80歳で起業、和田京子不動産が誕生したワケ(後編)

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80歳で起業、和田京子不動産が誕生したワケ(後編)

「一度も就業経験のない専業主婦が79歳で宅建の資格をとり、80歳で不動産会社を起業」、「仲介手数料無料という顧客目線のサービスで年商3億円」——。前編では、和田京子不動産の独自サービスと、過去の和田京子さんの住宅遍歴をお聞きしました。後編は、起業してからの奮起の様子と、85歳の今もなお、不動産業に携わる熱い思いについて伺ったお話の内容をご紹介します。
開業するも、顧客対応に慣れない日々が続く

資格取得の翌年、2010年2月に和田京子不動産は開業を果たします。
「でもね、不動産業界の経験だけでなく事務のお仕事をした経験すらないでしょう? 起業する前に別の不動産会社に丁稚奉公(でっちぼうこう)をして経験を積もうと、最初に思ったんです。それで応募の履歴書に自分の年齢を記入しているとき、資格を取ったとはいえ、80歳の未経験者のおばあちゃんを雇ってくれるところなんてある?とふと考えたら怖くなってしまって……」ということで、業界経験ゼロでの不動産業のスタートとなりました。

起業に当たっては、資金は京子さんと昌俊さんの個人預金から出資し合い、無借金経営で経費は最低限に抑えることとしました。そのため事務所は自宅、看板も手づくりという、言葉通りアットホームな会社です。

【画像1】創業当初は、京子さん手書きの寄席文字を元にアルミ板をくりぬいて手づくりした看板を掲げていました。「雨の日は文字がはがれてしまって直すのが大変でした」(写真撮影/SUUMOジャーナル)

【画像1】創業当初は、京子さん手書きの寄席文字を元にアルミ板をくりぬいて手づくりした看板を掲げていました。「雨の日は文字がはがれてしまって直すのが大変でした」(写真撮影/SUUMOジャーナル)

いまでこそ、現役バリバリのビジネスウーマンとして日々活躍している京子さんですが、長女の洋子さん曰く、昔は、話し方も今の3倍くらいゆっくりしていて、何事も丁寧でおっとりした性格だったそうです。営業をしたこともなく、見知らぬ人とお話しすることも実は苦手だったという京子さんは、最初は会社に掛かってくる顧客からの電話に出ることができず、徐々に電話に出られるようになってからも、2カ月ほどは顧客の依頼に対応するのが怖くて、別の不動産会社に紹介してしまったほどだったといいます。

昌俊さんは「祖母を怒りましたよ。経費削減のなか出した広告を見てせっかくお電話くださったお客様なのに、ご迷惑をお掛けしてしまって。それに紹介先の不動産会社だって、当社と親しいわけではないですし」当時を振り返ります。
「とにかく経験がないからなんですね。当時は物件を見極める力もなかったからとても不安で。少ししてそれに気づいてからは自分で物件を見に行って、少しずつ目が利くようになりました」と京子さん。初めて家を売ったのは、開業から2年の歳月を経て

そうした不慣れを反省し、2年の時間を掛けて徐々に経験を積み、少しずつ顧客の対応に慣れていきました。
そんな中、来訪した若いカップルに希望物件の内覧を案内していたときのことでした。売主の不動産会社の担当者が同行し、案内してくれたのですが、その対応がおかしいことに気づきます。平面図と実際の間取りが異なる箇所があるのに説明しなかったり、建材が良いものではなかったり、案内早々に購入申込書の記入をうながすなど、信頼できる相手ではないと思ったとか。

「担当者が見ていない隙にお客様に『この業者と物件はダメ』ということを身振りで伝えて、一緒に逃げ帰ってきました」と京子さんは当時を思い出します。この時、京子さんはようやく、物件の品質、不動産会社の対応など、その良し悪しをプロの目で判断して顧客にアドバイスする立派なビジネスウーマンとなったのです。
その後、このカップルがほかの物件を気に入り、京子さんが家を売った第一号の顧客となりました。

実はそれまで2年間、和田京子不動産が「仲介手数料無料」で売り出していることに対してほかの不動産会社からの抵抗があり、他社物件を扱えない状況にありました。「和田さんのところだけ無料にしたら、ほかの会社は商売できなくなるよ」とクレームも数多く来ていたそうです。どの会社も、買主の仲介手数料を無料にすることは経営上難しいからです。
そんな中、前述の若いカップルが購入したのは、売主が早い売却を希望していた物件ということで、以前は断られていた他社の物件を初めて扱えることになったのでした。
「当社のお客様は、ローンでなく現金で買われる方が半数はいらっしゃるので、先方の不動産会社にとってもメリットが大きいのでしょう。その後はおかげさまで売却がスムーズに進むようになりました」と昌俊さん。

売却第一号がでるまでの2年間は、多額の経費が出て行くばかりの日々。長女の洋子さんも「傷が浅いうちに早めに会社をやめた方がいいのでは」と度々勧めるほど、経営に問題があったのでした。
しかし京子さんはつらい時期でもあきらめません。「始めたからには1、2年なんて短い期間でなく3年、5年と見ていかなくては。何事もとことんまでやらないと分からないでしょう?」と。
実は京子さんは、おっとりしていて恐がりというだけの性格ではなく、本来は芯の強い女性なのでしょう。その本来の性格が、会社経営と顧客対応という行動を通じて、どんどん表に現れてきたのです。

【画像2】左:創業当時の京子さん。おっとりとしたやさしいマダムという雰囲気(写真提供/和田京子不動産)。 右:現在の京子さん。ヴィヴィアン・ウエストウッドで全身をコーディネートして、バリキャリな雰囲気とかわいらしさを漂わせています(撮影/SUUMOジャーナル)

【画像2】左:創業当時の京子さん。おっとりとしたやさしいマダムという雰囲気(写真提供/和田京子不動産)。
右:現在の京子さん。ヴィヴィアン・ウエストウッドで全身をコーディネートして、バリキャリな雰囲気とかわいらしさを漂わせています(撮影/SUUMOジャーナル)

京子さんの仕事ぶりに対して、昌俊さんは「祖母は100点満点じゃないと許されなかった幼少期を経ているので、仕事に対しては完璧主義ですね。全力で仕事に当たっています。利益を追求する仕事ではなく、本当にお客様のためになる仕事を丁寧に親身になって行えることに、大きなやりがいを感じているようです」と評価します。住宅購入で失敗する人を少しでも減らしたい

京子さんも自分の仕事を振り返ります。「齢85歳のわたくしですが、まだまだこれからです。住宅購入に不安を感じていらっしゃるお客様を安心させて差し上げたいと思っていますが、それができたらどんなにいいか。世の中には顧客に損害を与えるような不動産会社も思った以上に多く存在しています。大手だから安心とは限らないケースもあります。わたくしのような失敗をする人を少しでも減らしたいから、より多くの不動産知識や家の価値を判断する“心眼”を身につけていきたいと思っております」

「人生で一番大きな買い物」と言われる住宅購入だから人は慎重になるのが当然です。それなのに、社会経験が浅く不動産業界や会社経営もまだ数年目、通常では引退しているほどご高齢の女性の元に、多くの顧客が頼りにし、集まってくるのはなぜなのでしょうか。それは、家を買って山ほど後悔したことがある京子さんだからこそできる、顧客が安心して住宅を購入できるためのさまざまな心配りに理由があるのだろうと思いました。

お伺いして最初に「京子さんとお呼びしてもよいですか?」と私が尋ねると、「うれしいわ。周りから呼ばれるのはいつも『おばあちゃん』か和田さん。下の名前で呼んで頂くことがないので……」とはにかむ様子が可愛いらしく素敵な京子さん。
79歳で資格取得、80歳で起業という決断力・行動力、そして現在の85歳というご高齢にもかかわらず、全力投球でお仕事にあたるその一所懸命な姿勢を拝見して、「誰の人生も大きな可能性を秘めている」「何事も『今からでは遅い』ということはない」と改めて認識、大きなパワーを与えて頂いた時間となりました。●取材協力
和田京子不動産80歳で起業、和田京子不動産が誕生したワケ(前編)
元記事URL http://suumo.jp/journal/2015/11/10/100302/

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