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粘菌に脳はないけど、能はあるハズ

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脳のない単細胞生物の粘菌は、複雑な迷路を解く知性をもっていた!

その情報処理の仕組みはどのように応用できるのだろう。

情報処理する単細胞

私たちヒトは、状況を見て、判断して、行動に移す。どうしたらよいか分からない状況では頭を使う。このとき、その状況を「入力」とすれば、行動は「出力」、両者の変換が「情報処理」に相当する。

この一連の過程は、脳のない生物にもある。アメーバにだってある。アメーバは単細胞生物なので、感覚をつかさどる細胞や運動するための細胞が別にあるわけではない。全部一つの細胞で行う。三十数億年前、地球上に初めて生物が現れてからつい10億年前までは、ずっと単細胞生物の時代だったわけで、彼らはいわば我々の大先輩である。

真正粘菌の変形体という巨大なアメーバ様生物がいる。パンに塗り広げたマヨネーズのような質感の、何センチにもなる単細胞性の生き物だ。暗くて湿った林床を1時間に1センチぐらいの速さではい回って、細菌や朽ち木の養分やキノコなどを活発に貪食する。

変形体は、色を見分けて逃げたり寄ったりできる。アルコール臭を避け、適度な温度と湿度を求めて日周変動に合わせて移動し、現在の自分に必要な養分の方に寄っていく。これらの環境要因は時間とともに移り変わるし、もちろん場所によっても変動するにもかかわらず、そのような複合要因を総合的にかんがみて行動できるらしい。

マヨネーズの運動方程式とは?

変形体の情報処理は、マヨネーズのような身体自身の見せる力学的な運動に帰着できる。身体の動きを運動方程式として表現できれば、情報処理の仕組みがあぶり出せるかもしれない。神経は情報処理に特化した器官だから、パフォーマンスは良いのだろうが、電気信号だけを見ていても、その意味するところ(身体をどのように動かす信号なのか)が不明なので、なかなか解釈が難しい、という難点がある。一方、身体で情報処理をする変形体は、目で見たとおりという明快さがある。

問題解決から意思決定へ

「アメーバからヒトまで」という言い回しがある。アメーバは、ヒトの対極にあって、最も下等な生き物のたとえ。愚か者の意味で「単細胞」ともいう。

アメーバである粘菌だって、食べたり消化したり動いたりと生きるために必要不可欠な仕事を全部こなす。彼らには彼らなりの食べたり食べられたりする世の中があって、それなりに必死の生活があるに違いない。あっちへ行くべきか行かざるべきかそれが問題になることもあろう。果たして、どうやって問題を解決し、意思決定をするのだろうか。

などと考え出すと気になってしまって気がついたら25年も考え続けてしまった。変形体だって、迷路の最短経路を探し当てたり、一定時間おきに嫌がらせを繰り返すと次の嫌がらせを予測して身構えたり、人間様が作った交通網と同程度の輸送網を設計したり、場合によっては迷ってみたり、と思っていた以上に人間くさい。

その仕組みは? 粘菌ぐらい単純なつくりならば、モノの物理法則から解き明かせるのでは、と期待して、やはり25年。これまでに分かったことは、案外シンプルな仕組みでやれていそうだということ。その意外さから、粘菌の迷路解きの方法を利用して新しいカーナビができそう、とか。

広辞苑に書かれた「単細胞」の意味が、書き変わる日が来るかもしれない。

文:中垣俊之

絵:大坪紀久子

上記は、Nextcom No.24の「情報伝達・解体新書 彼らの流儀はどうなっている?」からの抜粋です。

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Toshiyuki Nakagaki

北海道大学 電子科学研究所 附属社会創造数学研究センター 知能数理研究分野 教授
1963年生まれ。北海道大学薬学研究科卒業。名古屋大学人間情報学研究科修了(学術博士)。
企業、理化学研究所勤務などを経て現職。主な著書に『粘菌 その驚くべき知性』、
『粘菌 偉大なる単細胞が人類を救う』など。イグ・ノーベル賞を2回受賞している。

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