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第32回 初めての同居人

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 被疑者や被告人の中に面白い人が多いことは、安部譲二氏の「塀の中の懲りない面々」を嚆矢として(それ以前にもあるかもしれないが)種々の本に紹介されている。
 私も弁護士として刑事弁護活動をしてきたから、一般の人々よりも犯罪者と疑われている人や犯罪者と接することが多かった。

 しかし、在宅の被疑者や保釈中の被告人と接する以外は接見室での仕切りを通じての、時間もさほど長くない時間での接触であった。今回自分自身が被疑者・被告人となって他の人と直に接触してみるとやはりいろいろな人がいるもので、私も先達にならって、それらの人々を紹介しよう。

 宮崎北警察署の留置場には部屋が11室あると前に書いた。横道にそれる話となるが、11室だと思うが正確なところである。
 留置場であるからその中を自由に歩き回れるわけではなく、そのうちに宮崎官製談合事件で共犯者が幾人か収容されたことで、共犯者同士が顔を合わせないようにするための仕切りがやたらに設置されて見通しが悪くなり、よく分からないからである。
 それでも運動や入浴に行く際にチラッと見ると11室だと思われるのである。それ以外に少年用の部屋もあったようだ。

 ちなみに仕切りが用意されたのは、談合事件のせいだけでなく、私の共犯者(形式的には。実質は私の裁判で偽証している私への加害者)がいたことも原因と後々知った。

 さて、私が最初に入ったのは5室である。先客は一人で、就寝時間を過ぎていたので、その先客は、既に毛布をかぶって寝ていた。
 そっと寝る用意をしたのだが、私の気配に気づいたのか彼が私の方に振り返った。「こんにちは」と今思えば間の抜けた挨拶をしたが、何の言葉も返ってこなかった。
 翌朝顔を合わせるとまだ20代らしい人だった。

 翌日の起床・洗面の後に、彼によって室内に水の入ったバケツと雑巾2枚が持ち込まれているのを横目で見ながら、「何をすればいいの?」と再度間抜けな質問をしたら、先客は雑巾の一枚(他との区別のため赤丸がついている)を指差しながら「トイレを掃除してください」と丁寧な返事をしてくれた。もう一枚は畳拭き用であった。

 当時の私は朝から晩まで取調べに出ており、加えて食事時間でも先客はかなり寡黙な人で、ほとんど会話がなかった。
3日目の朝だかに、これではいかんと思った私は何から話しかければいいのかと考え、こういう場所ではまずはその話題だろうと決心して、「何をしたの」と三度目の間抜けな質問をした。

 「盗み」という一言だけが返ってきた。仕方なく、「何を」と聞くと、「サーフボード」とまた一言だけの返事である。会話がすすまない。サーフボードなんか大物だから通常の小売店で盗むことは難しいだろうと思いつつ、「どこで」と聞くと、またまた一言「倉庫」との返事。

 そこで話題をかえて、「いくつ」「23」とのやりとりがあり、「若いから有罪でも執行猶予だね」とふると、「今、執行猶予中だから」と言われ気まずい雰囲気になってしまった。

 名前はSだと分かったが、彼は運動時間にも出てこないのでその後会話らしい会話はなかった。11月下旬ころに裁判があると聞いていたが、11月13日の午前中の取調べ後に部屋に戻るとS君はいなかった。
 宮崎拘置所に移監になったのだ。そのS君と再会するとは思ってもみなかった。12月25日に拘置所に移った私が新入検査を受けているときに、別の部屋に入って行くS君を見かけた。彼は私に気が付かなかったようだ。
 いつものおとなしそうな顔で歩いていた。坊主頭であることとねずみ色のお仕着せの上下を着ていることが前と違っていた。執行猶予をもらった懲役刑と今回の懲役刑のダブルでの服役となると、決して短くはないだろうなと、私は考えていた。(つづく)

元記事

第32回 初めての同居人

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