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小室哲哉、最大のヒット作globeの1stアルバム『globe』の歴史的意義

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デビュー20周年の今年。過去の楽曲から小室哲哉自身がセレクトし、一部新緑を加えて新たにマスタリングした、リプロダクトしたアルバム『Remode 1』を発売した他、木村カエラ、GreeeeN、倖田來未らが参加したトリビュートアルバムが12月にリリース予定されるglobe。90年代に一世を風靡した“小室ファミリー”の中でも、小室本人の参加もあってか、他のアーティストとは若干雰囲気の異なる陰影が感じられるユニットであるが、1stアルバムにして最大のヒット作となった『globe』から、改めてこのグループの本質を見極めてみたい。

近代芸能史に名を残す音楽家
「何を今更…」と言われるかもしれないが、あえて強調しておこう。小室哲哉は偉大な音楽家である。1970年代半ばより裏方として音楽シーンで活動を開始。84年、自らのバンド、TM NETWORKでデビュー以後、プロデューサー、コンポーザーとしても頭角を現し、数多くのミリオンセラーを世に送り出してきた。これが俗に言う“小室ファミリー”で、有名どころは安室奈美恵、華原朋美、観月ありさ、篠原涼子、trf、hitomi、内田有紀、H Jungle with t、dos等だが、一説には小室氏が手掛けたアーティストは100組を超えると言われている。以下はウィキペディアからの抜粋である。「1996年4月15日にはオリコンシングルチャートにおいてプロデュース曲がトップ5を独占した。1996年は安室奈美恵のアルバムも300万枚を超えるなど、この年だけでプロデュース曲の総売上枚数は1,500万枚以上を記録した。さらに1996年から2年連続で高額納税者番付において全国4位を記録、1997年の納税額は11億7000万円で推定所得は約23億円だった」。売上枚数や納税額がすなわちその音楽性の優秀さではないであろうが、ここまでの実績があれば数字とその才能とが無縁だとは言えないであろう。今も驚異に感じるのはその量産体制だ。スペースの都合で流石にその全てを挙げられないが、95年から5年間くらいまでの仕事量は特に尋常ではない。この間、毎月3~6曲をプロデュースしているのだ。この辺りのワーカホリック的動きを粗製乱造と揶揄する人がいるのも事実だが、仮に(あくまでも“仮に”だが)質の低い作品を乱発していたとしても、それが5年間も続くはずもなく、その流行作家としての手腕は群を抜いていたことは間違いない。昭和の大作曲家、大作詞家と比べてもその実績は決して劣るものではないし、それどころか、歴代作曲家売上ランキングでは筒美京平氏に次いで2位と、大袈裟ではなく、近代の日本芸能史に名を残す音楽家と言ってもいいのである。

globeの意外な生い立ち
他者への楽曲提供、プロデュースだけでも相当のものだが、小室哲哉はそれらと同時進行で自らのユニットも立ち上げてしまったのだから、今考えればこれはもう驚異を通り越して脅威であるし、畏敬の念を禁じ得ない。そのユニットこそがglobeである。1stアルバム『globe』が当時のオリコン記録を更新する売り上げ400万枚以上を記録と、“小室ファミリー”の中でも作品単体で見たらダントツの売り上げを誇ったユニットなのだが、その生い立ちを調べてみると、なかなか興味深いものが見えてくる。ダウンタウンの浜田雅功と小室哲哉による音楽ユニット、H Jungle with tが「WOW WAR TONIGHT 〜時には起こせよムーヴメント」で1995年3月にデビューしているのだが、本来ならこの時期にglobeがデビューする予定だったところ、浜田雅功から依頼を受けた小室がH Jungle with tの楽曲作成を優先したのだという。また、そもそもglobeはZARDのようにメディアに顔を出さないシークレット・アーティストのような形態で活動する予定だったらしい。1stシングル「Feel Like dance」のPVは当初CG映像のみでメンバーは出演せず、3rdシングルの「SWEET PAIN」はPVを製作しなかったという。ところが、「Feel Like dance」がチャート初登場3位、2nd「Joy to the love」が1位、3rd「SWEET PAIN」が2位と、いきなりブレイクしたことで、テレビや音楽番組への出演を解禁。「Feel Like dance」のPVも、3人の映像を加えたものに変更したというのだ。

開放感一辺倒じゃないサウンド
また、この件をご存知の方も多いかもしれないが、当初globeは二人組で、ユニット名も“ORANGE”の予定だった。当時、流行っていた2アンリミテッドの日本版を目指していたらしい。つまり…この辺は想像の域を出ないが、globeは決して用意周知なマーケティングやマーチャンダイジングによって生み出されたものではなく、言い方に語弊があるかもしれないが、実はかなり直観的なユニットだったのではないかと思われてならない。それは1stアルバム『globe』からも薄々感じられるところだ。はっきり言って、この作品、じっくりと作り込まれたような印象がない。いい意味で自由奔放さが感じられ、今となってはそれが何とも味わい深いのである。主旋律は言うまでもなく、王道の小室メロディーである。それは間違いない。シングルチューンは特に顕著で、特に「DEPARTURES」辺りは本当に優れたメロディーだと思う。しかしながら、trfやH Jungle with tが基本的に明るく突き抜けるような音楽性を持っていたのに対して、globeは開放感一辺倒というわけでなく、そこには陰影がある。概ねラップ部分がそれに当たるが、マーク・パンサーのパートばかりでなく、M3「GONNA BE ALRIGHT」のようにKEIKOのヴォーカルパートにもそれがある。サウンドもそうで、M8「Always Together」がもっとも分かりやすいが、ジャジーで落ち着いたテンポのM9「Precious Memories」にしても景気のいい雰囲気ではないし、M4「DEPARTURES」の間奏も決して明るいイメージではない。当たり前のことだが、一口に“小室サウンド”と言っても、さまざまなものがあったことを、図らずもglobeは証明していると思う。

内向的にも思える歌詞世界
最も陰影が感じられるのは歌詞だ。M2「Feel Like dance」からして、《Feel Like dance/いつの頃か 忘れそな遠い日/めくるめく想いは/情けない程、この頃味わえないよ/男女はなぜ時代を 色彩る様な恋と/それだけじゃきっと 満たしきれず 愛を囁く/今宵ダンスと共に》と、どこか満足せず、フラストレーションを感じてるという内容だ。M3「GONNA BE ALRIGHT」の《IT’S GONNA BE ALRIGHT/声をかけあって 傷なめあって 生きてる/IT’S GONNA BE ALRIGHT/つける薬もないくらいに 乱れてる》といい、M7「SWEET PAIN」の《In your eyes/描いた未来を見つめて/ためらうことがこのごろじゃ 日替わりにめぐってくる/いつのころか好きなだけじゃ ものごとが前に行かない》といい、逡巡する主人公が描かれている。M10「FREEDOM」で《2つの国と 1つの街と人が/交差する 喜び悲しみとか/FREEDOM 地球がまだ/FREEDOM 廻っているから/争いに勝つこと 土地を仕切ること/色で分けること 血を選ぶこと/FREEDOM 2人が今/FREEDOM 離れているから感じる》とラブ&ピースを標榜し、M11「MUSIC TAKES ME HIGHER」はオール英語詞ではあるが、まさに字義通りの前向きさで締め括ってはいるものの、アルバム全体としては、まったく悩みがないオールハッピーな感じはない。少なくとも、多くの人が“小室ファミリー”から感じたであろう、俗に言う“勝ち組”な感じがないのである。

社会不安を反映していたのか?
しかしながら、そのアルバム『globe』が400万枚超のセールスを記録し、ベスト盤を除くオリジナルアルバムとしては歴代ベスト3にランクイン。“小室ファミリー”の中でも群を抜いた支持を得たというのが最も興味深いところだ。おそらく、そうした、言わば自由な作風が多くのリスナーの心を掴んだのだろう。きっちりしたものよりも、若干の歪さがあるほうがアート足り得ると言われるが、そういうことではないだろうか。また、小室氏は後に「(globeは)世の中のムーヴメントを映し出す、雑誌のような作品を打ち出していきたいと考えていました。時代を音楽で解説するようなイメージですね」と語っている。globeがデビューした当時がどんな時代だったかと言うと、1月に阪神淡路大震災、2月に地下鉄サリン事件が起こり、社会不安が増大していた時期だ。歪にも思える音楽性にそれらの社会不安が直結していたわけではないだろうが、『globe』からは確かに“不安”といったものも感じられるし、単なる恋愛の流行歌として片づけられない魅力がある。多くのリスナーはそこにあった時代の空気を敏感に感じていたのかもしれない。まぁ、後半はかなり話が飛躍した感は否めないが、20年を経てリイシューやトリビュート作がリリースされるタイミングだからこそ、このユニットの歴史的意義に思いを寄せるのも決して悪いことではないと思う。

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