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「食」が地域経済を救う? スローフードとイタリア経済の関係

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 「ファストフード」の対義語のように使われる「スローフード」という言葉はすっかり定着した感がある。
 土地それぞれの食習慣や食文化を見直す動きは各所で起こっているし、時間に追われず丁寧に食事をとろうとする人に向けた飲食店も増えてきた。
 だが、『里山産業論「食の戦略」が六次産業を超える』(金丸弘美/著、KADOKAWA/角川書店/刊)によると、「スローフード」の発祥の地であるイタリアは、日本より一歩先を行っているようだ。イタリアでは「スローフード」はもはや単なる「食にまつわる運動」の域を超え、経済に確かに影響を与えている。

■食の戦略
 イタリアのスローフード運動を象徴するもののひとつに、「外国人のためのイタリア料理研修機関(ICIF=Italian Culinary Institute for Foreigner)」がある。これは、イタリアの食文化を国外に伝えることを目的として、1991年に設立された。
 ICIFの事務所は現在、ブラジルやカナダなど世界27カ国にあり、研修生の出身国は実に多彩。卒業生はすでに5000人を超えている。日本人も増えており、彼らの多くは、卒業後、日本国内のイタリア料理専門店で働くという。

 この学校では、イタリアで伝統的に使われている食材や調味料などに触れ、その味や香り、原産地、加工方法などを学ぶ。
 たとえば、ワインと料理の最適な組み合わせを学ぶための授業では、イタリアの20州からワインを取り寄せ、「色の薄さ」「酸味」「渋み」などといった評価基準に沿ってワインをテイスティングし、グラフを作成する。
 次に、料理を試食し、「塩味」「甘味」「苦味」などといった観点から評価を行い、こちらもグラフを作る。そして、そのふたつのグラフを重ねながら、ワインと料理の組み合わせを学ぶのだ。ICIFでは、この訓練を2カ月間ひたすら続けるという。他に、オリーブオイル、バルサミコ酢、ビネガー、チーズなどに関しても徹底した訓練を重ねることで、研修生たちは、イタリアの食文化に関する知識と舌を養っていく。

 本書の著者、金丸さんはICIFのこうした授業にイタリアの「食の戦略」が垣間見えると指摘する。「研修生たちの卒業後」を見据えた上で、このような研修を組んでいるというのだ。金丸さんが指摘する「戦略」とは以下のような流れである。

1.研修生たちが母国に帰ってICIFで学んだ料理をつくる
2.その料理をつくるためにイタリアの食材やワイン、加工品を買い求める
3.彼らがつくった料理を食べた客がイタリアに観光に来る
4.観光に来てイタリアで学んだ食文化や料理、歴史を自国に持ち帰り伝える

 つまり、そこには、ICIFを「イタリアの食文化を農業や観光と融合させるための拠点として機能させる」という戦略があるのではないか、というわけだ。実際、農林水産物に関して、2014年のイタリアの日本からの輸入は2800万ドル、対してイタリアから日本への輸出は11億5700万ドルと、イタリアの対日貿易は大幅な黒字を計上している。
 スローフードは、このような形でイタリア経済にインパクトを与えているのだ。

 本書では他にも、フランスで「豊かな言葉で地元の食材の魅力を語れる人材」を育てることを目的に行なわれている「味覚の講座」という教育法も取り上げている。そして、イタリアとフランスの例を通して著者が投げかけるメッセージは、「人への投資によって、地域の個性を作ることこそが、経済も含めた地域活性につながるのではないか」というものだ。
 そして、まだ実験段階とはいえ、「食環境ジャーナリスト」「食総合プロデューサー」といった肩書を持つ金丸さんはこれら海外事例のフィールドワークを通じて得た知見を日本へ応用することに取り組み始めており、本書ではその事例もいくつか紹介されている。「食」から地方創生を考えるという意味で、示唆に富んだ一冊といえるだろう。
(新刊JP編集部)


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