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明治維新を最初から最後まで体験した偉人

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明治維新を最初から最後まで体験した偉人

 出版界の最重要人物にフォーカスする『ベストセラーズインタビュー』!
 第72回の今回は、新刊『鬼神の如く―黒田叛臣伝―』(新潮社/刊)を刊行した葉室麟さんが登場してくださいました。
 この作品で葉室さんが書いたのは、「仙台騒動」「加賀騒動」と並ぶ江戸時代の「日本三大騒動」の一つである「黒田騒動」。
 福岡藩の重臣であった栗山大膳が、主君の黒田忠之を訴えたことで知られるこの騒動ですが、その内実は単純ではありません。当時の江戸幕府や長崎奉行、近隣の藩など、様々な人々の思惑と社会情勢が絡み合うなか、大膳はなぜ主君を告発しなければならなかったのでしょうか?
 今回は葉室さんにこの作品の成り立ちや当時の時代背景、そして「歴史」をひも解くことの意味など、さまざまなテーマについて語っていただきました。最終回の今日は葉室さんが50代になってから歴史小説を書き始めた理由についてお聞きしました。

■50代になってから歴史小説を書き始めた理由
――50代になってから小説を書き始めたとうかがいましたが、きっかけはどんなことだったのでしょうか。

葉室:定年が近づいてくると「人生の残り時間」を考えるようになりますから、「何か書き残しておきたい」という衝動が自然に生まれてくるんですよ。だから、小説を書き始めたのは年齢的なものが大きかったと思います。
もっと若い頃は純文学の小説を書いたりしていて、「文學界」や「群像」の賞に応募したりしていました。だいたい二次選考くらいまでは行くんだけど三次選考にはいかない。そういうことが続くと、これをやっていてもしょうがないなとなって一度は小説から離れたのですが、50代になってからまた書くようになって、今度は歴史を題材にするようになりました。やはりそのくらいの年齢になると過去が気になってくるんですよ、自分自身の過去も含めて。歴史を振り返ることへの感心が高まって、「あれはどうだったんだろう?」ということに自分なりの回答を出したくなる。それはおそらくどなたでもそうだと思います。振り返るやり方は色々あって、小説とは限りませんが。

――今後、小説の中で取り上げてみたい歴史的な題材がありましたら教えていただきたいです。

葉室:今年の末くらいから「西郷隆盛」についての小説を書き始める予定です。
僕は明治維新の総括が必要だと考えているのですが、明治維新を最初から最後まで体験したのは西郷しかいないんです。他の人は途中で死んでしまったりするし、NHK大河ドラマの『花燃ゆ』に出てくる長州藩にしても、出てきたのは安政の大獄以降ですからね。
それ以前から辿らないと明治維新の本当の姿は見えてこないと思うのですが、安政の大獄以前から何かをやっていたのは薩摩藩や水戸藩、人物でいえば西郷隆盛くらいなんです。
今はその準備をしているのですが、一度で西郷さんを全部書き切るのは難しいので何回かに分けてと思っています。

――人生で影響を受けた本がありましたら、3冊ほどご紹介いただけますか?

葉室:一つめは漫画で、白土三平さんの『忍者武芸帳 影丸伝』です。
これは戦国時代が舞台になっているんですけど、歴史観が独特で、戦国時代の最後は戦国大名のチャンピオンである織田信長と、一揆勢力のチャンピオンとしての一向宗本願寺勢力との対決で、どちらが勝ったかによってその後の日本の歴史が決まったのだという完全な階級闘争史観なんですよ。
白土さんは、お父さんがプロレタリア画家で、共産党と近い位置にいたので、その影響を受けているのだと思うのですが、今考えると子どもに読んで理解できたのだろうかと思います(笑)。
二冊目は、司馬さんの『竜馬がゆく』ですね。これは先ほども話に出ましたが、歴史の面白さに気づかせてくれたところがあります。
三冊目は小林秀雄さんの『モオツァルト』を挙げておきます。昔から小林さんの評論が好きだったんですけど、最近また読み返しています。小林さんも戦争を経験した世代の人ですが、そこからヨーロッパ的な文学の方面で頂点に立ちました。ただ、どうも日本の古典に戻らないといけないと考えていたふしがあって、それが『本居宣長』という最後の仕事につながる。物事を考えることの大切さは小林さんの評論に教えられたところがあります。

――最後になりますが、読者の方々にメッセージをいただければと思います。

葉室:昔の人の名前が出てきてややこしかったり、説明が多くて退屈したりと、歴史小説は人によっては苦手意識を持ったり食わず嫌いしてしまうところがありますが、ちょっと我慢して読み進めてみていただければ、我慢しただけの面白さが味わえるはずです。
今、本は「作品」というよりも「商品」になってしまっていて、いかに自分が気持ちよくなれるかという方向に寄ってしまっていますが、辛抱して読むことで後から面白くなってくるという読書もあるので、食わず嫌いにならないでいただきたいですね。

■取材後記
歴史とは「歴史の授業」で習うような直線的なものではなく、無数のひだがあり、そこには物語が隠されている。そして、どの角度から光を当てるかによって、時間や人間関係においてどこまでを切り取るかによって、その物語の見え方は変化するものだと葉室さんの小説は教えてくれる。
単純な時系列から、角度によって様相が変わる多面体へ。『鬼神の如く―黒田叛臣伝―』はきっとあなたの歴史の見方を変えてくれるはずだ。
(インタビュー・記事/山田洋介)


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