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国税庁が富裕層の課税逃れ対策に本腰 7月から出国税を導入

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 いま国税庁は岐路に立たされている。数年前からIT長者などの「新富裕層」の海外移住が急速に進んだ。タックスヘイブン(租税回避地)のシンガポールでは相続税や贈与税、住民税がかからない。そうした課税逃れに対して、国税庁が打ち出した対策とは何か、ジャーナリスト、清武英利氏がレポートする。

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 税は国の根幹です。すべての国民に公平に課税しなければなりません。税収は教育や福祉など格差調整の役割を果たします。税は富の再分配の役割も担っています。

 国の根幹を支える石垣こそが重要なのだ──。

 所得隠しを取り締まる国税庁の職員は、入庁するとそう教え込まれます。いまも昔も国税庁は、1%のキャリアと99%のノンキャリアから成り立つ組織です。なかでも高卒の調査官は自分たちを「てんぷら」と呼んでいました。由来は諸説ありますがそのひとつが「叩き揚げ」ということのようです。

 しかしいま高卒者が中心だった現場の職員にも学歴社会と高度情報化の波が押し寄せ、組織が変質しつつあります。また経済取引の国際化、申告数の増加にともなう事務の繁雑化などの影響で、十分な税務調査がこなせない状況に陥ってしまいました。

 税務調査の対象となる法人や個人事業者などのうち、実際に税務調査が行われた割合を「実調率」と呼びます。平成21年度の法人実調率は4.6%。個人実調率はわずか1.4%に過ぎません。平成元年度と比較すると法人、個人ともに実調率は約2分の1に低下しているのです。

 何よりも問題となっているのが、近年加速した課税逃れが目的の海外移住に対して有効な対策を打ち出せなかったことです。

 国税庁はシンガポールをはじめとするタックスヘイブンなど世界18か国に20人の「国際調査官」を送り込んでいます。ノンキャリアの彼らは税務署勤務後、全国の国税局で大企業を担当する調査部やマルサなどで経験を積んでいきます。選抜試験に合格すると国税庁の税務大学校に研修生として集められて、進化するマネーゲームに対応すべく多国籍企業の海外取引や国際課税調査の手法を学びます。

 こうして海外に送り出されるわけですが、その活動は地味で目立たないものです。日本の調査官が海外で活動することは違法行為。担当する国の税務当局の協力を得て限定的に情報収集などを行うしかありません。国際調査官の活動には限界があるわけです。

 そこで国税庁は2013年に「国外財産調書制度」を施行しました。海外に5000万円を超える資産を持つ場合、確定申告時に税務署への報告を義務づけられたわけです。今年10月20日に公表された2014年分の「国外財産調書」の提出数は8184件(財産総額は3兆1150億円)。

 施行時の2013年に比べ、提出数は2645件、財産額にすると6008億円も増えています。その多くは、今年から故意の不提出や虚偽記載に罰則規定が適用されるので渋々提出したのでしょう。

 国税当局が本気で摘発に乗り出すのか、まだ様子を見ている資産家もいると見られ、この数字の変化を見ても、「国外財産調書制度」で明らかにできたのは、海外資産の氷山の一角といわざるをえません。

 そして今年7月1日、国税庁はさらなる課税逃れ対策に乗り出しました。富裕層による、シンガポールなどの株式売却益に税金がかからない国での株式の売却益に対する課税逃れを防ぐための「出国税」をスタートさせたのです。

 これで1億円以上の株式などを持つ富裕層が海外に移住する場合、株式などを譲渡したものとして課税されるようになりました。しかし利に賢い一部の富裕層は「出国税」が適用される7月1日までに出国していきました。

※SAPIO2015年12月号


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