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第36回 天網恢恢疎にして漏らさず

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 前に書いた「嫁に申し訳ない」が口癖の人は、窃盗犯であったが、車上荒らしで、車のオーディオ機器を盗んだということだった。
 私には、今回が初めての犯罪であって、もう二度とやらないなどと話しをしていた。ならば、執行猶予がつくのではないだろうかなどとも話をしていた。

 その彼は、その後別の部屋に移ったが、幾度も再逮捕されているとの話を聞いた。
 私が彼とのやりとりを話すと、「オーディオ機器を盗むなんてプロですよ、弁護士だからそれくらい見抜けなきゃ」と説教されてしまった。

 「嫁に申し訳ない」が口癖の窃盗犯と入れ替わりで、7号室から傷害事件犯人である元ヤクザ屋さんが入ってきた。
 宮崎で組同士の喧嘩があり、共犯者は全員逮捕されたが自分だけは捕まらず、捕まった共犯者は既に服役を終了した者もいるという。彼は指名手配されており、妻と共に逃げた先の東京の某所で逮捕された。

 服役終了者がいるということはかなり古い事件なのか?公訴時効はどうなっている?何とか刑事訴訟法を思い出しながら、共犯者が起訴されると時効は停止するのでは?共犯者の裁判確定後に再び時効が進行するのではなかったか?ひょっとしたら公訴時効が完成しているのでは?でも逮捕されているんだよな~と思いつつ疑問を口にした。

 元ヤクザ屋さんは、「さすが弁護士ですね。自分も気になって調べていたんですが、後1か月だったんですよね」と本当に悔しそうにつぶやいた。
 妻と共に宮崎を脱出し、東京の某所で働いていたが、たまたまその会社に対して、最寄り警察署による従業員調査があって身元がばれたらしい。まったくの偶然であるが、天網恢恢疎にして漏らさずの見本のようなものである。

 彼は、少年院にも行ったことがあるし、前科もあるので実刑を覚悟しているという。また食事のいい拘置所に早く移りたいとも言っていた。警察での取調べでは細部まで思い出せと責められているが、かなり前のことで彼自身の記憶も曖昧で取調べが進まないらしい。確かに過去のことは思い出せない。私だって1年前のことをかなり忘れていた。

 結局、彼は思い出すことができず、最終的に刑事さんから共犯者の調書を見せられ、このとおりでいいかと聞かれ、「それでいいです」と返事をしたそうだ。
 その結果、翌日には共犯者の調書とほぼ同じ調書が作成されており、それに署名指印をしたそうだ。さらに検察取調べもあっという間に終了して、警察作成調書をなぞっただけの調書が完成したとのこと。

 確かに、彼は争うつもりはないのだが、果たしてそれでいいのか疑問である。捜査に対する疑問といえば、幾人もの被疑者から「認めれば執行猶予ですぐ出られるから、『裁判が長くなって実刑』よりいいぞ、認めた方がいいぞ」と警察だけでなく検察官からも言われていると聞いた。

 仮に将来自白の任意性を争っても、言った・言わないという水掛け論だし、裁判所は検察側に立っているからどうしようもない。取調べの可視化が議論されているが、せめてテープだけでも取るべきだろうし、事件の軽重を問わず全件にすべきだろう。
 もっと言えば被害者や目撃者といった事件関係者の取調べすべてについて可視化すべきだと思う。争いになればテープを出して適法な取調べでしたと言えばいいだけであるから。
 本人にとっての有罪判決は、事件の軽重とは無関係に、あるゆる面で不利益となる。軽い事件だからといって冤罪が許されるわけではない。捜査機関とすれば安易に自白を得る方法を捨てることができないのではないかと邪推してしまう。

 話が横道にそれたが、そのヤクザ屋さんは、自分でも忘れていた恐喝事件で、その身柄を宮崎南警察署に移されることとなり、南警察署は建物も古く待遇も悪いとこぼしながらしぶしぶ北警察署を去っていった。(つづく)

元記事

第36回 天網恢恢疎にして漏らさず

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