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綾野剛『コウノドリ』の産婦人科医役でカメレオンの称号得る

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 役者の魅力が満喫できる作品は、1クールの中でもそう多くはない。ドラマウォッチを続ける作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が指摘する。

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「涙なくして見られない」「出産を思い出して泣けた」「旦那に見せたい」「こんなに号泣したドラマは久しぶりです」

 女性視聴者たちに絶賛されているドラマがある。

『コウノドリ』(TBS系金曜午後10時)。産科医になりたい、助産師になりたい、という声も続出しているとか。テレビドラマが社会に与える影響を、なめてはいけない。

『コウノドリ』でまず最初に、私の目を惹きつけたのは、主演・綾野剛の姿だ。この人の持つ、カメレオン的演技才覚。凄い領域に達している。

 主人公の産婦人科医・鴻鳥(こうのとり)サクラの人柄は、一言でいえば「ほんわか」。色でいえば、白。温かく柔らかく包み込む、受容の人。「生まれてきたすべての赤ちゃんに“おめでとう”と言いたい」と願う、愛情深い産科医だ。綾野剛は、そんな産科医になりきっている。目つき、顔つき、口調、顔の輪郭すべてが。

 それまで彼のイメージといえば? 映画『新宿スワン』のインパクトのせいか、危ない金髪スカウトマン。あるいは『最高の離婚』のダメ男……。とかくエッジの効いた、陰影のある、個性的でクセのある役のイメージが強かった。その容貌も、ヘビ顔とまで言われた。今回はその正反対。色でいえば、黒から白への変身ぶり。

 役者というものはいつでも、「前とは違う自分を見せたい」と願っている。狙いもするし計算もしている。しかし、だからといって、まったく別人に見えるほど変わることはなかなか難しい。視聴者を説得できる役者は、そう多くない。

 と、綾野剛の存在がまずはこのドラマのしっかりとした柱になっている。

 加えて、ドラマの演出も見事だ。産科医療がそもそも繊細なテーマだということ自覚しつつ、丁寧に演出している。本物の新生児がしばしば画面に出てくることも、驚き。最初は、目を疑った。えっ、生まれたばかりの赤ちゃんじゃない? いったいどんな交渉をしたら出演してくれるの? 視聴者もたじろぐリアリティの追求。そのあたり制作陣の「本気度」が見てとれる。

 加えて、ズラリと揃った役者たち。松岡茉優、吉田羊、星野源……それぞれに迫力があり個性を発揮している。

 第2話は、平凡な家族に突然降り掛かった出来事。妊婦が事故にあい救急病棟に運ばれる。胎児を助けるのか、母親の命を優先するのか。夫は究極の選択を迫られ--どこにでもいそうな普通のサラリーマンお父さんをリアルに演じた小栗旬。救急病棟のベッドに横になる妻を前に、あたふたとたじろぎ、慟哭する。

 演技が上手くてリアリティが高ければ高いほど、視聴者は逃げ場がなくなる。お腹の中の赤ちゃんか。それとも妻か。どちらかを選ぶなんて、見ていて辛い。辛すぎる。目をそむけたくなる。お酒を飲みながらのんびりとお茶の間で楽しむ娯楽では、もはやなくなってしまう。

 これって、とんでもない皮肉なのだろうか? ドラマっていったい何?  『コウノドリ』と向き合って考えさせられた。

 もしもこれが恋愛ドラマなら……主人公がどんなにひどい失恋をしても、もう一度恋をすればいいじゃない、と思える。でも、生死の問題はそうはいかない。ドラマの中で母親は死に、赤ん坊は生きる結果になった。医療をテーマにしたドラマの、リアリティとはどうあるべき……?

「綾野くんは見たいけれど、物語が辛すぎて」という何とも皮肉な結果を超えていくために、ドラマには一つの「仕掛け」が用意されている。

 鴻鳥のもう一つの別の姿、天才ピアニスト・ベイビーだ。まるでベートーベンのように長髪のカツラをつけ髪の毛を振り乱し、ピアノを演奏する。鍵盤にすべての感情を叩きつけるかのように。

 そんな『コウノドリ』は、まるで「カメレオン」綾野剛という役者のために用意されたようなドラマだ。カリカチュアされたピアニストになりきって、シビアさを振り払ったその先に、どんなドラマツルギーが現れてくるのだろう? 「見たいけれど見るのがつらい」という新しいテーマに挑戦する新しい医療ドラマなのかもしれない。


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