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第33回 弁当泥棒

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 宮崎北警察署での初めての同居人であるS君が拘置所に移ったその日の夕食後、隣の6号室からやせ型で髭を生やしている人が移ってきた。年は40代くらいか。若いころから自転車が好きで、日本全国を自転車で旅するのが夢だったそうだ。

 日本海側の某県で働いていたが、ある程度まとまったお金ができたので夢を果たそうと思い立ち、野宿をしながら北陸道、山陰道と日本海側をサイクリングしていた。「日本海側をサイクリングだなんて、まさに裏街道だね」と口を挟むと、「面白~い」と喜んでくれた。本心かどうかは分からない。

 山陰から九州へと入りそのまま南下して宮崎へ着いたときに所持金が少なくなり、日雇いなどのアルバイトをしようと探したが仕事がないまま所持金がなくなった。
 それでも2~3日耐えていたが、空腹はいかんともしがたく、フラフラと入ったコンビニで弁当を持ち出したところで御用となった次第だ。
 その程度のことなら実質被害もなく説教をくらって微罪処分(検察官送致をせずに警察で事件を終了させること)、悪くても在宅起訴か新設されていた窃盗の罰金(略式起訴)となるのが一般的。

 でも、彼は所持金0、住所不定、家族知人なしということで逮捕起訴となったようだ。5号室へ移ってきた時点で既に起訴されていた。
 いろいろと話を聞いていると、取調べは逮捕時と送検時(弁解録取書作成)を除けば最初の10日間で、警察取調べと検察官取調べの合計3回しかなかったという。
 まぁ現行犯で単純かつ自白事件だからそんなものだろう。でも、彼は20日間勾留されていた。

 法律上被疑者勾留は10日間が原則で、例外的に10日間以下の延長となる。
 しかし実務では原則と例外が逆転しており、20日間の勾留が原則で10日間の勾留が例外との運用となっている。しかも実務の例外としての10日間など、ほとんどお目にかかったこともない。

 それにしても、彼の場合はひどすぎる。10日間の経過でさっさと起訴すべきであろう。
 延長の決定は裁判官が行い、たとえあと10日の延長を検察官が望んでもこれを延長決定した裁判官にも問題がある。

 話がそれるが、私から脅されて念書を書いたと言った男性は、とりあえず証拠隠滅については私の共犯とのことで逮捕勾留されたが(それも疑問で捜査機関が手元に置きたかったのでは?)10日で釈放となっている。
 検察官との裏取引があったのではないかと疑ってしまうのは当然だ。

 弁当窃盗の彼に話を戻すと、しきりに、領置されている自転車のことを気にしている。かなりの立派な自転車だそうで、一日に一回は動かさないとダメになってしまうらしく、頼んであるけど警察はちゃんとやってくれているのかなと心配していた。

 また、初めての経験で裁判のことも気にしている。どいうわけか私が弁護士であることは、一部の人には知れ渡っていて、裁判の予想を聞いてくる。
 初犯で実質的被害はなく、住所不定などのマイナス事情を考えてもおそらく執行猶予。国選弁護人からも同じような答えをもらっているらしい。
 そこで、早く出たいのであれば弁護人を通じて即日判決の申し出をしてはどうかとアドバイス。12月下旬に第1回の裁判だから、即日でなければ、年内の判決言渡しが非常に難しいからだ。

 弁当窃盗犯はかなり悩んでいた。彼は決心したらしく力強く一言。「正月くらいは暖かい所で寝て普通の食事をしたい」。普通なら即日判決希望だなと思う。
 さらに彼は「だからここで正月を迎える。判決は年明けにしてもらう」と続けた。なるほどと納得した。

 彼の裁判の前に私は5号室から同室と接触できない3号室へと移ったし、12月25日には拘置所へと鞍替えしたから、その後の彼がどうなったかは分からない。
 当然ながら社会復帰しているはずだが、無一文で再犯となっていないことを祈る。(つづく)

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第33回 弁当泥棒

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