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聴導犬拒否騒動 他者に対する不寛容な社会の空気が気になる

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 大阪の百貨店内のカフェで聴導犬を連れた客が入店を拒否された。百貨店は聴導犬、盲導犬などの「補助犬」の受け入れを積極的に行っていたが、テナントのカフェに周知されていなかったのが原因だった。ネットでは大きな批判が起きたが、本当の問題はどこにあったのだろうか。食文化に詳しい編集・ライターの松浦達也氏が分析する。

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 今月上旬、大阪の百貨店内のカフェで、聴導犬を連れた客の入店が拒否されたという顛末がネット上で話題になった。同百貨店で行われていた「補助犬法啓発イベント」の参加者が、イベント後に同じフロアのカフェに聴導犬とともに入ろうとしたら入店を拒否されたという。百貨店の担当者も含めた当事者にとっては信じられない出来事だったろう。数日後、百貨店の公式ホームページで「聴導犬の入店に関するお詫び」を発表するに至った。

 本来、法的には聴導犬を連れた客に対し、飲食店側の入店拒否は許されていない。2002年、身体障害者補助犬法が制定され「飲食店などの不特定多数の者が利用する施設を身体障害者が利用する場合において、身体障害者補助犬を同伴することを拒んではならない」と明文化されている。

 ネット上では、今回の飲食店の対応を非難する声が多い。確かに店の従業員教育は十分でなかったのだろうし、百貨店とテナントとの間でも法令に対する知見が共有できていなかったと考えられる。もちろん、店の対応を肯定するつもりは微塵もない。だが、ネット上で飛び交う「ひどい」「ありえない」といった感情的な書き込みに、無条件に肩入れする気にもなれない。

 なぜならば、すべての飲食店にとって衛生管理は最重要事項であり、たいていの店にとって補助犬への対応は非日常だからだ。さらに衛生管理のいい悪いは別として、一般的だと思われている飲食店の常識――今回のケースで言うと「(聴導犬であろうとも)動物の入店を拒否」に沿った対応となってしまう。悪いのは対応したスタッフにそうさせてしまう、仕組みのほうだ。

 実は食品衛生法には「作業場には、営業者及び従事者以外の者を立ち入らせたり、動物等を入れたりしないこと」という条項がある。立ち入らないよう規定されている「作業場」とは調理場のことで、客席への動物の連れ込みが禁止されているわけではない。では、この食品衛生法の規定は現場に、そして世の中にどこまで知られていたのだろうか。

 愛知県では2005年に『いわゆる「ドッグカフェ」に対する衛生指導要綱』が制定されていて、その序文にはこうある。

「昨今のペットブーム等により、愛がん動物が単なるペットとしてではなく、伴侶動物として人の生活により重要な役割を果たすようになってきていることもあって、客席に愛がん動物を同伴することを認める飲食店等が現れてきております」

 本来、禁じられているわけでもない行為に対して「認める飲食店等が現れてきて」と表記する。客席のペット同伴を認めるかどうかの判断は、店の裁量のはずだが、行政がバイアスをかけてしまっている。もっと言えば、自然にこういう序文になる空気が世の中に醸成されてしまっていたとも言える。

 削ぎ落とした業態で「安くてうまい」がウリの店でも、些細な粗相でクレームが入る。一見の客相手にでも、ヘタな対応をすればネット上に炎上ネタとして書き込まれる。いいか悪いかは別として、水彩画のように抽象的な温かかさを伴っていた飲食店の趣は、稚拙なデジタル画のようにわかりやすい”コスパ”と、マニュアル通りの客あしらいに置き換えられつつある。

 今回の出来事は、たまたまテナントのカフェで起きたかもしれない。だが実は入店を拒否したのは、他者に対する不寛容な社会の空気――つまり、われわれ自身が入店を拒否したとも考えられないか。いつ誰から非難されるかわからない社会的空気が漂っているからこそ、目の前のルールにしがみつき、頑迷に「正しさ」を主張してしまう。あちらこちらで、そんな光景を見ることが増えた。

 飲食店は象徴的なサービス業である。「サービス」という言葉を辞書でひくと「相手のために気を配って尽くすこと」(大辞林)とある。互いに気を配り、尽くす余裕を作るためにも、もう少し寛容な社会でいられないものか。ネット上で過剰な炎上案件を目にするたび、そんなことを思う。そう思いながらも、こうしてネットメディア向けの原稿を書いている。


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