全国のユニークな「具」を調査&にぎり倒した!『にっぽんのおにぎり』著者が語る、おにぎりの魅力とは?

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あなたの好きな「おにぎり」って、なんですか?

シャケ、ツナマヨ、おかか……パッと浮かぶ具も人それぞれですよね。私はやっぱりシャケ、明太子、渋いところだと「葉わさび」が好きなんですよねえ。コンビニにあるとつい買っちゃう。海苔は最初から付いてあるのを買う派です。友人は「絶対イヤだ。のりはパリパリじゃなきゃいかん!」と怒るんですけどね。

さて、なぜのっけからおにぎり話かというと、『にっぽんのおにぎり』(理論社)という本を読んだのがきっかけ。「写真絵本 おにぎり風土記」と帯には記されていて、都道府県47個のおにぎりが各1ページずつ、どーんと紹介されています。

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いやーーーーーーーおにぎりって、奥深い!

地域によって、こんなにもバリエーションがあるものなんだなあ。驚きました。『メシ通』のネタとして、著者の白央篤司さんに日本のおにぎりの魅力や面白さを教えてもらおう、ってな企画なわけです今回は。ちなみに白央さん、『メシ通』でもたびたび素敵なお店を紹介してくれているフードライターさんでもあります。

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話す人:
白央篤司(はくおうあつし)

早稲田大学卒業後、編集者を経てフリーに。食記事の執筆とプロデュースを手掛ける。郷土料理と居酒屋がメインテーマ。現在、月刊誌『栄養と料理』、オムロンのカルチャーサイト『リズム』などで連載中。2015年6月に出版した『にっぽんのおにぎり』が初の著書となる。

白央さん、こんなゆるいノリですみませんが、おにぎりのこと、教えてくださーい! 

各県の名物や郷土料理を「にぎって」みよう

白央さん、おにぎりといっても様々なんですね! シャケやおかかといった一般的なものしかイメージなかったので、読んでいてとても新鮮でした。

ありがとうございます。ただ、この本は全国各地で食べられているおにぎりをそのまま紹介した本じゃないんです。郷土料理のおにぎりもいくつか入っていますが、基本的にはその土地で長年つくられてきたものや、郷土をあらわす食材でおにぎりをつくってみよう……という意図なんです。「各県をにぎってみよう」というか。

ああ、なるほど! 私は福島県出身なんですが、「いかにんじんのおにぎり」なんてあるのかー……って驚いたんです。 あれは、福島の郷土料理をモチーフにしてつくったオリジナルおにぎりだったんですね。 

そうです。するめいかとニンジンでつくられる福島の郷土料理、これを細かく刻んでおにぎりにしてもおいしいだろうな、と思って。そんなアレンジおにぎりも多いんですよ。ただ、たとえば岩手。この県の具は「すじこ」にしました。すじこは岩手だけでなく東北全般でおにぎりの具として定番です。でも東京や関西の人はほとんど食べない。私は仙台で育ったんですが、東京では売ってもないことが多くて、本当にビックリしました。そういう食の地域差みたいなものを、おにぎりを通して描いてみたいという狙いはありました。

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これがすじこです。これがもうすこし成長して、粒がしっかりしてきたところでほぐしたのが、いくら。いくらは卵膜がしっかりしていてプチプチしていますが、すじこは若い分、しっとり柔らかい。そのかわり筋に守られたままなので、独特の食感があります。この写真を見ただけで、北海道~東北、北陸の人間はたまらんと思いますよ。

富山の昆布 vs 兵庫のいかなご

これまで調べてきた中で、白央さん的に最もインパクトあったおにぎりってなんですか?

そうですね……やっぱり富山かなあ。

それって、どんなおにぎりなんでしょうか? 

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(撮影:浜村多恵)

うわっ、これは伝説の毛羽毛現のような!  もじゃもじゃですね!!

インパクトありますよね(笑)。でもこれ、富山の人は「おにぎりってこのことだと思っていた」ってサラリと言うんですよ。とろろ昆布といって昆布を重ねて薄く削ったものを全体にまぶしてあるんです。富山人の昆布好きはちょっと想像を絶しますね。このおにぎりの中にさらに昆布の佃煮を入れたりしますから。

まさかのW昆布ですか!!

総務省統計局が行なっている「家計調査」というのがあるんですが、年間の昆布支出金額、富山市がぶっちぎりのトップで2,327円、これは全国平均の2倍以上です。県内だとお餅やパン、インド料理のナンまで昆布入りの商品が売られていたりします。昆布でかまぼこを巻いたものは定番の商品ですし、お刺身は昆布じめが一般家庭でもよく食べられているし。とにかく昆布が好きですね、富山のかたは。

なるほど。では、このおにぎりはどこのですか?

兵庫県のおにぎりで、具はいかなごのくぎ煮。いかなごって、他の地域では「小女子(こうなご)」と呼ばれている魚です

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(撮影:浜村多恵)

こちらも、なかなかインパクトありますね!

「佃煮をつくる」って、家ではほとんどしない……そういう先入観が私の中にあったんです。自分で作るなんて思いもよらなかったんですね。しかし兵庫の海沿いの人々のいかなご作りに対する執着というのは……もう執念という感じで、すごいんですよ。

いかなごって初春に獲れる魚で、兵庫の海沿い地方に春を告げる魚なんです。「みなさん、実際につくられるんですか?」と質問すると「あたりまえやんか。港のほうまで買いに行くで」佃煮いうても鮮度が重要やねん。新鮮ないかなごで作りたいから、上がったばかりの買わんならん」「あの時期は町中からいかなご炊くにおいがする」こんな口コミがもうわんさか、入れ食いなんです(笑)。

関西人らしいサービス精神で言ってるのかと最初は思ったんですが、本当に皆さん好きなのが伝わってきて、驚きました。よく聞かれたのが「東京や地方に就職で出ていった子どもに毎年送る」という声。 兵庫出身者で地方勤務のかた、冷凍庫におかんや叔母さんから送られてきたいかなごのくぎ煮入れてる人、か・な・り多いと思いますよ。専用のケースがセットになってる郵便局のいかなご便というのがシーズンにはあるんです。「くぎ煮調理コンテスト」もあって、お孫さんと祖父母がペアで組んで出場したり。お年寄りがつくるものかと思ったら、今の若い奥さん方も作っている。いかなごづくりが上手なお母さんって、「いかなごおかん」「クギニーネ」なんて呼ばれているそうです。

 いかなごの佃煮、そこまで愛されてるとは!!

おしゃれなビストロですら、いかなごを使ったキッシュが出されてたりするんですよ。もうこれは是が非でもいかなごをおにぎりにしたいなあ、と思いました。実際は白ごはんに、くぎ煮をおかずに食べることが多いと思います。でも、県をおにぎりで表すときには、こういう取材で得た「人の声」をどうしても入れたかったんですね。ちなみにキュウリを一緒ににぎり込んでいるのは、調理を担当してくださった料理家の藤村公洋さんのアイディアです。甘じょっぱい佃煮の味がさっぱりするんですね。こういう料理上の工夫も組み込んだ本にしているつもりです

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誰しも「おにぎりの記憶」を確実に持っている

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ところで、おにぎりのフォルムといえば、現在では三角形が主流といった印象ですけど、俵型があったりと、地域によっていろいろバリエーションがありそうですよね。

調べていて感じたのは、やはり滋賀県から以西は俵型が多いかな、と。俵のおにぎりは基本的に具を入れない、もしくは何かを混ぜ込んだときのもののようですね。 鹿児島育ちのある方は「三角形のおにぎりは大人になって、東京に来て初めて見た」なんておっしゃっていました。

これは私の考えですが、昭和30年代ぐらいから、 日本中で移住や転勤、遠くの地方へ嫁いだり……ということが増えてきだした。核家族化が進んでくると、嫁ぎ先での流儀を守ることもなくなる……ということが起こったと思うんです。そうすると、今まで保たれていた地方ごとの食文化というのが様々にミックスされてくるわけです。現在は多くの地域で三角形のおにぎ りが作られていたり、ポピュラーな具が大体決まっているというのは、そういうことの繰り返しなんだろうと、私は考えています。

 今は食の地域性がかなり薄れている、ということですか?

そういう面も確かにありますが、まだまだ地域ならではの食というのは残っています。でもそれを実際に作ることのできる人は確実に減少していますね。郷土料理のレストランや、お土産屋さんが作るものに転化してしまっている。本の中で紹介した宮城県のはらこめしや、新潟のけんさん焼きなども、実際に作る人は減っていると思います。料理屋さんや、お弁当屋さんで食べるものになっているんですね。

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(撮影:浜村多恵)

けんさん焼き:ショウガ味噌を塗った白むすびを全体的にあぶった新潟の郷土料理。その昔、武士の携帯食だったという説もある。

f:id:Meshi2_IB:20150910180214j:plain 最近の白央さんのお気に入りは「とうもろこしの炊き込みにぎり」

 では最後にお聞きします。白央さんが思う「おにぎりの魅力」ってなんでしょうか?

日本人にとって、最もシンプルで身近な食事のひとつですよね。料理と呼ぶにはちょっと抵抗があるんですが、間違いなく日本食を代表するもののひとつだと思う。本のあとがきでも触れましたが、おにぎりの化石ってあるんですよ。約2000年前、石川県で出土されたものです。そんなにも前から我々の祖先はお米を育て、おにぎりをこしらえてきたと思うと、これはもう悠久というか、連綿たる時の流れを感じますよね。いったい日本人はこれまで何個おにぎりを作ってきたのか。

そして「思い出のおにぎりは?」なんて質問をすると、たいてい何かしら皆さん、あるんですね。例えば私なら、小学校4年生のとき、初めてひとりで祖父母の家に列車で出かけた時のことを思い出します。母がつくってくれた、丸い、あまり形のよくないすじこのおにぎり。よみがえってくるんですよ、不安なあのときの気持ちがね。そんなふうに、何かしらを思い出させる力の強い食べものだと思うんです。

それ、よく分かります! 自分は「思い出のおにぎり」というと、小学校の運動会で食べたおにぎりを思い出すなあ。 お重に入ってて、玉子焼きとキュウリ漬けも詰めてあったお重。かけっこして、ひと汗かいた後に頬張ると、塩気がじんわり美味しくて。

この『にっぽんのおにぎり』を出版して、友人知人と話が盛り上がったという感想を多くいただいたんです。「あなたの県はこういうの食べるの?」とか「うちは俵型ばっかりだったけど、キミんちは?」とか。それがとても嬉しかったですね。同時に、やっぱり「おにぎりは人を多弁にさせる」と確信しました。記憶と直結しやすい食べ物だし、みんなこれといって特に執着がないようで、やっぱりそれぞれ、具や形、のりの具合など、細かく好みがあるものなんですよ。

聞き手:「メシ通」編集部

写真提供:白央篤司、トップ画像調理:渡辺征大

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