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つまらない本を買ってしまったとき「最後まで読む」のは経済的に得?損?

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 2015年11月18日現在、129名の犠牲者が確認されている、パリの同時多発テロ。現地ではテロ再発に備えて、いまだ厳戒態勢が敷かれています。フランスは観光大国として有名ですが、今回の一件により観光産業が打撃を受けることは避けられないでしょう。また、それがさらにユーロ圏全体へと波及することも予想されます。
 社会で起こる出来事は、経済にも多大な影響を及ぼします。さらにそれは国境を超えて、遠い国の経済をも揺るがす事態になる可能性すらあります。その意味で、経済状況がどのように変動するのかを知っておくことは重要なのです。

ただ、いきなり経済を勉強しようと思っても、何から手をつければいいのか分からないという人も少なくないはず。そこで参考にしてもらいたいのが『なんだ、そうなのか! 経済入門』(日本経済新聞出版社/刊)です。本書は、経済について身近な出来事を紐づけながら分かりやすく解説してくれています。
今回はこの本の著者である塚崎公義さんに経済を学ぶためのコツを中心にお話をうかがいました。今回はその後編です。

――本書の「はじめに」で書かれている「経済は『冷たい頭脳と温かい心』で動いている。『相手の足もとを見て価格をつり上げれば儲かる』という『理屈』と、『それはフェアプレイではない』という『道徳』のぶつかり合い」という一節が印象的です。これは、どういう意味なのでしょうか。また、この言葉を実感したエピソードがあれば、それもあわせて教えてください。

塚崎:ビジネスの基本は、冷たい心です。「相手が高値でも買いたい」と思っていれば、価格を吊り上げて高値で売りつけるのは当然の商行為です。そこで私は「チャンスがあれば吊り上げるべきである」と記すわけですが、それは私に温かい心が無いからではなく、「企業が合理的に(冷たい頭脳に従って)行動するとすれば、そうするべきである」、と述べているに過ぎません。それを読んだ読者が、私には温かい心が無いと誤解されると困るわけです。
悪徳商人だという噂が広まれば商売に影響しますから、価格の吊り上げもやりすぎない範囲内にとどめるわけですが、それは温かい心ではなく冷たい頭脳の影響です。企業が社会貢献をするのも、基本的には企業イメージの改善が目的でしょう。なぜなら、株式会社が利益を犠牲にして純粋な社会貢献をすれば、経営者が株主の利益を意図的に損なう背任罪になるからです。このように、温かい心から出たように見える商行為も、原則として冷たい頭脳に従っているのです。そこで、経済学は「冷たい頭脳」を突き詰めると何が起きるのかを探求する学問となっているわけです。
しかし、例外はあります。凶作時にコメを買い占めた江戸時代の商人のような行為は、餓死者が多数発生しかねませんから、さすがに金儲けのためと言っても躊躇するでしょう。あるいは銀行が危ない会社から融資を引き揚げようと考えるとき、「融資を引き揚げると、何千人かの従業員が路頭に迷うし、日本経済にも悪影響が生じかねない」ということは当然判断にある程度影響します。単に買い占め商人や銀行が強欲だと批判されるからというだけではない判断基準が入り込む。例外的な部分ではありますが、ビジネスの世界にも温かい心は存在し得るわけです。
個人の経済活動は企業の行動と異なり、温かい心の働く余地は大です。その典型は匿名の寄付です。匿名の寄付をしても、経済的には何も得ではないのに、匿名の寄付をする人は(筆者を含めて)大勢います。これは、個人の効用関数の中に「美味しい物を食べた満足」と並んで「誰かの役にたった満足」が組み込まれているからでしょう。道ばたで倒れている人を見かけたら、助けてあげる(または救急車を呼んであげる)人は多いでしょう。見知らぬ人であっても、謝礼を期待するわけもなく助けてあげるのも同じことでしょう。
個人が働く動機についても同様です。「仕事が楽で給料が高い仕事」というだけではなく、「誰かの役に立てる仕事」という判断基準も重要なのです。たとえば自衛官や警察官が国を守り、治安を守ることに使命感を感じて頑張っているのは、本当に頭が下がります。鉄道会社の社員にも安全輸送という使命感を生き甲斐としている人が多いと聞きます。もちろん大学教授も学生の成長のために資するという使命感を生き甲斐としている人が多い。

――塚崎さんは現在、大学でも教鞭をとられていますが、若いうちに経済に関する知識を身につけることにはどのようなメリットがあると思われますか。

塚崎:難しい経済学の知識は、必ずしも必要ありません。経済学は、論理的な思考力を鍛える材料としては大いに役立ちますが、日常生活にも人生設計にも普通の会社の仕事にもあまり役立たないからです。
しかし経済に関する知識の中には、大いに役立つものも多数あります。まず、職種にもよりますが、経済に関するニュースは仕事に役立つでしょうから、しっかり理解できるように学んでおく必要があるでしょう。
住宅を買うべきか借りるべきか、住宅ローンは固定金利と変動金利のどちらが得か、といったことを判断するためにも経済の知識は必要です。
これからはインフレの時代になりそうですから、資産運用についても学んでおく必要があります。インフレ時代には資産を銀行に置いておくと目減りしてしまうリスクが高いからです。ドルや株の値段がどのように決まるのかといったことに加え、バブルについても学んでおけば、悲惨な目に遭う可能性を減らすことが出来るかもしれません。
理想を言えば、政府の経済政策が正しいか否かを判断して選挙の際の投票の参考にすることが出来れば良いですね。
そうした大きなことだけでなく、たとえば本書の中に紹介してある事例で言えば、「払ってしまった金は忘れろ」ということを知っているだけで、無用な失敗を避けられる場合も多いでしょう。本を買ったが読み始めたらつまらなかったという場合に、「本を買った金が惜しいから最後まで読む」という人も多いのですが、最後まで呼んでも本の代金が戻ってくるわけではなく、結局本の代金と読んだ時間の両方を損することになるのです。同様に、衝動買いした服が気に入らない場合には、押し入れに入れておくより捨ててしまった方が良いでしょう。どうせ着ない服をとっておけば、買った代金と収納スペースの両方を無駄にすることになるからです。
あるいは、毎日遠くの格安店までビールを買いに行っている人は、家の近くの店でビールを買い、浮いた時間でアルバイトをする方が良いかも知れません。「遠い店まで歩く」という行為は、「ビール代が浮く」というメリットと「アルバイトの時間が減る」というデメリットをもたらすからです。言い方を変えると、「格安店に行く」という選択は「アルバイトをしない」という選択でもあるということです。
こうした日常生活にも、経済について学んだ知識が役立つ場面が数多くあるので、仕事で役立たない場合でも、経済の知識は学んでおく方が良いと思います。

――本書では、「皆が『いいこと』をすると、皆が悲惨な目に遭う」「日本の財政は破綻しない」といった具合に、世間の声や報道の煽りとは逆の意見を積極的に採用されています。塚崎さんは普段から何かを考えるとき、「あえて極端な方向に思考を振ってみる」ということをなさっているのでしょうか。また、具体的にどのような思考トレーニングをなさっているのかについて教えてください。

塚崎:他人の意見を聞いたときに一度は「本当か?」と考えてみるように努力しています。また、「それは当然だ」「それは常識だ」という言葉をなるべく使わないようにもしています。
留学中に、「お前はなぜ家にはいるときに靴を脱ぐのだ?」と聞かれて、「それは当然だ」と答えたら、「当然では無いから質問しているのだ」と言われて閉口したのが契機でした。「当然だ」「常識だ」という言葉は、罪悪感を持たずに思考停止をするための便利なツールなのですが、それによって失われるものも大きいのです。
もっとも、「なぜ?」「本当に?」という疑問ばかりしていると、社会生活では様々な軋轢を生みかねません。銀行員として、上司に「なぜ?」「本当に?」という質問をすると、「お前は何年も銀行に勤めていてそんなことも分からないのか!」というお叱りを受けることが頻繁にありました。そうしたときには、「この人も分かっていないのだな」と理解して、相談するのを止めて自分一人で考えるようにしたものです。
経済現象に関しても「なぜ?」「本当に?」と疑ってみることを習慣にしていると、面白いことが色々と見えてきます。日本の財政は破綻すると言っている人は多いのですが、最後は日銀に現金を印刷させて国債を償還すれば良いのですから、破綻はあり得ません。
「人々が破綻と言っているのはハイパーインフレのことなのか? 本当に破綻すると思っているか?」というところからはじまって、「少子化が進んで、日本人が最後の一人になったとき、個人金融資産が1700兆円あって国の借金が1000兆円しかないので、財政は破綻しない」と考えるようになりました。
こうした話を識者の前で披露すると、「非常識だ」「そんなに上手く行くはずが無い」というご批判はいただきますが、「論理的に間違っている」というご指摘を頂戴したことが無いので、未だに自説を撤回せずに頑張っているというわけです。自分でも「自説が正しい」という自信は全くないので、だれかが説得的な反論をしてくれれば直ちに自説を撤回して楽になる用意があるのですが・・・(笑)。

――最後に読者の皆様へメッセージをお願いします。

塚崎:本書は、読者に「経済」というものを楽しんでいただくための本です。難解な数学や経済学理論などは登場しませんので、肩の力を抜いて、眉間にしわを寄せず、ゆっくりと楽しんで下さい。
結果として、読者の役に立つこともあると思っています。本書に登場する事例を、自分の生活や仕事に当てはめてみて、一つでも二つでも応用できることを見つけていただければ幸いです。

(了)


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