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ピンピンコロリと安楽死と天寿について、しみじみ考えてみた

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 注目の医療ドラマがNHKで放映されている。原作者の独特の死生観に共感するか、反発するか。コラムニストのオバタカズユキ氏が考えた。

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 次の気になる連続ドラマがある。この稿がアップされる7日(土)の夜10時から第5回目が放送予定のNHK土曜ドラマ『破裂』だ。

 心臓若返りの“香村療法”を開発した医師・香村鷹一郎(椎名桔平)と、その療法を悪用しようとする国民生活省の官僚・佐久間和尚(滝藤賢一)の闘いを描く医療サスペンスドラマである。

 楽しめるドラマかどうかと言うと、個人的にはいまひとつだと感じている。全7回のうち第4回まで見た限りでは、主要な役者たちがそれぞれ熱演しているものの、役者同士のからみが相乗効果を生んでいない。ストイックだが根の暗い野心家である香村を椎名桔平はていねいに演じているし、“国民生活省のマキャベリ”と呼ばれるイッちゃっている官僚に滝藤賢一はぴったりだ。役者バカで身勝手な国民的名優の倉木蓮太郎を、仲代達矢はきちんと自分のものにしている。

 だが、各人の強いキャラがばらばらで、一本のドラマとして、ぐいぐい引き込まれるところまで絡み合わない。脚本がヘンだとは思わないし、演出も正攻法だと思うのだが、毎回もったいない印象なのだ。なのに、観終わると次がとても気になる。

 それは、このドラマがでかいテーマを扱い、かつ、きわめて大胆な問題提起をしているからだ。第2回目放送の終わり際に、官僚・佐久間が医師・香村に自分の目的を告げるところから、テーマが前面に出てきた。

 佐久間は、「日本に寝たきり老人が多いのはなぜか」と語り始める。それは、心臓の強い老人が多からだ」と言う。高齢者たちの理想は、いつまでもぴんぴん元気でいて、死ぬときは寝込むことなくぽっくり逝く“ぴんぴんぽっくり”に他ならない、とする。そして、衰えた心臓を若返らせ、しかし副作用でいずれ心臓破裂おこす“香村療法”は、“ぴんぴん”と“ぽっくり”を同時に実現する夢の治療法であり、その推進こそ超高齢化社会の国策にふさわしい。「先生の研究は、老人を救い、国をも救う。これは世界に先駆けた医療革命だ!」と語りまくる。

 香村は、「ふざけるな!俺の研究をそんなことに使われてたまるか!」と怒鳴りつける。が、佐久間は、ひるむことなく、こうまくし立てる。

「そう考えているなら先生もバカな医者のひとりだ! あまりに無知だ。老人医療の現状をまったく理解していない。死ぬなと言うのは、ときに死ねと言うより残酷なことだ。孤独な老人。家族に疎まれる老人。寝たきりの老人。息もできず、チューブにつながれ、床ずれに苦しみ、ときには虐待まで受ける。彼らにとって死は、文字通り救いだ。これは、声なき声だ。お年寄りが死にたいとメッセージを発すると、世間はこぞって圧殺にかかる。それは社会が悪い、みんなで改善していこう!なんてね。はははは。そんな小手先の改善なんて通用しない。もう十分だから早く楽にしてくれ、と多くの老人たちが思っている。なぜ誰もその声に耳を傾けない」

 鳥肌の立ったセリフの文字起こしをしてみた。読み返すに、やはり官僚・佐久間はかなりなことを言っている。かなりリアリティのある話を視聴者にぶつけてきている。

“ぴんぴんぽっくり”はこのドラマ内の造語だが、現実の日本社会でも“ピンピンコロリ”の人気は実に高い。90年代の後半から広がっていった言葉で、平均寿命が長くて高齢者医療費が低い長野県では、ずいぶん前から減塩などの「PPK(ピンピンコロリ)運動」を展開している。また、長野県高森町の瑠璃寺にはピンピンコロリ地蔵があり、同様のコンセプトを持ったパワースポットが全国各地に広がり、観光名所になっているところも少なくない。

 たしかに寝たきり老人が「死にたい」と訴えても、それをまともに受け止める日本人は滅多にいない。というか、日本は、安楽死を法的に容認していない。結果、佐久間の言うような惨状が現在進行形で存在している。寝たきり老人の医療費や介護費で、この国は潰れそうになっている。でも、その現実に正面から向き合う政治家を私は知らないし、国民の多くも見て見ぬふりをしている。

 この話は、現在の日本最大の社会問題であり、問題のバカでかさがゆえに、日本人はそこで思考ストップしているのだ。ドラマ『破裂』で官僚・佐久間は宣言する。

「お年寄りが望むなら国は望ましい死を保証する。プロジェクト名は、天寿」

 似たようなことを考えたことのある人はいくらでもいるだろうが、こうした問題提起が地上波ドラマで堂々と扱われるようになった。そのことに、いよいよ抜き差しならない空気を感じるのである。

“プロジェクト天寿”を掲げたまではいいが、ドラマはこの先の話をどう展開させるのだろう。それはつまり国家的安楽死推進政策なわけで、そのまま実現させちゃったら、いくらフィクションとはいえ「放送事故」みたいなことになる。久坂部羊の原作小説『破裂』を読もうかと思ったが、オチが分かったら、このドラマはつまらなくなる。だから残り3回、放送をしっかり観ようと思う。

 そのかわりというわけではないが、久坂部羊著『日本人の死に時』を読んでみた。2007年に初版が発行された新書である。『破裂』を書いた著者個人は、この問題をどう捉えているのか知りたくなったのだ。

『日本人の死に時』執筆当時の久坂部羊は、在宅医療専門クリニックに勤務、末期がん患者などの家を訪問し、療養のサポートや看取りをしている、とある。その前は、老人デイケアのクリニックに4年間勤めたそうだ。そのような経歴の医師として、副題「そんなに長生きしたいですか」と読者に問いかけたのが、この新書だ。

 今読んでも内容のリアリティは薄れておらず、著者はこの本においても「天寿」を推奨している。〈私は長寿はよいと思いませんが、天寿は否定しません。与えられた寿命で、ほどほどに死ぬのがいいと思います〉という持論を展開。そして、ドラマ『破裂』の佐久間に近い問題提起をし、こう言っている。

〈老いて身体の不具合が出てから、無理やり命を延ばされても、本人も苦しいだけでしょう。そこで私は、ある年齢以上の人には病院へ行かないという選択肢を、提案しようと思います〉

 例えば、60歳以上で身体に不具合が出て、治療して3カ月経ってもよくならないなら、〈さっさと見切りをつけるべきです〉と言う。結果、死んだら、それを「天寿」とする死生観が必要ではないか、と読者に問うのである。

 思わず笑った。60歳まで、私には残り9年しかない。9年後には寿命が来ると覚悟を決め、それよりも生きたらオマケの人生くらいに考えればいい? それは無理だ。フリーランスだから退職金もないし、年金も僅かしか支給されない。働かなきゃ、食えないんだよ、という者だってたくさんいることを、分かっているのかこの著者は!と、少し腹も立った。

 だが、肉体年齢的にはそういう歳なんだな、と、しみじみ思わされた。老いをリアルに考えたら、無駄な仕事はしたくない、という気にもなった。

 著者は30歳くらいから「天寿」について考え、〈早めに今を充実させ、早めに満足を得る。そうすることで、泰然と死に時を迎えられる〉と言う。そうかもしれない。これは若いうちに知っておくといい話なのかもしれない。


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