マニアックな“ベトナムおこわ”はいかが? 高円寺「ツバメおこわ」の美味しくて優しいひととき。

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高円寺は日本のインド……ではなくベトナムだった

新宿駅からJR中央線を下って7分、高円寺駅にやってきた。かつて、みうらじゅんは「高円寺は、日本のインドである」とエッセイに書いたが、果たして今もそうなのだろうか。

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そんな状況は一変してしまったのかもしれないーーーー。ふらり歩いてみて、そう思わざるを得なかった。というのも今や「高円寺は日本のベトナム」といった様相を呈しているのだ。確認できただけでベトナム料理を扱っている食堂は7店(うち専門店は5店)もあり、ベトナム雑貨を扱っている店も2店ある。

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左上から「獨壹荘」(新高円寺)、「ビンミン」(炭火焼き肉専門店)、「MAI HIEN」(ベトナム中部の料理あり)、「チョップスティックス」(ビンミンの隣。同じ会社が経営)。

ベトナム人コミュニティがあるわけではないのに、なんでこんな増えてしまったのか。そのうちの一店舗でフォーをすすりながら聞いてみた。

「高円寺、なんでこんなにベトナム料理多いんですかね」

すると店員は答えた。

「私たちも理由はわからないです」

高円寺にはバンドマンやライター、漫画家といった自由業者、貧乏旅行を繰り返すハードなバックパッカーがたくさん住みついている。彼ら御用達の店として「元祖仲屋むげん堂」というアジア雑貨や無国籍料理屋を営む店や「抱瓶」など数店舗を営む沖縄料理店が成功し、街の顔として定着している。そうした店の成功に続こうとして、ベトナム料理の店が自然と増えていったのではないか。そのように推測しているのだが、真相はどうなのだろうか。

ベトナムのおこわ料理に魅了されて店をオープン

今回紹介する店はそのうちのひとつ。高円寺駅の北口から徒歩6分のところに位置する「ツバメおこわ」である。

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ここはベトナムのおこわだけにこだわったというマニアックな店だ。店主の平野さやかさんはもともとベトナム語の専門家。ベトナム語の翻訳を手がけたり、ベトナム人相手に日本語の研修をしたりしていたが、一念発起して、ベトナムで修行、2013年11月に店を始めたそうだ。

現地に住んでいたとき、おこわに魅了されたんです。それで4カ月、現地で修行した後、開業しました。なぜ高円寺に出店した理由はとくにないんです。いろいろ探していて、たまたま見つけたのがこの物件。街の雰囲気がのんきでいいなって思って決めました。

たまたまにしては出来すぎていないだろうか。

店内はこぢんまりとしている。調理も接客も平野さんひとりが担当している。店の看板、テーブルや椅子、飾られた絵に、たくさんの本。彼女のセンスとこだわりがぎゅっと凝縮しつつも、こぎれいにまとめられている。

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村上春樹『ねじまき鳥クロニクル』のベトナム語版が置いてある。

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アジアの食に関する本も。

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ベトナムの父、ホー・チ・ミンのお皿。

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お店では蓮茶やモンキーバナナ、コーヒーなども販売している。ときにはなぜか外で野菜を売っていることも。

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ベトナムビールの定番333(バーバーバー)。

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これは乾燥させた蓮の実。 ベトナムでは高級品なのだとか。

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「お店で使っている道具をなにか見せて下さい」とお願いする。彼女が持ってきたのは、二段重ねの大きな蒸し器。おこわを売りにしているのだから大型の蒸し器がなければ店を回せない、ということらしい。

そもそもベトナムのおこわってなんだろう? おこわといえば、もち米を蒸した料理という印象があるが。

もち米といっても、日本のお米と違って長粒米。だから日本のおこわよりはべたつかずパサパサしてます。スナック的に食べられてて、会社や学校の前とかに屋台が売りに来るんですよ。量を現地そのままにすると少ないので、この店では倍の量でお出ししています。

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メニューを拝見。フォー(米の麺)、ゴイクン(生春巻き)といった、ベトナム料理店でよく出されている定番はない。お客さんに「フォー下さい」と言われたとき、どうするのだろうか。「うちはおこわ専門店なので置いていない、ということを説明させていただきます」と平野さん。あくまで毅然と〝おこわ道〟を極めようとしている態度がなんだか清々しい。

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ガッツリいきたいなら、ぜひ肉系のおこわを!

では食べてみる。

まずこの店の看板メニューともいえる蓮の実おこわ(820円)。酢の物と魚醤(ヌクマム)。が付く。

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蓮の葉の上に具だくさんのおこわ、そしてその上にパクチーと蓮の実。具はキクラゲ、ミンチ、刻んだにんじん、さきいかのようなチキンなど。肉まんを柏餅風に包んだような見た目だが、具を包んでいるのがもち米なので、見た目以上にどっしりとしていて食べ応えがある。蓮の実は噛むと豆よりも粉っぽく大きく、存在感のある香ばしさだ。

続いて、鶏とモツのハーフ&ハーフ(800円)。

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右半分が鶏で左半分が豚のモツ。おこわの上に半分ずつかけた、欲張りな一品。モツは歯ごたえがあり濃厚な味。鶏はモツよりはややあっさりして柔らかく、ウズラとパプリカがついてくる。ちなみに、鶏おこわとモツおこわはそれぞれ単品だと650円だ。

豚&ハム煮おこわ(650円)。

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どんぶりに入っているので、まるでハム煮丼といった感じでかっ込める。たまご、ハム、豚の角煮と男の好物がてんこ盛り。とろとろした角煮の舌触りが絶品だ。お腹がすいてるときはまずはこれをおすすめしたい。

ここまでに紹介した料理には、単品で注文しても蓮茶のポットがサービスでついてくる。飲み終わってもお湯を足してもらえばさらに飲めるのがありがたい。

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優しい味わい!甘党にオススメなデザートおこわ

ここからはデザート。そう、本場ベトナムには甘党用のおこわメニューも豊富に存在しており、このお店でも味わうことができるのだ。

まずはガックおこわ(500円)。

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ひとまわり大きな「福サイズ」は880円。上にはココナッツのスライスがかかっている。おはぎのような栗おこわのような、ライス系のお菓子といえばいいのだろうか。そういえばおはぎもポジション的にはデザートに入るよなあ。

ガックおこわのガックとはこれ。この実で色づけしているのだ。

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パンダ豆のチェー(400円)。

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ドリンクとセットなら600円。パンダ豆のほかピーナッツや米などがかかっており、甘さとしょっぱさが絶妙にブレンドされ、大人向けのミルク粥といった味わいだ。温かいので寒くなるこれからの季節にいい。

黒い部分があるからパンダ豆なのかな。おかゆ状のお米と豆が混ざり合った、温かくて胃や腸に優しい味だった。

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ベトナムミルクコーヒー(350円)。小さなドリッパーでぽたぽた落ちるのを待つ。練乳が入っているのがベトナム風。

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以上、高円寺のこのお店でしか味わえない料理たちを紹介してきた。基本的に、お米をベースにした料理ばかりだからか、胃腸に優しく、量の割にはお腹にたまる。しかも値段もリーズナブルだし、多くのメニューはテイクアウトもOK。おそらく日本で唯一であろう、ベトナムおこわ専門店の味を、みなさんもぜひ味わってみてほしい。

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夏や冬の限定メニューもありと、季節によって料理がマイナーチェンジしていくのもまた一興。「日本のベトナム」は、新宿からオレンジ色の中央線に乗っかって2駅目!(ただし土日は停まらないので、黄色い総武線に乗ってね)

お店情報

ツバメおこわ
住所:東京都杉並区高円寺北2-39-14
電話:03-6321-3207
営業時間:11:00〜15:00、17:00〜21:00
定休日:水曜日

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書いた人:
西牟田靖(にしむたやすし)

1970年大阪生まれのノンフィクション・ライター。多すぎる本との付き合い方やそれにまつわる悲喜劇を記した自著「本で床は抜けるのか」(本の雑誌社)を2015年3月に出版。主な著書は「僕の見た大日本帝国」「誰も国境を知らない」など。 Twitter:@nishimuta62

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