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逃げ切り世代には分からない「自社製品の購入促進」が有望社員のやる気を潰すワケ

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先日、シャープが自社の社員に対し、自社製品の購入を呼びかけているというニュースが流れた。目標額まで設定しながら、会社は「ノルマではない」と言っているらしい。

このニュースに対し、働く人間の立場から違和感を覚えるのは理解できる。その一方で「おかしくも何ともない」と擁護する声も少なからず見られた。この違いはどういうスタンスから来るのか、考えてみたい。(文:深大寺 翔)
購入促す「他社と大して変わらない」という認識

いまツイッターで「シャープ」を検索すると、「製造業なら自社製品購入は当たり前だろ」とする意見が驚くほどたくさんヒットする。

「大げさに記事にしてるけど、これは当たり前のことだよね」
「その会社で働いてりゃ自社製品買うのなんて普通で当たり前で基本なんだが」

年長者と思われるユーザーからは「過剰反応じゃない?こんなの大企業なら普通にやってる」「松下電器も、富士通もNECもやったことあるけど?」といった声もある。そこで、どのような社員が購入を当然とし、どのような社員が声もあげずに不満を抱いているのか。シャープの社員を4タイプに分類して考えてみたい。

1つめの軸は「モノの消費に対する感覚」だ。戦後日本の経済成長は、モノ不足が満たされる過程だった。メーカー間の競争はあるものの、「どれを買ったって他社と大して変わらない」という世界があった。

自社製品を買えという人の頭の中にも、「飯が炊けるんだろ? 衣服の汚れは落ちるんだろ? だったらいいじゃないか」という認識があるに違いない。

しかし現代の市場では、同じ「炊飯器」でも様々な差異が製品の売り上げを左右している。ご飯の炊け方の違いのみならず、製品デザインの好みや開発ストーリー、果ては企業イメージといった要素までが競争を決めている。これは「モノ余り」の世界の話であり、「どれも同じようなもの」と考える人には理解できない。
「仲間なんだから」を理解しない社員もいる

2つめの軸は「会社に対する忠誠心」だ。雇用には「メンバーシップ」という側面があり、日本企業のサラリーマンはこれを強く意識しているといわれる。社員は「仲間」であり、転職者は「裏切り者」と呼ばれる世界だ。

最後まで運命を共にした仲間と、会社そのものに対して忠誠は尽くされる。仲間が作ったものを、仲間が買い支えなくてどうするんだ――。「買って当たり前」派の心中には、こういう考えがあると思われる。

一方で、社員の中には「ジョブ」の側面を強く意識する人たちもいる。契約に基づいて会社に労働力を提供し、引き換えに報酬を受け取る点に注目する考え方だ。このスタンスに立つ人は「仕事」に対する忠誠心は強いが、「会社」に対してはさほど強くない。

自分のキャリアを主体的に考え、ときには他社に転職することもためらわない。いくら勤め先が傾いたからといって、雇用契約にも書かれていない「自社製品購入」を求められることは不自然で不快に違いない。

この2つの軸を掛け合わせると、次の4つの分類ができる。Aの「どれも同じだろ×メンバーシップ志向」、Bの「こだわり消費×メンバーシップ志向」、Cの「どれも同じだろ×ジョブ志向」、Dの「こだわり消費×ジョブ志向」である。
自爆営業の甘えに「改革の旗手」はドン引き

この4分類の中で「自社製品購入の要請」に喜んで従うのは、Aの「どれも同じだろ×メンバーシップ志向」の人たちだけである。定年直前の元企業戦士かもしれない。しかし残りの人たちは不満を覚えたり、購入を拒否したりする。

社員数からすると、最も数が多いのはBの人たちだ。会社への忠誠心から購入するものの、自分の気に入らないものを買うことに苦痛を感じている。Cの人たちは会社に忠誠心がないから、買わされる筋合いはないと突き放す。ただし社員割引などの得があれば買うかもしれない。

問題は「こだわり消費×ジョブ志向」のDの人たちがどう思うかである。おそらく今回のような要請に対し二重の意味で不快感を抱いており、表には出さなくとも会社や仕事に対するモチベーションを著しく下げていることと思われる。

今回の「自爆営業」が致命的な悪手と感じるのは、もしシャープが復活を目指そうとするならば、Dの人たちこそが改革の旗手だったはず、と思うからだ。

せっかく「気に入ったモノしか買わない」こだわり消費の感覚を理解し、単なる仲間意識ではなく「ジョブ」としての専門的知見を持って経営課題に向かっていく人たちだったのに、会社は彼らをピンポイントでおろそかにしてしまった。
なぜ理解できない「提供者と購入者の不一致」

無論、今回の施策はリストラ最終段階の在庫処分であり、是非を論評しても始まらないのかもしれない。戦後経済を支えた「どれも同じだろ×メンバーシップ志向」の中高年社員の自己犠牲に頼りつつ、沈みゆくことを選択したとしか思えない。彼らもバブル経済の恩恵も受けたことだし、納得していることだろう。

なお、この見方に反発する人たちのために、「自社製品の購入は当たり前」と考えない人たちの具体例を示しておきたい。先日とあるSNSで、情報サービス企業大手R社のOBOGたちが「Rには愛着あるサービスが一つもない」と話している場に出くわした(公開されてはいるが内輪の議論なのでリンクは控える)。

驚いたことに現役社員の目にも留まりそうなその場で、この意見に同調するOBOGが少なからずいた。提供者と利用者、購入者は必ずしも一致しない典型例だが、議論の中には「シャブは他人にやらせるもんで、自分でやる馬鹿がいるか!!」という秀逸な比喩まで飛び出した――。もうこれ以上の説明はいらないだろう。

あわせてよみたい:「断腸の思いで切ったら遅すぎた」シャープは日本企業の象徴
 

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