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覚せい剤爺さん

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 宮崎北警察署の留置場で会ったもっとも印象に残る人は覚せい剤爺さんである。この人のことを書いて留置場で会った人の話の最後とする。

 かなりのお歳で、自称するところによれば覚せい剤事犯ばかりで前科10数犯、人生の大半を刑務所で暮らしているとの強者である。
 今回は、覚せい剤自己使用で捕まった宮崎の人がいて、そこからたどられて、覚せい剤を譲渡した爺さんが逮捕され、さらに覚せい剤を所持しており、尿検査から使用も判明し、譲渡罪・所持罪・使用罪となった次第である。
 私が運動時間に会ったときには既に起訴されていた。

 この爺さん、運動時間に、とにかくよく喋る。
 私を弁護士と知らない間は、事件を否認している私を、「一度否認したら頑張って否認を続けなきゃ。変えたらダメだよ」と励ましてくれた。
 運動時間は大体20分が目安だが、大方の人は髭を剃り、タバコを2本吸って20分が経過する前には引き上げる。
 だが、爺さんはタバコを吸うわけでもないのに、係官が「もういいだろう時間だ」と促すまでいつまでも居座っている。そのときも私たちに「タバコはやめた方がいいぞ。拘置所でも刑務所でも吸うことができないから辛いぞ」とアドバイスしてくる。
 拘置所や刑務所には覚せい剤もないよな、あなたこそ薬をやめなきゃと思いながら聞いていた。

 何といっても前科10数犯だから刑事手続に精通しており、運動に出てくる人のありとあらゆる質問に答えていた。聞いているとまったくそのとおりで、間違った答えを聞いたことがない。
 当然法律だけでなく拘置所や刑務所の生活にも詳しい。係官を係官とも思わず係官を呼びつけていることもしばしばだ。まさに呼びつけであって、係官を顎で使うといっても過言ではなく、さすが前科10数犯と妙に感心してしまった。

 そのときも呼びつけていた。
 爺さんとの部屋は近いので何だろうと耳をすましていると、差弁を食べたいが手持ちの現金がない、通帳には預金がありカードも印鑑も持っているので弁護人に預金を下ろすように頼んでいるが、できないと言われてばかりである、何とかしてほしいとの内容だった。
 ちなみにこの弁護人はこれまで登場した国選弁護人である。一体何件受任しているのだ?
 軽々しくは言えないが弁護人としても何らかの方法はあるのではなかろうか?
 呼びつけられた係官もたまったものじゃない。係官がどうすることのできる話ではなく「弁護士さんとよく相談をするように」としか言いようがなく、喧嘩別れしていた。係官も大変だ。

 留置場の各部屋のトイレ側に通路があることは前に書いた。
 その通路には普通の家庭のトイレにあるようなペーパー受けが設置されておりトイレの壁に開けられた縦2センチ横10センチほどの穴からトイレの中に向かってペーパーが入っている。
 つまりトイレ側から見ると、トイレットペーパーが外から中へ垂れているという状態で、係官は通路を歩いてトイレットペーパーが足りているかをチェックしているのである。
 さらにこのことは用を足している者からはペーパーの残量が分からないということを意味している。

 そこで悲劇が起きた。就寝時間をかなり過ぎていたから夜中近くだったと思う。
 突如、爺さんが「担当さ~ん」とせつない声を出した。しかし夜中とあって、係官も少ないのであろうし、声も届かなかったのであろう、なかなか係官が来ない。幾度かせつなく「担当さ~ん」と呼ぶ声。最後には「担当さ~ん、紙がなくて出られません。本当に雪隠詰めで~す」。回りは大爆笑。おかしくてたまらなかった。
 翌日の運動時間に、これからは紙を引っ張り出して確認しなきゃダメだよと、皆さんから注意されていた。

 12月28日、私は拘置所にいて本を読んでいた。
 私の居室である2号室の前でやけに咳払いをしている人がいる。うるさいなとそっちを見てみると、何と爺さんが私を見ていて、目が合うと会釈をされた。禁止行為とはいえ刑務官に分からないように私も笑顔で答えてあげた。
 今でも刑務所にいるんだろうな。

元記事

覚せい剤爺さん

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