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第31回 飲食事情余談

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 12月25日の昼前に拘置所に移転してきたが、その翌年の12月も拘置所で過ごしている。
 最初のクリスマスイブは警察にいたが、特段のことつまりケーキが出るとか、鳥のモモ焼きが出るなどということはなかった。しかも、12月25日に拘置所に移ってきて、その日のことではなかったはずと記憶しているから、翌年第2回目の拘置所生活のときだと思うが、24日にはショートケーキと鳥のモモ焼きが出た。

 よくよく思い出してみると、このときは、2度目の拘置所生活で慣れていたのか、明日25日にはほぼ間違いなく保釈になるだろうと予想できていたせいなのか、ケーキとモモ焼きにうれしい気持ちになったことを覚えている。ケーキは苺のショートケーキであった。

 ある日、隣の3号室の住人に食料品が届いた。特に気にしていたわけではなかったので、声は聞こえるものの、届いた食料品が何かは分からない。
 そのすぐ後に3号室の報知器がカタンとなり廊下側に出たようだ。刑務官と面倒見さん二人が3号室に向かい用件を聞いている。
 やや不穏な雰囲気に、何だろうと聞き耳を立てていると「賞味期限があと2日しかない。前にも言ったがどうなっているのか」というような文句を言っている。
 確かに次の食料品購入までは約1週間(休日でもはさめば10日間)もあるから、その間少しずつ食べて楽しむためにも、賞味期限は被告人にとって重要である。それが2日しかないとなるとそういうわけにはいかない。

 副食品を摂ることは、自由なき人々にとって最大の関心事・楽しみなのである。だから賞味期限も重要となるのだ。面倒見さんも傍らの刑務官に「これまでに何回も店に改善を申し入れているはずなのに一向に直らない」と3号室の人の援護射撃をしている。

 刑務所側が、実際に改善の申入れをしているのかどうかは不明だが、もし申入れをしながら何ら改善されていないのであれば、やはりとんでもないことだろう。賞味期限が十分に残っている品を一般顧客用に確保しておき、それが差し迫った品を拘置所に回しているのではないかとさえ疑ってしまう。

 ちなみに、3号室の人は若そうにみえるが、いつもちゃんちゃんこを着こんでいる。入浴のときは当然ながら下着姿で出てくる。軽く会釈をかわすだけの間柄だ。時々刑務官と話し込んでおり、その内容を聞くともなく聞いていると、「判決訂正申立期限」などという言葉が聞こえてくる。

 判決訂正申立は最高裁での判決が出てからなされるもので、一般的には、判決が確定するまでの時間稼ぎの申立といわれている。この申立が認められることはなく、大体1週間から長くて1か月ほどで却下されてしまう。

 最高裁の判決が出されしかも拘置所にいるのだから、3号室の人は実刑判決だったことが分かる。
 もうまもなく拘置所から同じ敷地内といえ刑務所側に移ることになるのだから副食品を自由に食べることができるのはあと少しである。賞味期限を訴える彼の気持ちもわかる。逆に、もうすぐに刑務所に移るのだから、賞味期限をあまり気にすることもないとも思うが。

 ちなみに、被告人にとっては、執行猶予か実刑かが大きな関心事である。3号室の人は残念ながら実刑ということである。
 私の居室の洗面台の上の壁に、薄くなった鉛筆での書き込みがあった。「もう二度と悪いことはしないので、執行猶予にしてください」と書いてあった。その気持ちもよくわかる。(つづく)

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第31回 飲食事情余談

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