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あなたは家族の延命治療、やめることができますか? 高齢者の「胃ろう」の現実に考えさせられる

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最先端医療の進歩によって、日本人の寿命は年々伸びてきた。一方でそれは、延命治療という形で、当人やその家族に「いのち」そのものの尊厳について、重くのしかかるケースも増やしている。

10月17日放送の「特報首都圏」(NHK総合)では、「延命治療をやめられますか」と題した回が放送された。今回は延命治療そのものについての基本的な情報から、果ては家族への延命治療の終え方についてまで、30分という枠ではあるものの、真摯に伝えていた。

近年、栄養を経口摂取できなくなった人を延命するために「胃ろう」という、胃に穴を開けてチューブを接続し、そこから栄養を注入する処置がメジャーになってきた。現在、40万人が胃ろうを施されているというが、いかにして延命治療を終えるかについても、考える時期が来ているのではないだろうか。(文:松本ミゾレ)
「燃料を入れておけばいつまでも生きるわけではない」

東京、世田谷にある特別養護老人ホーム「芦花ホーム」。ここに入所する高齢者100人の平均年齢は、なんと90歳。栄養の経口摂取ができない入所者もおり、本人や家族の意思で胃ろうを選択している方が15人いる。

芦花ホームの入所者の健康面の面倒を見る石飛幸三医師は、「燃料(栄養)を入れておけばいつまでも生きるわけではない」と語る。胃ろうをしている人の体には、少しずつ変化が生じるという。

「(栄養が)多すぎると下痢をする。(栄養が)上へ逆流してきて誤えん性肺炎とかになることもある。結局、ある段階から受け付けられないのが人間の体。無理強いしないというのに尽きる」

高齢になるほど、体の機能は当然消耗する。たとえば小腸の内壁には、柔毛という栄養素を吸収するための器官があるが、これも加齢によって萎縮していく。胃ろうをしている高齢者の場合は、これによって十分な栄養を吸収できなくなっていくのだそうだ。
栄養を減らして対処する施設側、栄養を戻すよう希望する家族側

胃ろうを8年間受けているという84歳の女性入居者は、胃ろうを始めた頃と同じ量の栄養を受け入れられなくなってきた。記録には、嘔吐や胃ろう部からの栄養の漏れなどが記述されていた。石飛医師のいうように、老化によって体は徐々に弱っていく。これは仕方がないことのようだ。

この入居者の場合は、施設側の職員と石飛医師、栄養士らが話し合いの末、これまで胃ろうで摂取してきた1日1200キロカロリーを800キロカロリーにして、体に負荷がかからないように対処していた。

ところが、この入居者の家族が、減らした栄養を増やして欲しいと相談をもちかけてきた。栄養を減らせば、それだけ体だって衰弱していく。家族としては、これは見るに堪えない状況であることに違いない。そこで施設側は、石飛医師と家族を交えて話し合いの場を持った。

石飛医師は、女性の老化が進み、かつ下痢もしていることから、栄養を過剰に摂取させている可能性が高いということ、そしてその場合に摂取させる量を減らすことは悪いことではないということを、説明する。実際に栄養を減らした結果、この入居者の嘔吐、下痢といった症状が改善されたこともしっかりと家族に説明した。

でも、それでも家族側からすれば、かけがえのない大切な人の命にかかわること。本当に栄養を減らして良かったのか。入居者の容態は落ち着いているものの、それでも悩むことはあるという。
「家族には外部からは推し量れない感情がある」

家族への胃ろうそのものの中止について、決断のときを迎えた人々もいる。在宅医として、終末期医療に向き合い続けている千葉純医師は、神奈川県横須賀市のある家族のもとを訪れた。

胃ろうを始めて5年という女性は、当初の3分の1程度の栄養しか受け入れられない体になっていた。千葉医師はこの日、女性の今後のことについて、家族にこう話した。

「胃ろうの問題は(身体の)限界が来たときに、それを分かった上で、あえて続けるか。やっていて害になることは、やめますよね。その判断を、いずれしなきゃいけなくなる」

この女性は常々、延命治療をしないように、家族に要求していたという。家族は家族で、「かわいそうなことをしているのかな」と悩むこともあるが、それでも女性が孫の写真を見せられて反応を示すと嬉しいと話す。

千葉医師は延命治療について、番組の取材に「(家族は)僕らでは推し量れない感情がたくさんある。これ以上やってもしょうがないという判断は批判される。そこがこの問題のナイーブなところ」と語っていた。

終盤では、延命治療の中止を選択した家族も登場する。2年前、母親を看取ったMさん。
彼女の母親は経鼻で栄養を摂取していたが、逆流や痰の絡みが日常茶飯事であったという。
そこでこれ以上続けると負担になると考え、中止を進言したのが、娘であるMさんだった。
母親は静かに息を引き取ったが、このときの決断が本当に正しかったのか。Mさんは現在も考え続けているという。
先端医療は命の期限を引き伸ばしはしたが……

ところで僕の祖父は15年ほど寝たきりで、がんに侵されていたものの、亡くなるほんの直前まで意識はしっかりしていた。でも度重なる放射線、薬物治療と手術で体力は底を尽き、終末期は体にチューブを差して栄養を入れ、まさに生かされているだけの状態になった。

逆流もあったし痰も絡んだし、最後の方はもう「早く楽になってくれ」としか思うしかないぐらい、それは悲惨なもので、地獄のような時間を病室で過ごした。

率直に言って、僕は家族が延命治療の末に亡くなった様子を見て、延命治療は必ずしも最良の決断じゃないと考えている。延命させるかどうか、その決断は家族にしかできないものだけど、これはもうどちらを選んでも家族の心に大きな影を落とし、それはいつまでも晴れることがない。

命の期限は先端医療によって引き伸ばされた。しかし命そのものの在り方もまた、先端医療によって大きく変容していったような気がしてならない。僕はチューブに繋がれて辛うじて命を維持していた祖父の心電図が、平坦になったときの複雑な思いを、恐らく生涯忘れることがない。

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