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クロスオーバー・ミュージックの先駆者が奏でる斬新なサウンドを満喫する晩秋の夕べ。デオダートの才能を再確認しながら、今宵は都会の摩天楼を堪能して。

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鮮烈なるクロスオーバー・ミュージックの先駆者=エウミール・デオダートが約2年半ぶりに『ビルボードライブ東京』のステージに戻ってきた。それもトリオという、最もシビアでタフな編成で――。

 ベースとドラムスを従えただけの3人編成で、デオダートは速いパッセージを鮮やかな鍵盤さばきで繰り出してくる。また、エレガントでメロウな響きも忘れてはいない。CDでは華麗な弦や管のアンサンブルも取り入れて、壮大なスケール感と都会的なスピード感のあるサウンドを聴かせてくれるデオダートだが、初日のライブはかなり雰囲気が違った。今までソフスティケイトされたサウンドを看板にしてきた彼が、より音の核心に迫るような骨太のサウンドで勝負してきたのだ。今回のアプローチに僕は少し驚くと同時に、彼の現役感覚がまったく揺らいでいないことを肌で感じた。

 これまでのデオダートといえば、まさに洗練されていてノーブルなサウンドと、都市音楽特有の軽快なノリが最大の“ウリ”だった。ほのかに漂うブラジルの乾いた風のように開放的で、なおかつニューヨークのマンハッタンを闊歩する人たちの生活リズムを体現したようなスピード感が心地好かった。しかし、今回のステージでは、1つひとつの音の響きを確かめるように鍵盤を叩き、リズム隊との呼吸を意識したサウンドを終始、弾き出してきていたのだ。鋭いアイ・コンタクトを交えながら盤に向かう彼の表情には時折、厳しささえ窺え、70歳を過ぎても自分にとっての新しいサウンドを探し求めているように感じられる。この飽くなき探究心こそが、デオダートの音楽のクオリティを支えているのは間違いない。今年のステージは天才であると同時に職人気質も滲ませる彼の面目躍如たるサウンドが展開されたわけだ。

 ブラジルに生まれながらも10代のころの1967年に渡米し、アレンジャーとして頭角を現したデオダート。アカデミックな理論に裏打ちされたテクニックとバツグンのセンスを発揮して72年にCTIレーベルから発表した『ツァラトゥストラはかく語りき(Prelude)』が大ヒットし、グラミーを受賞。翌年にはセカンドの『ラプソディー・イン・ブルー(Deodato 2)』をリリースして、ワールドワイドな人気を決定付けた。アルバムの邦題からも察しがつくように、彼が切り拓いたクロスオーバー/フュージョンのジャンルは、クラシックとジャズやポップ・ミュージックの融合。その通り、代表作のセカンド・アルバムにはガーシュインの「ラプソディー・イン・ブルー」やラヴェルの「亡き王女のためのパヴァーヌ」をブラジル音楽やマイルス・デイヴィスが提示したエレクトリック・ジャズの影響を感じさせながらも、独自のシティ感覚溢れるインストゥルメンタル・ミュージックに仕立て上げ、まったく新しい表情を聴かせてくれた。その斬新にして鮮やかな手腕は、アレンジャーとしても遺憾なく発揮され、アントニオ・カルロス・ジョビンやマルコス・ヴァーリ、ミルトン・ナシメントといったブラジルのミュージシャンの作品ではもちろん、EW&Fやクール・アンド・ザ・ギャングといったブラック・ミュージックも多数手掛け、さらにはビョークのような前衛的な音楽にも携わるなど、そのレンジの広さは目を見張るほどだ。

 現在72歳になるデオダートが切り拓いてきた音楽はクラシックとジャズのクロスオーバーだけではない。例えばムーディ・ブルースの「サテンの夜」や、今回のアンコールでも演奏されたスティーリー・ダンの「ドゥ・イット・アゲイン」といった、元々、ミクスチャー色の強いロックを、さらに自分流に昇華・解釈するといった、アルチザン的かつ音楽知識の豊かな人らしい表現を具体化していて、彼のマルチな才能の一端がヴィヴィッドに示されている。さらには78年にリリースしたヒップな『ラヴ・アイランド』ではオリジナルを中心に都会的なジャズ・ファンクを展開し、引き出しの多さを披露した。

 また、白羽の矢を立てたミュージシャンの力量を見極める彼の視点も確かだ。例えば70年代初頭、まだ無名だったスタンリー・クラーク(ベース)やビリー・コブハム、リック・マロッタ(共にドラムス)、ヒューバート・ロウズ(フルート)といった“新しいジャズ”を模索している面々を起用し、自由度の高い演奏をさせている。

 もちろん、カヴァーだけでなく、オリジナル曲のクオリティも素晴らしい。今回のステージでも披露された「スーパー・ストラット」や「スカイスクレーパー」といったナンバーでの流れるような旋律と弾むようなリズムのアンサンブルや技巧的なフレイズは完全に時代を超えて、現在も鮮度をしっかり保っている。さて、そんなエヴァーグリーンな音楽を届けてくれるデオダートのライブは、あと今日だけ。じんわりと感動する、決して色褪せないユニークかつアカデミックな音楽性を体験できる貴重な機会だから、逃すことのないよう、しっかりチェックして。絶対のオススメだ。

◎公演情報
デオダート
2015年11月2日~3日 ビルボードライブ東京
公演詳細>

Text:安斎明定(あんざい・あきさだ) 編集者/ライター
東京生まれ、東京育ちの音楽フリーク。冬の足音が聞こえてくるこの時期、冬限定のモンドール・チーズを使ったフォンデュ料理が、ちょっと贅沢だけど身体が温まって美味しい。もちろんワインはモンドールと同じAOC(地域)で造られたヴァン・ジョーヌ(黄ワイン)を合わせて。6年以上も樽で熟成させたヴァン・ジョーヌは、独特の酸味と濃厚な樽香が混じり合い、ナッティな風味もプラスされてとても飲み応えがある。モンドールを使ったフォンデュとも相性はバッチリだから、ぜひとも冬限定の料理を寒い日に試してみて。

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