今週の永田町(2015.9.29~10.8)

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【第3次安倍改造内閣が発足】

今週7日、安倍総理は内閣改造を行い、皇居での認証式を経て第3次安倍改造内閣を発足させた。内閣改造に先立って行われた自民党役員人事では、高村副総裁と、党四役(谷垣幹事長、二階総務会長、稲田政調会長、茂木選対委員長)の続投が自民党臨時総務会で了承された。今後、1億総活躍社会の具体化、調整が難航している消費税率10%引き上げ時の軽減税率導入をめぐる与党協議、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉の大筋合意を受けての国内対策の策定などを着実に進めていく必要があり、自民党内の政策立案・調整機能や、官邸・自民党間の順調な連携体制を維持することにした。また、来年夏に行われる参議院議員選挙を見据えて挙党態勢をつくるため、安定的な党内運営を継続することも重視したようだ。

また、細田幹事長代行や佐藤国対委員長の留任、組織運動本部長に山口泰明・衆議院議員、広報本部長に木村太郎・前総理補佐官を起用することも了承された。このほか、下村博文・前文部科学大臣が党総裁特別補佐に就任、河村建夫・前衆議院予算委員長が衆議院議院運営委員長に内定した。

 

その後、政府は、臨時閣議を開いて閣僚の辞表を取りまとめた。安倍総理は、「政権発足以来、今日まで経済再生、震災からの復興、危機管理の徹底、地方創生ということを皆さんの協力をいただいて、ここまで成果を上げることができた」「アベノミクス第2ステージに向け、内閣改造によって、これから心新たに改革を行いたい」と述べたという。

安倍総理は、山口・公明党代表と与党党首会談を行った後、組閣本部を設置し、第3次安倍改造内閣の発足に着手した。内閣改造では、「大きな骨格は維持」と明言していたとおり、閣僚19人のうち、主要閣僚(麻生副総理兼財務大臣兼金融・デフレ脱却担当大臣、菅官房長官兼沖縄基地負担軽減担当大臣、甘利経済再生担当兼社会保障・税一体改革担当兼経済財政政策担当大臣、岸田外務大臣)など9人を留任させた。

安全保障関連2法の成立をうけて着実な運用と国民向けの説明を果たすために中谷防衛大臣を、国民一人ひとりに12桁の個人番号を割りあてて税・社会保障関連情報を一つの番号で管理する共通番号(マイナンバー)制度が来年1月から運用スタートに備えるために高市総務大臣を、雇用労働改革や社会保障制度改革などを今後も推進していくために塩崎厚生労働大臣を続投するのが適切と判断したようだ。また、引き続き地方創生や国家戦略特別区域を推進する石破地方創生担当大臣や、2020年東京オリンピック・パラリンピックに向けて懸案事項に取り組む遠藤東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会担当大臣も再任となった。

 

一方、交代した閣僚は10人(初入閣が9人、再入閣1人)となった。安倍総理が新たな看板政策として打ち出した「1億総活躍社会」の実現に取り組む担当大臣には、大蔵省出身で経済・財政政策や厚生労働行政に精通し、安倍総理の側近として官邸主導に貢献してきた加藤勝信・前官房副長官を充てた。加藤大臣は、内閣府特命担当大臣として、女性活躍や少子化対策、男女共同参画、再チャレンジ、国土強靱化、拉致問題も担当する。

経済産業大臣(兼産業競争力、原子力経済被害、原子力損害賠償・廃炉等支援機構担当)には、林幹雄・衆議院議院運営委員長が再入閣となった。また、東日本大震災や福島原発事故にあたる復興担当大臣兼福島原発事故再生総括担当大臣に高木毅・国対筆頭副委員長、環境大臣兼原子力防災担当大臣に丸川珠代・参議院厚生労働委員長を充てた。

農林水産大臣には、自民党でTPP対策委員長を務めてきた森山裕・元財務副大臣が就いた。TPP交渉を担当した甘利大臣から報告を受けた安倍総理は、7日、(1)中小企業を含めた新たな国際調達・供給網の構築、TPPを活用した生産性の向上、(3)国民不安を解消する丁寧な説明と農林水産業の強化を柱とする国内対策を国会承認を求めるまでにとりまとめるよう、甘利大臣に指示した。大筋合意したTPP交渉で政府が聖域と位置付けた農産品重要5分野の関税撤廃こそ免れたものの、国内の農林水産業への影響や反発などが予想されるからだ。森山大臣は、甘利大臣とともに国内対策などにあたることとなる。

 

 公明党出身の太田昭宏・国土交通大臣の後任には、水循環政策担当を兼務のうえ、旧建設省出身の石井啓一・公明党政調会長が就任した。公明党の山口代表は、当初、留任させる方針だったが、党内外から在任期間が3年弱と長くなったことや、党内の世代交代を図るべきと太田大臣の交代を求める声を受け、方針を転換した。新国立競技場の旧整備計画で総工費が2520億円に膨張し、安倍総理が白紙撤回という一連の混乱を招いた責任をとって辞任を申し出た下村文部科学大臣兼教育再生担当大臣の後任に、文教畑を歩んできた馳浩・元文部科学副大臣が起用された。

 このほか、岩城光英・参議院議員副会長が法務大臣に、党無駄撲滅プロジェクトチームや行政改革の提言などを主導してきた河野太郎・党行政改革推進本部長が行政改革・国家公務員制度・規制改革担当大臣(兼国家公安委員長、防災担当、消費者及び食品安全担当)にそれぞれ就いた。米軍普天間飛行場を名護市辺野古へ移設する問題で政府と対立している翁長沖縄県知事との関係改善に期待して、沖縄振興策などの責任者である沖縄及び北方担当大臣(兼海洋政策・領土問題、科学技術政策、宇宙政策、情報通信技術政策、クールジャパン戦略)に、沖縄選挙区選出の島尻安伊子・参議院環境委員長を起用した。

 

安倍総理は、内閣改造にあわせて、萩生田光一・党総裁特別補佐を官房副長官(政務担当)に起用した。官僚人事を一元管理する内閣人事局長も兼務する。世耕官房副長官(政務担当)と杉田官房副長官(事務担当)、横畠裕介内閣法制局長官は続投となった。総理補佐官には、衛藤晟一氏、和泉洋人氏、長谷川栄一氏が留任、河井克行・元法務副大臣(ふるさとづくり推進、文化外交担当)と、柴山昌彦・元総務副大臣(国家安全保障に関する重要政策、選挙制度担当)が起用された。

 

 

【安倍総理、1億総活躍社会の実現を改めて強調】

 第3次安倍改造内閣の発足後に行われた初閣議では、少子高齢化に歯止めをかけて50年後も人口1億人を維持し、誰もが家庭・職場・地域などで活力を発揮できる「1億総活躍社会」の実現をめざして、(1)名目GDP(国内総生産)600兆円、(2)希望出生率1.8、(3)介護離職ゼロをめざすことや、東日本大震災からの復興加速、積極的平和主義にもとづく国際貢献の拡大などを盛り込んだ基本方針を決定した。

 

安倍総理は、第3次安倍改造内閣の発足にあわせて行われた記者会見で、今回の内閣改造について「未来へ挑戦する内閣」と位置付け、「1億総活躍という輝かしい未来を切り開くため、安倍内閣は新しい挑戦を始める」「強い自信をもって、国民の皆さんと少子高齢化という構造的な課題にチャレンジする」「少子高齢化をはじめ、長年の懸案だった諸課題に真正面から向き合って克服する。誇りある日本をつくりあげ、そして次の世代にしっかりと引き渡していく」など、アベノミクス第2ステージ「1億総活躍社会」をめざして、経済再生、少子化対策や社会保障制度改革などを総合的に取り組んでいくと述べた。

そのうえで、「年内のできるだけ早い時期に、緊急に実施する対策を策定し、直ちに実行に移す」と、年内にも具体策第1弾を打ち出す考えを表明した。安倍総理は、有識者らで構成する国民会議を加藤大臣のもとに設置して、2020年までのロードマップ(工程表)を定めた「日本1億総活躍プラン」を策定する方針だ。

 

ただ、1億総活躍社会に向けた政策テーマは横断的で、経済再生・地方創生・社会保障など他の大臣職の所管とも重なる部分も多く、どのように差別化を図っていくかがはっきりしていない。また、担当大臣の権限なども曖昧で、事務局体制づくりもこれからだ。

こうした点に、安倍総理は「1億総活躍社会づくりは、最初から設計図があるような簡単な課題ではない。司令塔たる閣僚には、省庁の縦割りを排した広い視野と大胆な政策を構想する発想力、それを確実に実行する強い突破力が必要だ」と、1億総活躍担当大臣を新設した意義を強調した。その大臣職に加藤氏を起用したことには、官房副長官として霞が関の関係省庁を束ねてリーダーシップを発揮してきたことや、女性活躍や社会保障改革に携わってきたことなどを挙げて「官邸主導の政権運営を支えてきた。司令塔、切り込み隊長として省庁の縦割りを排してほしい」と語った。

 

また、安倍総理は、「引き続きアベノミクスを支える骨格として雇用を増やし、しっかりと所得を増やす成長戦略を実行して、国民の皆さんが真に実感できる経済の好循環を回し続けていく」と、これからも経済最優先で進め、新3本の矢の1矢目「強い経済」に全力を挙げる方針を改めて強調した。地方創生についても「これからが本番だ。北は北海道から南は沖縄まで、目にみえる地方創生を進める」と語った。

 TPPの大筋合意を受けた国内対策については、農産品の関税撤廃・縮小が与える国内の農林水産業への影響を見極めたうえで、「必要な予算は、さまざまな観点から今後、検討を進めていく」と、農林水産業の競争力強化など万全な措置を講じる考えを表明した。政府は、9日にも全閣僚が参加する「TPP総合対策本部」(本部長:安倍総理)の初会合を開いて、国内対策の基本方針を取りまとめるという。政府・与党内からは、景気が足踏み状態でデフレ脱却も道半ばということもあって、TPP関連対策や地方創生も絡めた経済対策、それを裏付ける数兆円規模の補正予算を組むべきではないかとの声も出ている。今後、平成27年度補正予算案の編成も含めて検討していくようだ。

 

 

【臨時国会召集をめぐって与野党が攻防】

安倍総理が1億総活躍社会の実現を掲げて第3次安倍改造内閣が発足したことに対し、野党からは疑問の声が相次いだ。

民主党の岡田代表は、民主党綱領の「すべての人に居場所と出番のある社会をつくる」を挙げて「パクリみたいな感じだ。活躍の中身が問題で、新3本の矢は、すべてが経済からの観点だ。経済の断面だけで切っており、非常に違和感がある」「キャッチフレーズが好きだが、具体的な政策を準備しているかは疑問だ」と批判した。

また、「何が変わって、何をしようとしているのか分からない。論評にすら値しない」(民主党の枝野幹事長)、「そもそも1億総活躍とは何なのか」(維新の党の松野代表)、「全く新味がない。憲法や平和主義を壊す安倍政権に求められているのは、改造ではなく退陣」(共産党の山下書記局長)、「戦前の1億総動員を想起させる」(社民党の吉田党首)などと酷評した。

 

参院選を念頭に安倍内閣と対決姿勢を鮮明にしていきたい野党各党は、まずは新3本の矢からなる「1億総活躍社会」や、TPP交渉で大筋合意した内容などを安倍総理や関係閣僚に問い質したいとして、臨時国会を早期に召集すべきだと主張している。

当初、政府・与党内では、11月上旬に召集して安倍総理の所信表明演説と各党代表質問、衆参両院の予算委員会での集中審議を開催し、来年度予算案の編成前に閉幕する案が有力だった。しかし、日中韓首脳会談や20カ国・地域(G20)首脳会議への出席など安倍総理の外交日程がつまっていることや、TPP交渉の妥結が遅れたことで参加各国の最終合意・協定署名が年末年始の前後になる見通しで、国会承認案や関連法案の国会提出もそれ以降になる可能性が高まった。このことから、政府与党内では、臨時国会の会期を来年1月までで設定し閉会後に日を置かずに通常国会を召集する案や、臨時国会開催を見送る案も浮上している。

 

こうした臨時国会見送り論に、野党側は「議論から逃げるのは論外」(民主党の細野政調会長)、「とんでもない話」(維新の党の松野代表)などと厳しく批判した。

維新の党や日本を元気にする会などはTPP推進の立場で、基本的に評価・賛成との考えを示しているが、共産党や社民党などは大筋合意に強く抗議して、交渉撤退を政府に要求している。慎重姿勢の民主党からは、TPPによる貿易拡大の必要性を認めつつも、「今回の合意は国益に反する」(枝野幹事長)、「本当に国益に合致しているのか」(細野政調会長)と、反対論や懸念する声が出ている。賛否で分かれる野党各党だが、早期の国会審議を求める点では一致しており、与党に足並みをそろえる。

7日、民主党・維新の党・共産党・社民党・生活の党は、野党5党国対委員長会談を行い、与党に臨時国会の早期開催を求めるとともに、臨時国会に先立って、TPP交渉のプロセスなどの情報開示と衆参両院予算委員会での閉会中審査開催を求めることで一致した。

 

 その後に行われた与野党7党の国対委員長会談で、民主党が野党を代表して、TPPなどを審議する予算委員会での閉会中審査の開催と、臨時国会の早期召集を要求した。自民党も閉会中審査の開催には応じた。これにより、11月前半にも予算委員会で開催することとなった。11月9~11日に行う方向で調整している。

ただ、臨時国会の召集については、自民党が「要求を政府に伝える」と対応を明確にしなかった。自民党執行部は、臨時国会召集が必要か否かについて政府と調整のうえ慎重に判断としているが、政府・与党内では、野党が求める閉会中審査に応じて臨時国会を見送るべきとの意見が主流となりつつあるようだ。

 

 

【安倍総理や重要閣僚の発言に注目を】

 第3次安倍改造内閣が発足し、翌8日から本格的に始動となった。今後は、1億総活躍社会の実現に向けた具体策策定や、TPP大筋合意を受けての国内対策の策定、来年度予算案の編成などを着実に進めていく方針だ。また、軽減税率の導入を含む与党間での税制改正議論も近く再スタートとなる見通しだ。

安倍内閣にとって参議院選挙が大きな正念場となるだけに、どのような政策を打ち出して成果をあげていくのだろうか。第3次安倍改造内閣の行方を占う意味でも、当面、安倍総理ら重要閣僚の発言などに注目しておきたい。また、臨時国会の召集をめぐって、水面下の駆け引きも含め与野党攻防が始まっている。重要課題が山積するなか、臨時国会が召集されることになるか否かもあわせてみておいたほうがいいだろう。
 

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霞が関と永田町でつくられる“政策”“法律”“予算”。 その裏側にどのような問題がひそみ、本当の論点とは何なのか―。 高橋洋一会長、原英史社長はじめとする株式会社政策工房スタッフが、 直面する政策課題のポイント、一般メディアが報じない政策の真相、 国会動向などについての解説レポートを配信中!

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