが多くなってきてます。

さらにFacebookなどのSNSを使っていれば、「今日から田舎に行くので一週間連絡が取れなくなります」ということはありません。

東京にいようが田舎にいようが、仕事上はコミュニケーションが取れればいいわけで、どこにいるかということは関係なく、仕事が進むわけです。

三角エコビレッジ サイハテ

──Slackやチャットワークなど、仕事に特化したチャットツールもそういった働き方のサポートになりそうですね。

たしかにFacebookのつながりを仕事のツールとして使うのは、ちょっとプライベート感が強すぎますよね。ただ、Facebook的な、緩やかに相手の状態を見ながら、コミュニケーションが取れるツールのニーズは強くあって、だからこそ、そういった役割が果たせる「Slack」が流行ってきたのだと思います。

SlackはFacebook的なつながりをエンタプライズ向けに再設計をして、ちょっと言葉は古いですが、イントラネットをモダンなツールにして会社の外にまで広げてしまった、そんな感覚で使える部分が非常に受けている感じがしますね。

ほかにもBYOD(Bring your own device。自分のデバイスを業務でりようすること)もだいぶ進んできて、自分のMac BookにSlackを入れて、仕事のパートナーとの朝会などはSlack上で行なって、GitHubからプルリクエストを送って仕事を進めていきます。

こんなスタイルでの開発なら多拠点でもまったく問題ありません。

問題ないというより、「どこにいるか」が、まるで仕事の質などに関係ない世界になっていますよね。

2000年代にもSkypeで同じようなことを実現しようとしていたけど、あのころはまだ「会社でデスクトップパソコン、出先でノートパソコン」でしたが、いまだとどこにいても同じノートパソコンで仕事ができますし、こういった多拠点に向いた技術的な環境がやっと整備された感じがします。

ぼくも福井、軽井沢、東京に拠点を持っていますが、どこにいるかはあまり関係なく、仕事に支障はありません。

カバンにMacを入れているだけで、着替えなんかも各拠点にあるから、カバンひとつでいろんな所に行って仕事ができます。

ただ、ラジオに出る、トークイベントに出るなど、どうしても東京にいないとできない仕事があるので、その時だけ帰ってくるというイメージです。

ちなみに、トークイベントや勉強会などリアルな交流が東京ではすごく盛り上がってきている感じはしますね。

普段はクラウド上で緩やかにつながっているのだけど、距離的にリアルにつながれる東京にいる時は、みんなイベントに出かけたくなるというような雰囲気だと思います。

リアルなイベントなどで引き続き人的ネットワークを広げていける。こういったことが、前にも言いましたが、単純にリモートワークをするのではなく、東京にも軸足をおいた多拠点生活のメリットでしょう。

ホラクラシー的な組織の中でエンジニア「個人」が注目される時代へ

──お話を聞いていると、エンジニアというと、どうしてもデスクに張り付いてずっとコードを書いているというイメージがありましたが、ここ数年は、変化しているのですね。

はい、勉強会やイベントに積極的に参加して、多拠点で仕事をして……と、とても軽やかに仕事をする人というイメージに変化してています。そういった働き方をするからこそ、エンジニア=コードを書いている人、というイメージは薄くなっていますよね。

ちょっと話がそれますが、楽天やサイバーエージェントなど90年代のネットベンチャーは「営業と広告、あとはEC」みたいなイメージでしたよね。営業マンが主体になって企業を築いていた。信じられないかもしれないですが、2000年のころにエンジニアのファウンダーってすごく少なかったんですよ。

それはそれでいいのですが、当時はそれゆえにシリコンバレーから見ると、日本のベンチャーって技術力低いよね、というイメージでした。

これがWeb2.0などと言い始めた2005年くらいに、日本のベンチャーの技術力も一気に上がり始めました。

それまで日本のITには文系の人しかいないと言われていたのが、理系の人だったり、エンジニアが経営者になりはじめたんですよね。

エンジニアから経営者へのキャリアパスが当たり前になる一方で、もっと「エンジニア」と呼ばれる人が手掛けている仕事の範疇も多様になってきていますよね。たとえばWebやアプリなどのフロントエンジニアの場合、これまでデザイナーがやってきた仕事もエンジニアがやるようになってきた。

逆に、デザイナーがコードを書いていて、エンジニア側に染み出してきたりしています。

この辺りは、どこかで業務範疇が決められているわけではなく、それこそ勉強会で得たスキルなどを活かして、エンジニア個人が自分のキャリア特性を拡張してきているんですね。そうやって、個人は「エンジニア」という言葉で作られた枠を超えてきている感じがします。

うーん、超えてきてるというよりは、個人で超えていかないと仕事にならない、そんな時代なのかな?

スマートニュース(*)の松浦さん(松浦 茂樹氏。メディアコミュニケーション担当ディレクター)とも話したのですが、スマートニュースでは、編集者はアルゴリズムがわからないと、いい記事がチョイスできない。つまり、これからの編集者は技術が分からないと通用しなくなるよね、という話題になりました。

同じように、メディア系のサービスなどに携わっているエンジニアなら、編集者としての側面を持たなきゃいけないし、UIやUXデザイナ的なスキルもなければいけなくなる。

世界展開するニュースアグリゲーションアプリ。スマートニュース

──そのような「エンジニアの仕事の定義」が変わったことも働き方の変化に影響を与えていますよね?

たしかに画一的な「エンジニア」というスキルではなく、個人として、何ができるの? という部分にフォーカスが当てられるようになったからこそ、アウトプットさえ出してくれれば「どこで仕事をしていようが関係ない」という働き方が実践できるようになったのかもしれませんね。

最近は「ホラクラシー」という組織のありかたが注目されていて、簡単に言うとピラミッド的な組織ではなくて、個人がアメーバ的にネットワークされるイメージの組織なんですが、目的ごとにプロジェクトを作って、目的が達成したらプロジェクト解散、みたいな組織形態ですね。

Aという案件があるなかで、自発的に個人が集まってそれぞれの得意分野を活かしながらも、その他の役割にも染み出ていくというようなスタイルの組織で仕事をすることになるので、同じ場所に同じ時間にいるというよりも、緩やかに連携を取りながらも個人が責任を持って仕事をすることの方が重要になっています。

数人の個人が有機的に集まって、同じ目的に向かって、自分の特性を活かしながら仕事をしていくスタイル。

これは、なかなか優秀な人じゃないとこなせないスタイルなんじゃないかな?と思うんですが、いずれにしても、組織より個人にフォーカスがあたる仕事の仕方に大きく変わってきてると思います。

語弊を恐れずに言うと、エンジニアの役割は、すごくクリエーター化していると思うのです。

クリエーターである以上は、一定のレベルでアウトプットを出し続けなければいけない。それは、勉強会などのでアウトプットだったり、オープンソフトウェアに対するコミットだったりするのかもしれないけど、自発的にアウトプットを出し続けて個人として際立っていくことが必要になりますね。

Slackしかり、GitHubしかり、そのほかにも請求書管理、名刺管理、会計管理などのサービスもクラウド上にものすごく安く提供されていて、個人で仕事するハードルは非常に低くなりました。

その上で、個人のスキルを上げて、アウトプットをし続ける。そのアウトプットを経由してプロジェクトに「個人」としてアサインされる、もしくは自分から参加していく。

そういった個人を重視した「働き方」が面白いと思えるかどうか? それが、今後エンジニアとして活躍できるかどうかの、大きなポイントになるでしょうね。

──ありがとうございました。2016年もエンジニアの飛躍が楽しみですね。

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