痴漢容疑の「取り調べ」後に転落死 「違法捜査」問う国賠訴訟で被告・東京都は「争う」

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ホームで転落死した大学職員・原田信助さんの母親

 痴漢容疑で警察の取り調べを受けたあとに地下鉄のホームで転落死した大学職員・原田信助さん(当時25歳)の母親が「息子は違法な取り調べによって精神的苦痛を受けて自殺した」として、東京都(警視庁)を相手取り1000万円の国家賠償を求めた訴訟の第1回口頭弁論が2011年6月14日、東京地裁で開かれた。被告の東京都は請求棄却を求め、事実関係を争う姿勢を示した。

 提訴したのは信助さんの母親・尚美さん(54)。尚美さんは法廷で意見陳述を行い、「とても優しい息子でした。子供の頃から母の日には必ずカーネーションを買ってきてくれました。初めての給料日には、私に肩たたき器を買ってきてくれました」と信助さんとの思い出を涙ながらに語り、警察に対して「人間として、親として許すことはできません」と怒りをあらわにした。さらに、国賠訴訟を起こした理由について「息子の名誉回復のためと、この国の警察の捜査によって息子のような被害者を二度と出してほしくないという心からの願いからです」と訴えた。

 訴状などによると、信助さんは2009年12月10日の深夜、JR新宿駅の構内で「女子学生のお腹を触った」という痴漢の疑いをかけられ、新宿警察署で事情聴取を受けた。信助さんは一貫して容疑を否認し、むしろ暴行事件を受けた被害者であると主張したが、警察官らは信助さんを暴行事件の「被害者」ではなく、痴漢事件の「被疑者」として取調べを続けた、とされる。翌朝、信助さんは処分保留のまま新宿署から帰されたが、その足で母校近くの地下鉄東西線・早稲田駅に向かい、ホームから転落死した。

 最初の口頭弁論の法廷には、尚美さんの支援者を含めた傍聴人が多数訪れた。全部で42席(うち12席が報道用)あった傍聴席は裁判開始10分前には満席となり、傍聴できない人もでた。尚美さんが意見陳述を行うと、傍聴席からはすすり泣く声も漏れた。

 傍聴に来ていた福祉専攻の女子大学生は「裁判を起こすことはすごく勇気のいることだと思います。それでも息子さんの名誉を回復しようとしている姿を見て、胸を打たれました」と語った。信助さんと同じ年頃の息子がいるという女性は「事件直後からずっと応援していました。今日、ここ(国家賠償請求訴訟)までくることができて、込み上げるものがありました」と涙ぐんだ。また他の女性は「同じ息子を持つ母親として他人事とは思えない」と話した。

 裁判後、清水勉弁護士は、警察を相手取った裁判を引き受けた理由について「ほかの弁護士がやらないことをやる。警察官に誇りのある仕事をしてもらいたい」と述べた。

(三好尚紀)

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