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医療過誤事件

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 医療過誤事件は難しい。医療側であれば専門的知識を有している者が依頼者であるから、専門分野に関する疑問点の解決が容易である。
 しかし、患者側となると、依頼者はもちろん、我々も医療については素人であるから、医者の過失を立証するために、専門書を読破し理解しなければならないし、同分野の医師を訪ねて教えを乞うことになる。
 現在では、医療過誤訴訟に協力する医師団が結成されていて、鑑定等も行ってくれるが、それでも自分での勉強が不可欠である。

 いくつかの医療過誤事件を患者側代理人として扱ったが、記憶に強く残っている事件がある。眼科事故であり、緑内障だか白内障だかのある手術をしたところ、患者が手術中に死亡してしまったという事件であった。
 失明ならまだしも死亡である。執刀医師はその分野での第一人者である。
 東大前にある専門書店でその手術に関する眼科の本を2冊購入し、さらに医学生用に作成されたその手術のビデオも購入して勉強をした。どのように手術が進められていくかを理解するためである。

 そのうち、某国立大学医学部にやはり専門の教授がいるとのことで、アポをとり訪ねて行った。
 その教授から「死亡することはあり得ず、明らかに問題のある手術だと思う。考えられる原因は一つだけ」との回答を得た。
 今でもよく覚えている。「アシュネル現象」というものである。その手術は何本かの糸で眼球を引っ張るように固定して行うのだが、それが行き過ぎると「アシュネル現象」を起こすという。眼球の神経は心臓につながっており、眼球を圧迫しすぎると、心臓停止に至るとのことであった。
 だから昔は按摩で目を押していたのが、今では禁止されることになったとも教えられた。

 勇んだ私はその旨の意見書を書いてもらいたい、場合によっては裁判に証人として出てもらいたいと頼み込んだが、答えはNOだった。
 口を濁して明言はしなかったが、その道の第一人者を批判するようなことはしたくない、同じ医者で身内だからというニュアンスの理由だった。まさに象牙の塔である。

 伝手を頼って、眼科の医師を幾人か紹介してもらい、「アシュネル現象」のことを尋ねると、やはりそれが原因としか考えられない、強く引っ張りすぎたのだろうと説明してくれるが、そこまでであることは同じだった。

 「アシュネル現象」のことは広く認識されているから予見可能性があり予見義務もある。強く引っ張らないように慎重に手術することも可能であるから結果回避可能性があり、それにもかかわらず強く引っ張ったとして結果回避義務違反があるとして闘ったが、完全敗訴となった。
 私の勉強不足もあったと思う。専門知識が不足していて、執刀医師に対して有効適切な反対尋問を行うことができなかった。できる限りの準備をして臨んだつもりであったが言い訳にすぎない。

 遺族には申し訳ないことをしたと思っている。ただ、「目の手術で死亡?」という異常事態であることをどれだけ裁判所が認識してくれたのかが分からない。
 遺族から「もう控訴はしません、よくやってくれて感謝しています」と言われたのが救いであった。

元記事

医療過誤事件

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